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128.ここ択ですね

 そんなまさか……? 確かに落書きはあったし、現に俺には花音ちゃんが送ってくれた写真があるんだ。だから証拠を出せと言われたら、余裕で出せるんだけど……。


「神谷、それ本気で言ってるの?」


「あ、うん……」


「……」


 田中ちゃんは顔をしかめて、考える素振りを見せる……流石にこの反応は、演技や俺を探っているような物には全く見えなかったんだ。だから田中ちゃんを信じるのなら、本当にコンビニに落書きが無かったことになるんだよ。


 でも、もう一度言うけど、俺には花音ちゃんの証拠の写真があるんだ。仲間である花音ちゃんが、嘘や捏造でその落書きを作る訳が無いし、そもそもそんなのを用意する時間なんてある訳が無いんだよ。


 それに落書きから謎はチョコレート、本、クロスワードと続いているんだ。本は特別な方法で販売されていたから、これはちゃんと運営が用意した謎で間違いないんだよ。でもそれが……田中ちゃんが見た時には『無くなっていた』ことになるんだ。


「……神谷。一回話を整理したい。とりあえず神谷が知っていること、全部教えてくれない?」


 田中ちゃんは俺に向かってそう言った。彼女も俺と似て、謎を謎のままにしておきたくないのだろう……その気持ちは俺もよく分かるんだけども。


「……」


 ……だけど。本当に俺は彼女を信頼していいのだろうか? いくら生徒会を嫌っている者同士とは言え……共闘したことがあるとは言え、敵は敵だ。 いつ俺らの寝首を掻かれるかも分からない。俺の行動次第で、仲間が危険な目に遭うかも分からないのだ。


 でも……ここで情報共有することで、新たな発見もあるかもしれない。それに一時的な同盟を組むことで、この戦いや決勝にアドバンテージを付けることだってできるかもしれないんだよな。


 うーん……ここ択だな。ゲームだったら絶対にセーブする場面だが、この現実世界はセーブロードは使えないんだよ。だからもう直感で決めるべきなんだろうけど……でも……どうするかっ……!


 そんな感じで俺はずっと悩んでいたんだ。それで随分長いこと黙っていたのだろう。田中ちゃんは痺れを切らしたのか、本当に渋々……一枚の細長い紙きれを鞄から取り出したのだった。


「それは……?」


「……レインボーチケット。見れば分かるでしょ?」


「えっ!? 田中ちゃん!! それ見つけた──」


 俺が言い終わる前に、勢いよく田中ちゃんから口を塞がれた。


「……声が大きい。周りに人がいることも忘れないで」


「……!」


 田中ちゃんの小さな手で口を抑えられたまま、ゆっくりと俺は頷く……何でこんなスパイ映画みたいなシーンになってんだよ。それで俺が理解したと見るなり田中ちゃんは手を離し、ハンカチで自分の手を拭きながら。


「はぁ……神谷はもっと周りに見られてる自覚を持って欲しいよ」


「田中ちゃんもね……? そんな一生懸命ゴシゴシ拭かれると、俺の口が汚いみたいじゃないか……」


「口元にどれだけ細菌が付着してるか教えてあげようか?」


「け、結構です……」


 本当にこの子は思ったことをズバズバ言ってくるなぁ……まぁ、今まで会ったことのないタイプの子で面白いとは思うんだけど。そして田中ちゃんはハンカチをポケットにしまって。


「……それで話を戻すけど。あのチケット……いや、あの紙らのことを以下『A』と呼ぶことにするよ」


「それ余計に目立たない?」


「じゃあ神谷が呼び名を決めてよ」


「えっ?」


 そんなことを急に言われても、パッと思いつかないんですけど……そもそもコードネームみたいなのを付ける意味ってあるのかどうか……いや、そんなこと言ったら面倒なことになるだろうし。もう適当に付けよう。


「じゃあ……ハンバーグで」


 俺は今食べたい昼食を口にした。そしたら田中ちゃんは、特に突っ込んだり笑ったりする様子も無く。


「分かった。私が神谷に虹ハンバーグを見せたのは『もう自分が決勝戦ハンバーグを狙っていない』と言うことを証明する為だよ」


 そうやって華麗に使いこなしてみせたんだ……ふむ、なるほどねぇ。一瞬賄賂的な物を想像してしまったけど、田中ちゃんはそんなことはしないだろうし。これを見せることによって、決勝チケットを狙っていないことをアピールし、決勝チケットに関する情報を言いやすくしてくれたってことね。


「ああ、なるほど。確かにそれだったら俺が喋りやすくなるね……ま、そのハンバーグが本物かなんて証拠はどこにも無いんだけどね?」


「……」


 そしたら田中ちゃんは表情一つ変えなかったものの……爪が食い込む程に、拳を握っているのが俺の目に入ったんだ。


 ……め、めっちゃ怒ってるやん!? クールな子だと思っていたけど……意外と透子ちゃん並みに感情が分かりやすい子なのかもしれないな……?


「あ、あはは、冗談だって! 俺は田中ちゃんのこと信じてるよ?」


 慌てて俺はフォローに入る。そしたら田中ちゃんは視線だけこっちに向けてきて。


「……本当?」


「ホントホント! だから……そんな怒んないでよ?」


「……!」


 それで心情が読まれたことに驚いたのか、田中ちゃんは一瞬だけ目を見開く。そして自分の中で何か考えが決まったのか。


「……分かった。神谷が信じてくれるのなら、私も持ってる情報を全部話すよ。でもその前に……この落書き事件の真相を二人で解明しよう」


 ちょっとだけ素直になってくれたんだ。


「うん、おっけー! これで俺らの同盟が結ばれたね!」


「そんなの結んだつもりはないけど……まぁいいや。折角だし神谷のごっこ遊びに付き合ってあげるよ」


 そうやって言う割には、少し嬉しそうに声を弾ませる田中ちゃんであったんだ。

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