15.ロイヤルストレートフラッシュ
流石に俺のこの行動を読めた者はいなかったらしく、この場にいた全員は大きな動揺を見せていた。
「はっ、はぁっ!? 正気かよお前!?」
「正気も正気さ。それでどうする? そっちは降りないの?」
ここで俺はさっきの先輩と同じように煽ってみた。もちろんその理由は、勝負から降りさせるためではなく……勝負に乗らせるためである。
「……っ、ナメるなァ!!! 」
ほら、乗ってきた。
「そんな見え見えのブラフに、僕が引っかかるとでも思ったかッ……!」
そう言い、相手も高く積みあがったチップを一気に突っ込む。
「それでは勝負です」
ディーラーが合図するなり、二重人格先輩は瞳孔をバチバチに開いて。
「……っらァ!!! 見ろっ!!! 7の『フォーカード』だぁっ!!! お前の負けなんだよォ、クソガキィ!!」
汚い叫び声を上げながら、5枚のカードをテーブルに叩きつけた。
……フォーカード。確かに強い手ではあるが――俺の敵ではない。
「ふーん。ほい」
俺も5枚のカードをテーブルに並べていった。そしたら時が止まったのかと思うくらいの静寂の後……各々、驚嘆の声を上げていった。
「なっ……は、はぁ!? 嘘だろッ!?」
「まさか……ロイヤルストレートフラッシュ!?」
そう。10、J、Q、K、Aと並んだカード。そしてそのスート……トランプのマークは、全てスペードが描かれていた。ディーラーの言った通り、紛れもなくこの役は『ロイヤルストレートフラッシュ』である。
ワイルドカードのない場合、これが最強の役となる。それを俺は出したんだ。
だからこの勝負は、俺の勝ちになるのだが……どうやら結果に納得できない人が、ここにいたようで。
「ふっ……ふざけるなァ!!! こんなものっ、出るワケが無いだろッ!!! 」
もう二重人格ですらなくなった先輩は、椅子から立ち上がって叫んだ。
「んなこと言われたって、出たもんは出たもん。いやぁ、俺ってツイてるねー?」
「とぼけるなよッ!! これは不正だ!! イカサマだ!! 絶対に……絶対にお前がそんな役、作れるワケがねぇんだよ!!!」
……出したね、尻尾。
「ふーん……どうしてそこまで言い切れるのさ?」
「は?」
「限りなく低い確率を引き当てたから疑いたくなるのは分かるけどさ、それでもゼロパーセントじゃないんだよ。それとも……俺が役を作れないように、山札に仕掛けがあったんじゃないの?」
「は、はぁ? お前、何を根拠に……?」
先輩に若干の焦りが見えた。畳み掛けるのなら……ここしかない。
「よし、出番だよ! ボクっ子少女!」
「変な名前で呼ぶなっ!」
言いながらボクっ子少女は、後ろの方からやってきた。
「あれ……そういやコイツ、どこに行ってたんだ……?」
「知りたいのなら教えてあげるよ……俺はこの子に、さっきまでのゲームをスマホで録画するよう指示を出していたんだ。もちろんバレないように、ね」
俺の言葉で、みるみるうちに先輩の顔色が悪くなっていく。
「貴様、いつの間に……!?」
「へへっ、素敵なラブレターでしょ?」
「まさか……あの時か!」
そう。少女にリンゴジュースを渡した時に、俺はお願いのメッセージを書いていたんだ。『こっそりゲーム中の映像を撮影していてくれ』ってね。
そして俺は少女からスマホを貸してもらい、問題の映像をディーラーに見せつける。
「そんでディーラーさん……ここ、ボトムディールやってますよね?」
「……カジノでの録画及び録音行為は校則違反ですよ?」
「そりゃすんませんね。でもゲーム中のイカサマも立派な校則違反っすよ。この不正を学園側に告発すれば、俺以上にアンタらはポイントを失う……いや、それとも退学、ディーラーさんはクビかなぁ?」
「ぐっ……!?」
「さぞ頭のいい先輩方なら、これ以上騒ぎ立てて事を大きくするか、大人しく俺にポイントを支払うか……どっちが賢い選択か分かりますよね?」
それで先輩らは逃げ場のない、完全な敗北を理解してしまったようで。
「……ぐぬぬぬっ、くっ、クソぉぉおおおぉおおっ!!!」
叫びながら倒れ、床を何回も叩いた。そしてディーラーは無言で、このゲームで賭けられたチップを俺の前に動かした。
「へへっ、ポイントあざーっす……あっ、それと忘れない内にキミ! 端末返すからポイントの画面開いてて!」
「えっ?」
俺はスマホを少女に返す。そした少女は言われた通りに、画面を開いてくれたので……俺はポチポチと自分のタブレットを操作して。
「ええっとこうして……うん、出来た。5万ポイント送っておいたよ」
少女が騙されて奪われた分のポイントを送ってあげたんだ。
「えっ、ええっ!? そんな、これはオマエのだろ!?」
「いいんだってば。色々と協力してもらったし、そもそもコイツらイカサマしてたんだし……まぁ次から気を付けるんだよ?」
そう言って俺はその場から離れて、チップをポイントへと変換し……カジノから出て行くのだった。




