149.くだらないけど愛おしい
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……それから俺は全員分のチケットを袋に詰めて、再度リーダーのみんなに頭を下げ、この場を後にしたんだ。
それでクランハウスに着いた途端、疲れが溜まり過ぎたのか、とんでもない睡魔が俺を襲ってきて……寝室でも何でもないような場所ですぐに寝てしまったんだ。話によると、みんなも同じようにすぐ眠ってしまったらしい……何故か俺を囲むようにして寝てたんだけど。
そして迎えた次の日。予選の結果の集計ということで、集めたチケットを運営側に持ってって、チケットを回収してもらったんだ。その予選の結果は何日か後に出るらしくて、その間……俺は落ち着いて過ごせなかったんだ。
それでこのまま何もしないで、ただ結果を待つことが出来なかった俺達は、この時間を使って、行けていなかった蓮のお見舞いに行ったんだ。蓮の意識は未だ戻ってはいなかったけど……彼の顔が見れて、俺はほんの少しだけ安心できたんだ。
「……蓮。俺が絶対に仇を取るからな。だからお前も負けないでくれよ……!」
そうやって彼に伝え、俺は病室を後にした。次は『優勝した』って報告をしに行くから。それまでには目を覚ましておくんだぞ。蓮。
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それから、数日経ったクランハウス。
「さて……今日が決勝進出クランの発表の日だけど」
「結果はどうなりますかね?」
いよいよ今日、決勝進出クランの発表が行われるのだった。それで、例年では大々的な発表が特設ステージで行われていたのだが……何故か今年はそんなものはなく、ネット上での発表だけだと伝えられていたんだ。
どうしてこんな感じになったのか定かではないが、生徒会が絡んでいたりするのだろうか……? まぁ真相は闇の中だから、考えるだけ無駄なんだけどね。
「おっ、修一出たよ」
誰よりも先に朱里ちゃんの口が開く。聞いた俺らは一斉に、開いていたパソコンの画面に視線を向けると……そこにはクラン名が大きく載っていて……。
「なっ……!? 二つだけしかないぞ!?」
「ウチら『チーム神谷』と『生徒会』だけ……どういうことだろうね?」
そこには俺らと生徒会のクラン名しか載っていなかったんだ。ひとまず俺らのクランが載っていたことには安堵したが……これはどういうことだ?
「うーん……分からない。決勝に進むために必要なチケットが予想以上に必要だったのか、元々二つのクランしか決勝に進ませる気がなかったのか……」
「そんなのどうだっていいよ、シュウイチ。これで『決勝参加チケット』を奪った相手が生徒会ってことが確定しただろ? やっとヤツらをボコボコに出来るんだ」
……確かにそれは透子ちゃんの言う通り、蓮を怪我させた相手はもう生徒会で間違いはないだろう。だが、チケットも運営に手渡ってしまっているし、もう時間も残ってはいない。生徒会の暴行を暴いて、大会から引きずり下ろすことは難しいだろう。
だから。
「うん。俺らはゲームで、奴らをめちゃくちゃにぶっ潰す。その後に時間をかけて、奴らの悪事を告発していこう」
まずはゲームで勝つ必要があるんだ。それに優勝した後で、発言権を持った俺らが告発した方が、きっとそれが成功する確率は高いだろう。だから……この勝負、俺は絶対に負けられないんだよ。
「それで……決勝はどんなゲームが行われるんでしょうか?」
「それがシークレットになっているんだよね。詳しいことは当日にならないと分からないみたい……つっても、決勝は明日行われるらしいんだけどね」
「ええっ! そんなことあるの? それまで何してればいいのさ?」
「あっ、神谷君! ここに何か書いてるよ!」
ここで藤野ちゃんがトントンと液晶を叩いて、小さく書いてある文章を指したんだ。俺がそこを拡大して、その文を読んでみると。
「なになに……決勝戦は各クランから選ばれた代表一名で行われる、だってさ」
それを聞いたみんなは一斉に、俺へと視線を向けてきたのだった。
「えーっと。一人だけって……これ、俺が出てもいいの?」
言うとすぐに返事が返ってきて。
「ええ、当然ですよ!」
「いや、というかオマエじゃなきゃ、誰が出るんだよ」
「そうだよ! 神谷君じゃないと勝てないよ!」
「反対する人なんて、ここには誰もいないよ。思いっきり暴れてきなよ、修一?」
「んんwww神ちゃん以外ありえないwww」
そんな感じでみんな、俺を推薦してくれたんだ。ここまで俺を信頼してくれてるのなら……断る理由なんか無いよ。
「うん、分かった。俺がみんなの……朱里ちゃんのファンのみんな、チケットを渡してくれた各クランのリーダー。そして君ら仲間、蓮の想いを引っ提げて、俺頑張るからさ!!」
「その意気ですよっ! 王子様!」
そして真白ちゃんが俺を鼓舞するためか、精一杯背を伸ばして俺の頭をよしよしと撫でてくれたのだった。
「うーーああ~癒される……」
そんな光景を見ていた藤野ちゃんは、ちょーっとだけ不満そうな表情で。
「……それで、決勝は明日なんだよね? 神谷君は今日、どうやって過ごすの?」
そうやって俺に聞いてきたんだ……うーん、今日やることね。前にも言ってたと思うけど、レジェンド大会期間中はお祭りみたいな感じで、授業とかは休みになるんだ。だから他の生徒は、普段と違う日常を楽しんでいるんだけど……。
「遊んだりするのも悪くないけどさ。今日は決勝の準備をしようかなって思ってね」
「えっ、でも、どんなゲームが行われるか分からないんじゃ、準備のしようがないんじゃ……?」
「どんなゲームにも対応するのが、真のゲーマーだよ。じゃあそろそろ俺は買い物でも行こうかなって思うけど……ついて来る人いる?」
俺がみんなに向かってそう聞くと、勢い良く上がる手が複数あって。
「あっ、はいはい! 私行きますよ!」
「あ、じゃあ、またみんなで手を繋いで行くのはどうかな?」
「ふふー。なら次は私が修一の隣ね?」
「ぼ、ボクも隣でイイだろ!? イイって言え、シュウイチ!!」
「え、またウチはお預け食らうんですか!? やっぱり五番目の女にはみんな優しくしてくれないんですかにゃ!?」
「誰もそんなこと言ってないって……じゃあ、花音ちゃんは帰りに手繋ごう」
そう言うと、花音ちゃんは嬉しそうに両手を振り上げながら。
「ホントに!? わーい、やーったやった、やったったー!」
「GⅠレースにでも勝利したの?」
「えへっ、正解!」
「あははっ……」
本当に……くだらないけど愛おしい。こんな大切な場所を守る為にも、俺は絶対にヤツに負けられないんだ。そんなことを思いながら俺は、彼女達と手を繋ぎ……準備のためのお買い物へと出かけて行くのだった。




