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18.頼れる先輩?

 それで次の日。俺は蓮から貰ったライブチケットを持って、アイドルのコンサートが行われる会場へと向かった。


 会場は屋外ステージみたいな場所と聞いていたので、せいぜい数人くらいしか集まらないと思っていたのだが……


「何だこの人混みは……!?」


 この学園にはここまで人がいたのか、と思うくらいには人が密集していた。それに見たところ男子生徒だけではなく、女子生徒や教師と思われる大人まで集まっていた。


 ……こんなに集まるのなら、割引のチケットなんか配らなくても良かったんじゃ?


 それで未だに会場の雰囲気に慣れず、ステージの入口付近でキョロキョロしていると。


「むむっ、もしやキミ。あかりんのライブは初めてですかな?」


「えっ?」


 少し太り気味の、リュックを背負ったメガネ男子から話しかけられた。戸惑いつつも俺は返事をする。


「ええ、そうっすけど……どうして分かったんすか?」


 そしたらメガネ男子はニヤリと笑って。


「それは簡単ですぞ。キミは何もグッズを持っておらず、ライブTシャツも着ていない……そして!」


 その男子は近付いて、俺の胸に付けられた校章を指した。


「この赤色の校章で、キミが新入生だと言うことが分かるんですぞ!」


「……!」


 それを言われて少しドキリとしたが……その男子は見たところ、俺をそんなに毛嫌いしている様子は見られなかった。


 やはり特待生を嫌っているのは、一部の連中だけみたいだ……それが分かって一安心したよ。


「あぁ、そうだったんすね。ちゃんと一式装備してから、出直した方が良いっすかね?」


 言うとメガネ男子は大きく首を振って。


「いいや、別に何も持ってなくとも、ライブは楽しんでいいんですぞ! 次第に何度も通って、あかりんの魅力に気が付いて……それで興味が出てきたら、その時にグッズとかを買えばいいんですぞ!」


「へぇ、結構優しい感じなんっすね」


「ええ! 新規に優しくするのは当然ですぞ。新規が増えなきゃ、そのコンテンツは廃れますからな!」


「なるほどー」


 それはいい考えだと思う。具体的な名前は挙げないけど……初心者を放ったらかしにしていて人口がだいぶ減ったゲームとか、結構あるもんな。


「んじゃあもしかして、俺に色々と教えてくれたりしますかね? アイドルの応援方法とか……ライブの楽しみ方とか!」


 そう聞くとメガネ男子は、とても嬉しそうな表情を見せて。


「ええ、勿論ですぞ! 拙者は2年の織田勝男おだかつお、織田っちと呼んでもいいですからな!」


「俺は神谷修一っす。織田っち先輩、よろしくお願いします!」


「ええ、よろしいですぞ! まずは神谷殿、あそこの入口……あそこで入場料を払うのですぞ! チケットがあるのなら、そこで渡しておくと安くなりますからな!」


「はい、持ってますよ!」


「流石ですぞ! 神谷殿!」


 それで俺は織田っち先輩に色々と教えてもらいながら、会場へと入って行った。


 ──


 会場。結構立派な屋外ステージで、機材やライトも高そうなのが幾つも並んでいる。


 それで俺たちが見る席は自由ではあったが、当然ながら前の方は既に多くの人で溢れていた。


「んー。ここは大人しく後ろの方で見るっすかね?」


「いや! ここは1つ、話を持ちかけてみますぞ!」


「えっ?」


 織田っち先輩は俺の腕を掴み、前の方へとズンズン進んで行く。そして、最前列を確保していたオタク達に向かって声をかけた。


「ちょっといいですかな」


 するとオタク達は一斉にこちらを向いて、各々驚きの声を上げる。


「あっ、貴方は! あかりんファンクラブ団長の織田さんじゃないですか!!」


 団長……? 要するに、ここにいるファンの中のトップってことだよな。そんなに凄い人だったのか、この人は。


 そして織田っち先輩は「ふっふっふ」と悪役のような笑いを上げて。


「ええ、そうですぞ。それで少し提案なのですが……さっき新入生を見つけましてな。初めてのあかりんのライブですから、良い席で見せてやりたいと思いましてな。どうか前の席を譲っては頂けないですかな?」


