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143.何もしてないのに壊れました!!

 それからライブが開始された。朱里ちゃんは持ち前のプロ級の歌と踊りを披露していって、観客を大いに盛り上がらせたんだ。花音ちゃん、透子ちゃんも所々踊りがあやふやな部分があったが、特に大きな失敗も無く。朱里ちゃんのバックダンサーをしっかりとこなしていったんだ。


 ……で、こっち側の裏方も、何とかミスは出さずに進めていけたんだ。俺が音楽を鳴らすタイミングもバッチリだったと思うが、本当に緊張したよ……一回一万円するオンラインクレーンゲームのボタン押すときより俺、手が震えていたと思うもん。


 ……そんなことを考えつつ、俺は裏の機材の傍にあるモニターに目を向ける。このモニターはライブの映像がリアルタイムで映されているのだ。ちなみに今更だが、このライブは現在ネットでも配信されている。もちろん撮影用の凄いカメラなんか用意出来なかったから、藤野ちゃんにスマホで撮影してもらっているんだけどね。


 それでネット配信している理由は、もちろん多くの人に見てもらうため。そしてより多くのチケットを手に入れるためにやっているのだ。もちろんオンライン上でもチケットスパチャ、歓迎だぜ……?


「ありがとう、みんなー! もしこのライブがいいなって思ったら、帰りにチケットを手渡してくれると嬉しいなっ! 希望なら握手とかもするよ!」


 モニター越しに朱里ちゃんの声がすると、次はリアルに遠くの方から、オタクの「うおおおお!!!!!」という盛り上がった声が耳に届いて来たんだ。やっぱ朱里ちゃんの力ってスゲーな。


「それじゃあ名残惜しいけど……そろそろ最後の曲いこうかな?」


「ええーーーっ!!」


 オタクは残念そうな声を上げる……やっぱりあるんだこの流れ。


「ごめんね! 今日は曲数少なめで、アンコールも無いんだ! でも次も絶対にやるから……その時にまた会おっ?」


「うおおおおー!!!!」


 もう何でも叫ぶじゃん。いやまぁその気持ちは分かるけど……まぁ、こっちもそろそろ最後の曲の準備しますかね……。


「……ん?」


 突如、客のざわめきの声が俺の耳まで届いてきたんだ……何だ、何かトラブルでもあったのか? その様子を見ようと、俺がまたモニターに目をやろうとすると。


「おっ、王子様!! なんか動かなくなりました!!」


「えっ?」


 俺の隣でコンピューターの前に座っている真白ちゃんが、焦ったようにそう言ったんだ。「なんだなんだ」と俺がその画面を覗いてみると、分かりやすく赤色の警告とエラーの文字が画面いっぱいに表示されていたんだ。


「なっ……!? どうなってんだこれ!?」


「分かりません!! 何もしてないのになりました!!」


「そっ、そっか!!」


「何もしてないのに壊れた」はあまり信用できない言葉だが、真白ちゃんが言うならそうなんだろう……彼女を疑うなんてことはありえないからな。しかし……このパソコンが壊れたとなると、ライブの進行にも影響してくるんじゃないのか?


「……って、何かもっと騒がしくなってない?」


 ここで無視できないほどに、客のざわめきが大きくなってきたんだ。そしていち早く異常に気付いた真白ちゃんは、モニターを指さして。


「ああっ、王子様! あのモニターを!! ステージの朱里さん達の後ろにあるスクリーンを見てください!!」


「え、な────っ!?」


 そのステージのスクリーン映っていたのは…………俺だった。校内だろうか。そこで俺と朱里ちゃんが仲良く、楽しげに喋っている映像が流れていたんだ。当然……こんな映像を撮られた覚えなど、全く無い。


「なっ……何だよ、これッ!!?」


 こんなの見せられたら、流石に俺だって動揺してしまう。だって意味が分かんねぇんだから。そしてそんな時丁度……俺の電話が鳴ったんだ。こんな物、取ってる暇は無いと思ったが……とある人物からの連絡なんじゃないかと思った俺は、考えを改めてすぐに電話を取ったんだ。


「もっ、もしもし!」


『神谷、私。田中。時間が無いから簡潔に話すね』


 電話の相手はソフィーちゃんだった。どうもこの様子から、朱里ちゃんのライブに異常が発生したことは分かっているようだった。


「う、うん! ライブ見ててくれてたんだね!」


『まぁね……それで神谷。これ今、何者かが神谷らのパソコンをハッキングして、映像をスクリーンに流しているみたいだよ。多分、その正体は生徒会だろうけど』


「クソ、あの野郎……!! それで、あの映像は何なんだ!?」


『見てればわかるけど、あれは神谷と葉山を隠し撮りした映像だよ。見たところ夏服着てるし、あれは結構前に撮られたやつなんじゃないかな?』


「前から映像を撮ってたのか!?」


『だね。五十嵐が倒れてもまだ諦めない神谷達に、生徒会はうんざりして……持ってた最後の隠し玉をようやく出したって感じだね』


「クソ……何でこんな時に、こんなことを!」


「まぁ絶好のタイミングだったんじゃない? 今集まっている葉山のファンを一気に敵へと変化させ、神谷達を潰す……最高なチャンス。奴らが逃さない訳ないよ」


「……」


 クソっ……ずっと蓮が危惧していたことが起こってしまったのか。奴らの目的は……俺と朱里ちゃんの関係を暴露し、ファンを全員敵にすること。そしてそれは今、着々と行われている……俺はどうすればいいんだ……!?


「ああ、王子様! 何だかあることないこと言われてますよ!! どうにか映像を止める方法はないんですか!?」


『ハッキングされてるから、こっちからどうこうして、すぐに止めるのは難しいかもね。こうなったら無理やり電源を落とすか、物理的にスクリーンを破壊するか……』


 ……駄目だ。そんなことをしたら怪し過ぎる。自らその映像を肯定しているような物じゃないか。それに電源を落としたり、破壊したりすれば、本来の目的であった『チケットの回収』という目的が達成出来なくなるじゃないか!


「か、神谷君!! 大変なことが起こってるよ!! みんな騒然としているよ!!」


 ここでライブの映像の配信を担当していた藤野ちゃんが、裏に戻って来た。息を切らし、目を見開いていることから、相当動揺していることが分かる……そうだ。誰よりも俺が一番冷静でいなきゃ駄目なんだ。だってみんなのリーダーなんだから。


「……」


 俺はもう一度考える。もちろん映像は止めたいが、無理やり電源を落とすような真似は出来ない。かと言ってこのまま流していると、間違いなく状況は悪化するだろう。ライブどころじゃなくなってしまうと、チケット回収が出来なくなる……つまり、本当に俺らの大会がここで終わってしまうことになる。


 それだけは……それだけは絶対に避けなきゃいけないんだ!!


「どうするの、神谷君!」


「……俺もステージに行く。それで、みんなに話そうと思う」


 ここで俺はそうやって提案した。俺がステージに行って、このことをファンのみんなに説明する……これが上手くいくか分からないけれど、このまま何もしないよりはきっと何倍もマシだ。


『まぁ、それが丸いかもね。一応、私はハッキングの解除に挑戦してみるよ』


「ありがとう。じゃあ俺、すぐ行ってくるよ!」


「分かりました。それじゃあ端末、預かっておきます。田中さんとも連絡繋いでおきますね」


「うん、分かった! 任せるよ!」


 そう言って俺は真白ちゃんにタブレットを渡し、ステージの方へと急いで駆けて行ったのだった。

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