126.ゲーマーの運動神経はマジで人それぞれ
それを聞いた蓮は、さっきまでのイケメン優男の姿は何処へ行ったのやら……眉間にしわを寄せ、引きつったような苦い顔を俺に見せてくるのだった。
「いや、神谷……ゲーセンの方は何とかなるかもしれないが、バッティングの方は流石に厳しいんじゃないのか……?」
「かもね。でも、他の問題は少なくとも一日以上時間が掛かちゃうんだ! だから、一発ホームランをぶち当てるだけで、達成できるこれを狙うしかないんだよ!」
「しかし……というかそもそも、それは誰が担当するんだ?」
「もちろんこれは俺がやるから大丈夫だよ! ゲーセンの方は蓮と真白ちゃんを中心に、全員で挑戦してくれ! 俺も電話越しでなら多少はアドバイスは出来るだろうからさ!」
「だが……」
続けて何か言いたそうだったが、ここで花音ちゃんが蓮の言葉を遮ったんだ。
「……分かった。じゃあ頑張ってね、神ちゃん」
「おい、鳥咲……!」
「だって、神ちゃんを頼れって言ったのはレンレンでしょ? それに……ウチは神ちゃんがやってくれるって信じてるからさ。だからウチらは頼まれたことをやり遂げようよ。きっとそれが、ウチらの勝ちに繋がることだろうからさ?」
そう言って花音ちゃんは刻々と、外へ出る準備をし始めたんだ。俺はそんな彼女に近づいていって……拳を前に差し出すのだった。
「ありがとう花音ちゃん! 俺も花音ちゃんの力に期待してるよ!」
「にゃはっ! 神ちゃんこそ!」
そう言って花音ちゃんも拳を出してくれて、俺らは軽くグータッチを決めたんだ。
「俺らが次に会う時は!」
「クロスワードが完成する時、だね?」
そんな光景を見た真白ちゃんは、目を輝かせながら手を合わせて。
「わぁっ……! お二人とも、とってもカッコイイです!」
「いや、アイツらは自分の世界に酔ってるだけだろ……?」
まぁ……そんなこんなで蓮も納得してくれたようで。俺らは軽く朝食を取った後、それぞれの戦いの場所へと赴いたのだった。
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そして一時間後。一人でスポーツエリアに行った俺は、例の170キロのバッティングに挑戦していたのだが……
「あ、当たんねぇわ……」
……未だ一度もボールを当てられずにいたのだった。
「こんなの、プロでも難しいだろ……!?」
つーか何でこんな高性能なピッチングマシンが、この学校にあるんだよ!! 野球部とか全然ねぇのに!! パワプ〇だって、レベル3にならないとマシン打撃の練習は出来ないんだからな!?
……脳内でそんな愚痴をこぼしつつ、俺はバッターボックスにしゃがみ込んだ。
「はぁ……」
俺のゲームの腕はもう十分に理解してくれてるだろうが。俺のスポーツの実力はと言うと……本当に普通なんだよ。まぁ他の人よりは多少、反射神経や判断力は優れているかもしれないが……特別、パワーやスピードがあったりするわけではないのだ。
……じゃあ何でこんな問題選んだんだよって? それは理論上、最速で終わらせることが出来る問題だったからだよ。理論上……それとさっきも言ったけど、他の問題は余裕で何日もかかりそうだったから、これをせざるを得なかったんだよ。
つっても……これほど難しいとは思わなかったんだけどね。やっぱり蓮にこっちを頼むべきだったか? いや……流石にそれは出来ねぇわ。だってアイツ、俺より運動音痴だもんな……チャリ乗れたのも最近だし。
それに当然、彼女らにこの問題を任せる訳にもいかないし……だから、この試練は俺がやり遂げるしかないんだよっ!
そうやって決意した俺はまた立ち上がり、バットを片手にバッターボックスに立ってポイントを支払い(当然バッティングセンターなので、ポイントは毎回容赦なく取られる)。170キロの剛速球に挑戦するのだった。
「さぁ……来い!!」
液晶画面に表示されたピッチャーは大きく振りかぶり、投げのモーションが終わったと同時に超スピードのボールがマシンから発射される。
「……フッ!」
しかし俺のバットは空を切り、ボールは緑のネットに勢いよく跳ね返ったのだった。そして何事も無かったかのように、ピッチャーは続けて二球目を投げてくる。
「……ぬぅっ!!」
しかし俺のバットは空を切り、ボールは跳ね返る。そして三球目。
「……だァっ!!」
空を切り、跳ね返る。四球目。
「……どラぁ!!」
俺棒空切玉跳返。五球目。
「……どああッ!!!」
……以下ループ。何かずっと空振りしていると、何でこんなことやってるんだろうって気分になってくるよ。虚無になっちゃうよ。誰か……孤独を紛らわせてくれる人でもいてくれたら、もう少し頑張れるのになぁ……!
「……こんな所で何をしているの? 神谷修一」
「へっ?」
不意に自分の名前を呼ばれて、俺は反射的に振り返る。すると金網フェンス越しの向こうには。水鉄砲大会で俺と共闘してくれた、クールビューティーな不思議ちゃん……もとい、田中ちゃんの姿がそこにはあったんだ。