「しっ、しかし……」


 まぁ幾ら団長といっても、必死に確保したであろう席は譲りたくないよなぁ……と後ろの方で思っていると、織田っち先輩は何か棒状の物をリュックから取り出した。


「無論タダではないですぞ。ここは……コレでいかがかな?」


 それを見た、オタクの1人が声を上げる。


「そっ、それは! あかりんサマーライブで初日に完売した虹色のペンライトじゃないですか!」


「何っ!? ここは俺が譲ってやるっ!」


「いや、俺が!」


「俺だっ!!」


「……」


 もみくちゃになって、奪い合いになりそうなことを直感したのか、織田っち先輩はそのペンライトを後ろに向かって投げた。


「何っ!?」


 そしたらオタク達はそっちに向かって、みな走り出していった。


「ふぅ、前が空きましたぞ」


「えっ……良かったんすか? あれレア物なんじゃないんですか?」


「まぁレアと言えばそうですがな。拙者はあと6本持ってますし……それに『あかりんのドリームラジオその13』でサマーライブグッツは今年も発売すると明言しておりましたからな。我は情強なので」


「……よく分かんないけど凄いっすね!」


 とりあえず……織田っち先輩は中々の曲者だということが分かったよ。


「うむ、それに拙者もこんなど真ん中の前で見るのは久々ですから嬉しいですぞ」


「そうなんっすか」


 まぁ毎回こんなハチャメチャなことしてるワケじゃないのが分かって良かった。


「あっ、応援グッズは心配しなくとも、我が貸してあげますからな……これとかどうですかな?」


 そして俺は織田っち先輩から、ペンライトとうちわを貸して貰う。うちわには『ピースして!!』と書かれていた……〇ャニーズのコンサートか?


「ああ、ありがとうございます。それで……あかりんって子は、こんなにも人気なんっすね。恥ずかしながら俺、全く知りませんでしたよ」


「んーまぁ、知らないのは当然と言えば当然ですがな」


「えっ?」


「あかりんはアイドルでありつつ、この学園に通う普通の女の子なのですぞ。だから本土ではほとんど知られていなくてですな……ですが! この学園で1番人気で可愛い女の子なのは間違いないですぞ!」


「へぇー! そうなんっすか!」


 1番可愛い女の子と聞いて、俺は露骨にテンションを上げる。


 まぁ要するに比喩表現ではない、マジモンの『学園のアイドル』ってことなのか。これは楽しみだよ。


「というか俺、島の外からアイドルが来たのかと思ってましたよ。こんなに人を集めていたから……」


「はははっ、そんなことは基本、起こりえませんがな」


「えっ?」


 織田っち先輩はグッズを用意しながら、俺に学園について教えてくれた。


「この学園……というかこの島は一方通行みたいなモノでしてな。サイコー学園から本土へ向かうのは簡単ですが、その逆は難しく……余程のことがない限りは、この島へは入れてくれないのですよ」


「えっ、そんなに厳しいの?」


「ええ。我の友人も何人か本土へ帰っていきましたが、誰1人として戻って来ることはなかったですな」


「へぇ……」


 そんな感じだったのか。道理であの時、藤野ちゃんが帰りたがらなかったワケだ。


「まぁ人じゃなくて物は多く入って来ますがな。例を挙げるなら……本土で発売された新作ゲームやゲーム機なんかは、次の日には店に大量に並んでますぞ」


「えっ? ……まさか。本土で度々起こっている買い占めの原因って……」


「そうと決めつけるのは早計ですが。まぁ、原因の1つになっているのは間違いないでしょうなぁ」


「……」


 そんな事情があったのか……全然知らなかったわい。


「何かこの島というか学園って……もう1個の国みたいっすね」


「確かにですな……あっ、そろそろ始まるみたいですぞ!」


 そう織田っち先輩が言った後、音楽が鳴り響いてき……ピカピカっと、ステージライトが照らされていった。

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