140.最後まで足搔いてみせようよ
「神谷君……本気なの？」
藤野ちゃんは不安そうに聞いてくる。俺はその言葉に頷いて。
「うん。まだ俺らにだって、微かだけどチャンスはある。上手くいくかどうかは分からないけれど、作戦だって無い訳じゃないんだ……」
「……待ってよ。神ちゃん」
ここで今まで黙りっぱなしだった、花音ちゃんの口が開いたんだ。
「どうしたの？ 花音ちゃん」
「どうしたのじゃないよ、神ちゃん……何言ってるの！？ 今、仲間が意識不明なんだよ！？ウチらがやるべきことは大会に挑み続けることなんかじゃなくて、レンレンを怪我させた奴を探すことじゃないのっ！？」
「……！」
その言葉で……花音ちゃんから強く心臓を掴まれたような感覚がしたんだ。そうだよ。俺だって本当はそうしたいんだ。生徒会の奴らを捕まえて、全員思いっきりぶん殴って……蓮の仇を取ってやりたいんだ。でも……！
「……花音ちゃん。蓮を怪我させてチケットを奪って行ったのは、十中八九生徒会の奴らだ」
「そんなのっ、ウチだって分かってるよ！！」
「でも！ 本当に奴らがやったのか……確証が持て無いんだよ」
「確証……？」
「明確な証拠が無いんだよ。奴らはアリバイも作っている。チケットも隠し続ける……それらを暴こうにも、残り一日だけじゃ時間が無さ過ぎるんだよ！」
奴らの悪事を掴み、それを告発するには時間が足りなさ過ぎるんだ。情報屋の蓮がいない、今の俺らには尚更……とても厳しいんだよ。
「……ッ」
そしてそれを聞いた花音ちゃんは悔しそうな顔を俺に見せた……それは俺が初めて見る、花音ちゃんの苦しそうな表情だったんだ。
「花音ちゃん、分かるよ。仲間が大変な目に遭っているのに、何も出来ないなんて悔しいよね…………でもさ。俺、もし蓮がここにいたらなんて言うか考えてみたんだ」
「レンレンが……？」
「うん。アイツは同情されるのを何よりも嫌って、それでいて負けず嫌いだ。だから俺らが蓮のことでメソメソして、このまま時間だけが過ぎて大会が終わってしまう……なんて光景を見た日には、アイツから二度と口を聞いてもらえないかもしれない。『泣くくらいならとっとと行動しろ、馬鹿』って言ってくるに違いないよ」
「……」
「だからさ。アイツが。蓮が帰って来た時に怒られない為にもさ、今出来ることをとにかくやってみようよ。最後まで足掻いてみせようよ。だって俺らは……最強無敗のチーム神谷なんだからさ！」
「……！」
俺の言葉で徐々に、みんなの生気が戻って来ているのを感じたんだ。消えていた笑顔が、光が帰ってきたんだ。
「ええ、やりましょう王子様！ 五十嵐さんの為にも！ 私達は負ける訳にはいきませんからね！！」
「うん、その意気だよ真白ちゃん！！」
そして真白ちゃんの言葉をきっかけに、クランの雰囲気がどんどん戻ってきて。
「そうだねー。蓮のお説教は味わいたくないしー。もう少し頑張ろっかー？」
「わ、私もやるよ！ このまま終わって良いはずがないもん！」
賛同者が集まってきたんだ。そして透子ちゃんは、俺の服を引っ張りながら小さな声で。
「っ……ボクも。ボクも諦めたくない。もしもレンにヒドイことしたヤツがいるのなら……ボコボコにしてやりたいんだ」
「ははっ、よく言ったよ透子ちゃん！ 本当に君は強くなったね！」
「そ、そんなこと……」
そしてそのやり取りを見た、花音ちゃんも頷いて納得してくれたんだ。
「……分かったよ。ウチもやる。確かにこれでウチらが止まったら、それこそ奴らの思う壺だもんね」
「花音ちゃん……！ ありがとう！」
「お礼なんか要らないよ……ウチだって神ちゃんの仲間なんだ。だから私も戦うのは当然。だから神ちゃん……策があるのなら教えて？」
「もちろんだよ！ それで、俺の考えた作戦ってのはね……」
────数時間後。
「……で。何でウチがあかりんと一緒に、ステージに立っているのさ！！？？」
「ふふっ、とっても似合ってるよ、花音ちゃん！」
