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132.田中〇〇〇〇ちゃん

「ああ、確かに過去の情報を確認すれば、誰が落書きを消したのか分かるね。ま、その人物が私が持っているクランの中に所属していればの話だけど」


 田中ちゃんはそうやって補足をしてくれた……でも、俺はその中に犯人がいると踏んでいるんだよな。


「きっとその中にいるハズ……いや、いないとおかしいんだよっ!」


「……そこまでは言い切れないけれど。確かに私が持っているクランは、みんなレベルが高いから、この大会に招待されているクランがほとんどだね。だから……調べたら見つかる可能性は大いにあるかも」


「よし、田中ちゃん、見てみよう!」


「そうだね。私も気になるし、探してみようか」


 そして田中ちゃんはあれこれと端末を操作して、持っているクランのメンバーの位置情報を表示させた。マップ上には色とりどりの各クランのマークが表示されていき、そのマークは多すぎて文字が重なりまくって……その上に表示された名前は、読めたものではなくなっていたんだ。


「うわっ田中ちゃん、持ってるクラン多過ぎない……?」


「……えへへ。ここに表示されている奴らが、みんな私の手の平の上にいると思うと何だかゾクゾクしちゃうね」


「君も中々良い性格してるね……」


 俺が言えたことではないが、多分この子も相当ヤバイ子だと思う。だってもしもこのことがバレたら、退学どころじゃ済まないと思うもん……結構ガチ目な犯罪だもん……それを平気でやってのける所が、田中ちゃんの強みなのだろうか……?


「それで昨日の昼のコンビニにいた人物を探せばいいんだね……どれどれ……」


 そして更に田中ちゃんはマップの画面を弄って、日時や場所を昨日のコンビニへと指定したんだ。そしてそれを横から一緒に見ていると、見慣れた名前が一つ、俺の目に飛び込んで来たんだよ。


「あ、鳥咲花音って……これ確か神谷の所のメイド少女だよね?」


「うん、そう花音ちゃん! 花音ちゃんがその場を離れてから、田中ちゃんが来るまでにコンビニに来た人物……そいつが怪しいってことになるよね?」


「そうなるね。じゃあここからは刻んで、一分飛ばしで見ていくよ」


 田中ちゃんはそう言って、ポチポチ画面をタップして時間を進めて行った。それで……しばらくは誰も来ずに、ただの無人のコンビニが表示されていたのだが。途中で一つ、三角の形をしたマークがコンビニに向かってくるのが俺らに見えたんだ。


「あ。怪しい人物を見つけてしまったよ」


「誰だ誰だ……って。まさかこの三角のマークは……!?」


「そうだね。これは私と神谷が心底嫌っている、生徒会クランのエンブレムだね」


「はぁ……やっぱり」


 ……生徒会。まさかとは思っていたが……どこか絶対にアイツがやりやがったんじゃないかって確信していた自分がいたのも確かだった。ホントこいつら、どこまでも卑怯な手を使いやがって……!


「性格に言えば、落書き事件で怪しいのは生徒会長の久之池じゃなくて、ここに表示されている副会長の柊透ひいらぎとおるだね。彼は二十分くらいコンビニの駐車場から動かなかったみたい」


「クソ、如何にも副会長っぽい名前しやがって……!」


「怒るとこそこ?」


「冗談だよ……ともかく、これらが判明したことから、クロスワードに進んだのは俺らと生徒会の連中だけってことが分かる。だから俺は、奴らを相当警戒しなくちゃならないんだ……」


 喋っている途中で、まさか今も生徒会の奴らがこの会話を聞いているんじゃないかと思った俺は、急いで俺は周りを見渡したのだった。


「……ッ!」


 そしてそれを察した田中ちゃんは、手元の端末を見て一言。


「でも神谷、今はこの周辺には生徒会の表示は無いよ。だから安心してもいいんじゃないの?」


「いや……奴らはポイントを使って、一般生徒を雇っている可能性だってあるんだ。今俺の隣の隣でバッティングしてる人だって、一般生徒のフリしたスパイの可能性だってあるんだよ」


