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145.後に伝説のライブと……

「えっ、朱里ちゃんっ……!?」


 予想外の言葉に、思わず俺はたじろいでしまう……そんな俺を見た朱里ちゃんは、何も言わずに『してやったり』な顔を見せてきた。その見慣れた顔とフリフリなアイドル衣装は妙にマッチしていて、何だか朱里ちゃんの背後に黒い羽根とハートの尻尾が、一瞬だけ見えたような気がしたんだ。


 ……そしてアイドルのあかりんじゃない、ただ一人の少女の想いを聞いた客席のみんなは心を揺れ動かされたのか、一人、また一人と拍手をしてくれた。そしてそれは最終的に、会場全体を響かせるほどの大きな物へと変わっていったんだ。


 それを見た朱里ちゃんは、ゆるゆるーっと落ち着いたように微笑んで。


「ふふー。ほら、修一。みんな祝福してくれてるよ?」


 そうやって、俺に向かって言ったんだ。


「……あははっ! 本当に君は凄い子だよ!」


 朱里ちゃんはこのピンチを逆に利用して、ファンとの絆をより強固な物にし、ライブを続行させることに成功した……そしてそれと同時に、他の子と差を付けようと、この場で俺との距離を更に縮めようとしているんだ。


 『小悪魔』なんて可愛い物じゃない。こんなことを簡単にやってのけるなんて……それはもう『大悪魔』なんよ。いやまぁ……それがたまんねぇんですけどね!!!


「でもそいつ、他の子とも付き合ってるんだろ!? そんな奴にあかりんを渡していいのかよっ!?」


 そしたら前の方にいたオタクがまた叫んできた。うん……それはぐうの音も出ない正論で、俺からは何も否定できねぇんですけども……。


「大丈夫だよ。修一もアイドルみたいなものだからさ」


「へっ?」


「修一もみんなのアイドルだからさ、多くの女の子に好かれてるんだ。だからみんなの思っている『複数人と付き合ってる』とはちょっと違うと思うよー?」


 朱里ちゃんはファンにそうやって説明したんだ。うっ、うめぇ……!! 言い訳っていうか、言葉選びが尋常じゃないくらいうめぇわ……!! 確かにそうやって言えば、角が立たないかもしれないわ!


 ……と、そんな風に俺が感心していると、ステージの端からこっそりと藤野ちゃんが手招きして、俺を呼んでいるのに気が付いたんだ。当然、俺はそっちに向かう。


「藤野ちゃん、何かあったの?」


 そうやって聞くと、藤野ちゃんは嬉しそうな笑顔を見せながら。


「あのね、神谷君! 田中ちゃんからハッキングを解除したって報告があったんだよ! それで今はパソコンも無事に動いてるんだって!」


「おお、本当に! なら、ライブ再開できそうだね!」


「そうなの! だから私、また撮影の準備するよ!」


「うん、お願いするよ!」


 俺がそうお願いすると、藤野ちゃんは撮影の準備をし始めたんだ。そして俺はライブが再開出来そうなことを朱里ちゃんに伝えようと、俺が彼女の方に近づいてみると……どうやらその声は既に朱里ちゃんの耳に届いていたみたいで。


「みんな! ライブが再開できそうだって! こんな私でも、まだまだ応援してくれる人がいるなら……私、最後まで頑張るよっ!」


 そうやってファンのみんなに言った……そしてファンは野太い声を上げて返事をしたんだ。


 ……よーし。じゃあこの状況は何とかなったみたいだし……そろそろ俺は戻って音楽の準備をしなくちゃな。そうやって思った俺は、機材のある裏へと向かおうとしたのだったが……その行く手を藤野ちゃんが止めてきたんだ。


「神谷君! 裏には真白ちゃんが残ってるから、戻らなくても大丈夫だよ!」


「え、本当に?」


「うん! だから神谷君も、最後くらいは生でライブ見たらどうかな?」


「あ、うん。そうしたいのは山々だけど、流石にそれはみんなに悪いんじゃ……?」


「神谷殿! こっちに来るでござるよ!」


 そしたら客席の方から俺を呼ぶ声がしたんだ。慌ててそっちを見てみると……そこにはあかりんファンクラブの団長である、織田っち先輩の姿があったんだ。


「おっ、織田っち先輩! 良いんですか!?」


「ええ! 神谷殿に言いたいことは多くありますが……ともかく今は一緒にあかりんを応援しますぞ! 神谷殿が客席にいれば……きっと彼女も喜ぶでしょうからな!」


「……っ! はいっ! ありがとうございます!」


 俺はその言葉に甘え、織田っち先輩の隣に向かったんだ。そして周りのファンも嫌がることなく(嫌がってた人も多分いただろうけど)俺が応援出来そうなスペースを作ってくれたんだ。ああ、あかりんのファンは本当に優しい人ばかりだね……!


 それで。そこから見える朱里ちゃんの姿はまた少し違ってて。こんな多くの人に囲まれているのに、全く物怖じしていない朱里ちゃんの姿は、たくましくて。キラキラ輝いていて。みんなに夢を与えるアイドルのお手本みたいな……そんなことを俺は強く感じていたんだ。


「ふふっ! それじゃあ最後の曲、いっくよー? 準備はいいかなー!?」


「うおおおおおおおっ!!!」


 俺は恥も何もかも捨て去って、オタクらと一緒に目一杯に叫んだ。そしてその後すぐに音楽が掛かって、あかりんのオリジナルソングが流れ出したんだ。


 …………それで。俺は夢中で応援して。朱里ちゃんの歌声はもちろん、花音ちゃんと透子ちゃんの踊りもとっても可愛らしくて、素敵で……そして最後の決めポーズがバチっと決まった瞬間に、会場は割れんばかりの大歓声に包まれたんだ。


 ────


 ……後にこのライブは伝説のライブと呼ばれ、何年も語り継がれていくことになるのだが……その話はまたの機会にね?

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