131.あれって趣味なの?
「何? 芸人の真似?」
「ノブじゃない!! ちょ、これっ何で田中ちゃんが見れるんだよ!?」
俺はその端末を差しながら、大きな声で彼女へと詰め寄ったんだ。だけども田中ちゃんは声色一つ変えずに。
「だから言ったじゃん。私は情報を盗む為に、藤野さんに近づいたって」
「い、いや……どうやってさ!」
俺が聞くと田中ちゃんは、ちょっとだけ考えるような仕草を見せて。
「うーんと……真似されたら困るから、詳しくは教えないけど。彼女に『携帯忘れたから、ほんの少しだけ借して?』ってお願いして……それでまぁサクッとね」
「人の善意になんてことしてくれてんだアンタは!」
思わず俺はフェンスの扉を開け、バットを持ったまま彼女の正面に立ち塞がった。もちろんそれには深い意味などは無かったが……彼女の表情は少し怯えた物へと変わっていったんだ。
そして田中ちゃんは一歩だけ後ずさりし、目を伏せたまま言った。
「それは……本当に申し訳なく思っているよ。でも、私はそれだけ神谷に勝ちたかったんだ。ただそれだけなんだ。まぁ……未だに一度も勝ててないんだけどね?」
「……」
俺は……彼女に対して怒りが無いと言えば嘘になる。俺の仲間を騙して情報を抜き取ったのは、紛れもない事実なんだからな。そいつが名の知らないただの悪人だったら、俺も容赦はしていなかっただろう。でも……。
「……でも。君はまだ藤野ちゃんと仲良くしてくれてるんでしょ?」
「えっ? それはまぁそうだけど……」
「だったら許すよ!! 俺は彼女の友達くらいまでなら、優しく出来るんだ!」
その相手が藤野ちゃんの友達だと言うのなら、俺は許してあげるよ。だってそんな大切な彼女の友人相手に酷いことなんて、とても出来ないからね!
そして……それを聞いた田中ちゃんは次第に、安心したような表情に変わっていって。微笑みながらこう言ったんだ。
「ふふっ、本当に変なの。自分で言うのもなんだけど、これって結構許されないようなことやってるんだよ?」
「それを言うなら田中ちゃんだってそうだよ! こんなこと黙っときゃいいのに、わざわざ俺に教えてくれるんだもん!」
「だって……隠し事は無し、じゃなかった?」
「ははっ、そっか! でもその言葉、さっき田中ちゃんから思いっきり否定された気がするんだけど……」
「そうだっけ? 覚えてないや」
「あ、そう……」
中々調子の良い子だな……でも人ってそんなもんだよね。数秒前の意見も平気でコロコロっと変わる生き物だもんね。
「それで俺の居場所が分かったのも……それを見たからだよね?」
「そうだよ。ついでに神谷のお仲間の場所も分かるよ。んーと、どうやらみんなゲームセンターに固まっているみたいだね。合ってる?」
「完全に合ってる……要するに君は端末をハッキングすれば、その人が所属しているクランメンバーの位置が分かるということだね?」
「そんな感じだね。まぁやろうと思えば、もっと色んなことは可能だけど」
「例えば?」
「勝手にその端末から電話を掛けたり、ボイスレコーダーをオンにして盗聴したり、メッセージを盗み見したり……」
「……やっぱり田中ちゃん、極悪人じゃない?」
「どうして?」
「だって俺が藤野ちゃんに送ったイチャラブメッセージを盗み見たってことでしょ!? これは許されないことだと思いますねぇ!!」
俺が丹精込めて藤野ちゃんに送った愛のメッセージも、田中ちゃんに読まれたってことでしょ!? やっぱり俺……この子を許せないかも!! だって恥ずかしいもん!!
「……興味ないから、そんなのはあんまり見てないよ」
田中ちゃんは目を逸らしながら言う。その言葉は一瞬だけ信じかけたけども。
「本当……でも田中ちゃん、俺が多くの女の子と付き合ってること知ってたよね!? それ、メッセージを盗み見したからじゃないの!?」
俺がさらに問い詰めると、田中ちゃんはもうそれ以上は隠そうとせずに。
「おお、鋭いね。じゃあバレちゃったから言うけど……藤野さんのカメラロールの中身も見させてもらったよ」
「……え?」
「神谷の女装、中々イケてたよ。あれって趣味なの?」
「あ…………う、うわあああぁぁぁあああっっっ!!!!」
俺は頭を抱え、叫びながらその場にしゃがみ込む……どうしよう。しばらくはまともじゃいられなかもしれない……そして俺は彼女を睨みつけながらこう言う。
「た、田中ちゃんの極悪人!! 犯罪者!! 学園にチクってやるっ!!!」
「じゃあ撮らせなきゃよかったのに」
「だって勝手に撮ってきたんだもん!! 撮影会が始まったんだもん!!」
「あ、そう……まぁ私はもっと凄いのが見れるんじゃないかって、ちょっとワクワクしていたんだけどね?」
「……もうこの話止めない?」
「ああ、そうだね。引き留めてごめん。バッティング再開したら?」
「そうするよ……」
俺はその言葉に従おうと立ち上がり、またバッティングエリアに入ろうと金網の扉を開こうとした……。
「……って、ああちょっと待って!」
……が、一つ気付いたことがあった俺はUターンして、また田中ちゃんに話しかけるのだった。
「何?」
「これだけ狡猾でアクティブな田中ちゃんのことだからさ。どうせ俺ら以外にもハッキングしたクランは幾つかあるんでしょ?」
そうやって俺は彼女に問い掛けた。それを聞いた田中ちゃんは感心したように。
「おお、やっぱり神谷は鋭いね。君の言う通り他にもいるよ」
「だと思ったよ……それで、当然その中には……」
「生徒会クランでしょ? もちろんあるよ」
「だと思ったよ。それでさ……その位置情報って、過去の記録も見れるんだよね?」
「そうだね。まぁ期限はあるけれど」
「何日間?」
「一週間だったかな」
聞いた俺は思わず指を鳴らす。そして俺は彼女に向かってこう言ったのだった。
「それだけあれば十分だよ……田中ちゃん。落書きを消した悪い奴らの正体、知りたくない?」