「そっか。でも警戒し過ぎても、何も出来ないんじゃない?」


「それはそうだけど……というか奴らの方こそ、今何してるんだ?」


 そうやって俺は疑問を口にしてみたら、田中ちゃんが調べてくれたみたいで。


「うーん、エリアのあちこちに散らばっているみたいだね。もう彼らもクロスワードは諦めて、普通のチケットを探してるんじゃないのかな?」


「あんな落書き消しておいてか……?」


 うーん……これらの生徒会の行動。どこか引っかかる気もするが……。


「でもとりあえず、今の俺がやることはホームランを打つことだよな。考えるのはその後からでもいいかもしれない」


 ともかく俺が最優先でやるべきことは、ホームランを打って、決勝戦参加チケットに一歩でも近づくことなんだよな。


「そうみたいだね。一応私らは同盟同士だから、情報は適宜渡してあげるよ」


「ありがとう、本当に助かるよ」


 俺は田中ちゃんにお礼を言うと、彼女は首を振りながら。


「そんなのいいってば……じゃあ私はひとまず仲間の様子を見に行くことにするから、神谷は引き続き頑張ってね?」


「分かった。頑張るよ! 色々とありがとね、田中ちゃん!」


「気にしないでいいってば。それじゃあ……」


「あっ、そうだ田中ちゃん!」


 聞き忘れたことがあったと、俺は彼女を引き留めた。


「どうしたの?」


「せっかく色々と聞いたんだからさ。最後に君の名前も教えてよ!」


 俺がそうやって聞くと、田中ちゃんは目を伏せながら怪訝そうな顔をして。


「そんなの知ってどうするの……?」


「いや、俺はただ知りたいんだよ! 田中ちゃんのことをもっと知りたいだけなんだよ!!」


「……本当に変なの。私なんか知ってもいいことないのに」


「あるよ! それは俺が田中ちゃんともっと仲良くなれるってことだよ!!」


「……」


 それで……俺の熱心さに心動かされたのか、はたまた鬱陶しくなったのか。


「……はぁ。分かったよ。言えば良いんでしょ?」


 そうやってぶっきらぼうに、田中ちゃんは言ってくれたんだ。


「うん! ありがとう!」


「…………」


 そして数十後経って……ようやく彼女は口を開いてくれたのだった。


「……ソフィー」


「えっ?」


「田中ソフィー。これが私の名前。笑えるでしょ?」


 田中ちゃんは力なく笑いつつ、同意を促してきた……俺はその田中ちゃんの言葉を遮るように、大きな声でこう発したんだ。


「いやっ! 俺はとっても似合っていると思うよ!」


「いいってば、そんなお世辞……」


「お世辞なんかじゃない!」


「え……」


「俺は本気で素敵な名前だと思ってるよ! だって……ほら! なんかすっごい錬金術とか出来そうな名前じゃん!」


「……」


「えっと……喋る本とか仲間にしそうじゃん!!」


「……」


「たーるっ、って言いそうじゃん!?」


 俺は随分前にやった、田中ちゃんと同名の子が主人公だったRPGゲームの特徴を羅列していったんだ。誉めるにしても、我ながらかなり理解不能な行動だが……。


「……ふふっ。本当に神谷っておかしな人だよ」


 珍しく田中ちゃんは、明るい表情で笑ってくれたのだった。


「え?」


「じゃ、もう全部さらけ出したし行くね。また私が来る前にホームラン打っておくんだよ、神谷?」


 そう言って彼女はその場から去ろうとしたのだが……。


「あ、うん! じゃあね! ソフィーちゃん!」


 俺の言葉でその足はビタっと止まるのだった。そして彼女はゆっくりとこちらを振り向いて。


「……人前でその呼び方は止めて?」


「何でさ!」


「恥ずかしいからだよ。分からないの?」


「いや、俺はとっても素敵な名前だと……」


「私はそう思ってないから、止めてよ?」


「ええー…………やっぱやだ!!」


「何でそこは頑固なの?」


 だって俺は、女の子のことは基本的に名前で呼びたいんだもん! まぁよくよく考えたら藤野ちゃんだけは苗字で呼んでるけど……何故か彼女のことは苗字で呼ぶのがしっくりきているんだよね。それに急に呼び方変えても彼女も困惑するだろうし。


 だから藤野ちゃんを差別してるとかそういったアレは全く無いから安心してくれよな! まぁ色々と言ったけども……ともかく、俺はソフィーちゃんって呼びたいんだよ!!!


「いいからソフィーちゃんって呼ばせてくれよ! お願いだよ!!」


「何か気持ち悪っ……」


 そうやって彼女は言ったが、俺の真っすぐな瞳に心を動かされたのか。はたまたまた心が折れたのか。


「…………はぁ。分かったよ。それは二人の時だけにしてね?」


 条件付きで、ソフィーちゃん呼びを許可してくれたのだった。


「わぁ、ありがとう! それじゃあまたね、ソフィーちゃん!」


「全く……本当に本当に変な人……」


 そうやって呟きながら田中ちゃん……改めソフィーちゃんはバッティングセンターから出て行ってしまったのだった。


 ……これ、外出た瞬間にソフィーちゃんが「めっちゃ嬉しい! どうしよう!!」みたいな感じで悶えてたらどうしようかな。まぁそんなことは絶対にないだろうけれど……俺が見なければその世界線もそ存在していたことになるんだよな。


 ほら、あれだよ、あれ。シュレディンガーの猫ってヤツ……でもあれって本来は意味がかなり違ってて……って、ん?


「何か随分前にもこんなこと言った記憶があるような……? デジャヴ?」


 ……まぁいっか。俺はソフィーちゃんが恥ずかしさで悶えている光景を勝手に想像しながら、再びバッターボックス内に入って行くのだった。

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