123.「再現VTRかよ」
続けて俺は言う。
「じゃあここで、透子ちゃんにでも問いかけてみようか……透子ちゃん。『7×12』の答えって何になると思う?」
「えっ!? えっと……えっと……はちじゅう……よん?」
透子ちゃんは急に俺から話を振られ、驚いた感じだったものの……何とか時間をかけて、正解を言い当てることが出来たのだった。
「おお、正解! よくできたねー! 透子ちゃんは天才だよー!」
「とっ、当然だろっ!?」
「……馬鹿にされてるって教えてやるべきなのか?」
蓮はボソッとそう言う……が、その言葉は透子ちゃんの耳には届いていなかったようだった。ふぅー、セーフセーフ……まぁでも別に、俺は透子ちゃんを馬鹿にしてる訳じゃないんだよ?
透子ちゃんは自己肯定感がまだ低めだから、こうやって俺が頼るような素振りを見せて、自分に自信をつけさせようとしているだけなんだよ。後はまぁ……透子ちゃんが自力で解けそうな問題が、これぐらいしか無さそうだったからね……。
……いやいや! もう一度言うけど、馬鹿になんかはしてないからな!? ホントだぞ!
「それで神ちゃん、その数字に何か意味があるの?」
「うーん、そうだねぇ。何かしら意味はあるんだろうけれど、特に思いつかないから……とりあえずコンビニにも入ってみようか?」
「入るの?」
「うん。それで84に関連する何かを見つけてみよう。例えばそうだね……84ポイントで売っている商品を買ってみるとか、どうかな?」
そこでまた、呆れたような蓮の声がして。
「おいおい神谷……幾ら何でもそれは意味が無いんじゃないのか? 流石にこじつけが過ぎるし……」
「それだったらそれでいいの! 意味がなかったってことを知るのも大切なことなんだからさ! エジソンも言ってたでしょ?『私は失敗したことがない、一万通りのうまくいかなかった方法を見つけただけだ』って!」
「発明王の名言出されてもなぁ……あとそれ、諸説あるらしいぞ?」
「マジで?」
……と、そんな話をしている最中、花音ちゃんの大きな声が聞こえてきて。
「……あっ! 神ちゃん神ちゃん! チョコレート菓子が84ポイントで売ってるよ! しかも目立つところに大量に積んで置いてある! 誤発注したレベルだよ!」
「お、ホントに!? 当たりじゃん!」
「んなアホな……」
まさかのまさか、俺の読みは当たっていたようだった。まぁこれが運営側が用意した、トラップだという可能性も否めないが……そこはエジソンっちの教えの通り、行動する以外はありえないだろう。
「よし、花音ちゃん、それを買うんだ!」
「うん、今買ってるよー……って、あっ、はい……はい……?」
……ん? 誰かと会話しているのか?
「ああ……じゃあ適当にぶっこんどいて下さい」
いや何の話してんの……?
「花音ちゃん? どうかしたの?」
俺がそうやって呼びかけると数秒後、コンビニの入店音と一緒に花音ちゃんが反応してくれて。
「いや、神ちゃん、あのね! チョコ買ったら、店員さんが謎の紙くれたんだよ! なんか『チョコだけ買った人に渡してます。質問は受け付けません』って言ってた!」
紙……まぁ、とりあえず俺の読みが当たったということで、間違いないみたいだ。
「なるほど……やっぱりあそこのコンビニは大会側が絡んでいたみたいだね。それで紙には何か書いているの?」
「うん。何だか適当な英語と数字が書かれているよ。これも送ろうか?」
「ああ、お願いするよ」
そしてまたグループのチャットに、花音ちゃんから一枚の写真が送られてきたのだった。それを見てみると……そこには16桁の英数字が並んであったんだ。俺は少しだけ考えてみたけれど……その英数字には、法則性が見つけられなかったのだった。
「うーん。これはまた暗号の類でしょうか?」
「だったらまた、五十嵐君に解いてもらおうよ!」
「藤野、お前なぁ……」
何だか蓮が困ってそうだったので、ここで俺は助け舟を出してやったんだ。
「……これは法則性が無い。だから多分、この数列に意味は無いと思うよ」
「ええっ!? 意味ないことはないだろシュウイチ! こんな謎解きして手に入れたんだからさ!」
「違うよ。この文字列に意味がないって言ったんだ。このコードらしきもの使う場面はきっとある筈だ……それで。意味があるのは多分こっち、チョコの方だ」
「チョコ?」
「うん、花音ちゃん。そのチョコってどこのメーカーの物かな?」
俺がそうやって聞くと、花音ちゃんは困惑したような声を上げながら。
「えっ? えっと……あれ、あれれっ!? 何も書いてないよ!?」
「おいおい。何も書いてないことはないだろ……?」
「いやいやレンレン、ホントだよ!? 真ん中におっきく『チョコレート』って書いてるだけなんだもん!」
「カタカナで?」
「カタカナで!」
「再現VTRかよ……」
ちょっとそのツッコミは面白い……ま、これは明らかに、この大会の為だけに用意されたチョコレートで間違いないみたいだ。
「じゃあ花音ちゃん、裏には何か書いてあるかな?」
「裏は……ってうわ、キモっ! なんかびっしり書いてあるよ!?」
「びっしり?」
「うん、なんか『このチョコレートは産地にこだわり~』どうのこうのって、長文でめちゃくちゃズラズラと書いてるよ! 意識高い系だよ! 84ポイントのくせに!」
「じゃあその写真も送って貰えるかな?」
「あ、うん。いいけど……」
わざわざオリジナルのチョコを作るくらいだ。大会側だって、こんな意味のないことに時間はかけないだろう……つまりこの中にヒントが。チケットに繋がる次の一手が、この中に潜んでいるってことで間違いないだろう。
そして花音ちゃんから共有された写真を、俺は眺めた……隣の真白ちゃんと朱里ちゃんも俺のパソコン画面を見て、考えるような素振りを見せたのだった。
「うーん……不自然な点は見当たりませんね。あ、いや、こんなチョコレート菓子に十行近く説明文をのっけていること自体は不自然なんですけども」
「修一、縦読みでも斜め読みでもないみたい。分かったのはそれぐらいかなー?」
「……」
俺も一通り確認してみたが、特におかしなところは見つけられなかった。朱里ちゃんの言った、縦読みや斜め読みという線も考えてみたが、これらを作る時って先に伝えたい文を考えるから、多少無理やりで違和感のある文章になるんだよな。
だけどこの文章には違和感は見当たらない。でもこの中に何かあるのは間違いないんだが……なら、他に考えられるのは、暗号を作る奴が相当な腕の持ち主ってことか。あるいは…………もっと単純で、子供だましのような暗号ってことなのか?
……となると。思いつく答えは一つしかなくて。
「……84。84文字目は?」
「えっ? えっと……いち、にー、さん、しー……」
一文字ずつ数えていく透子ちゃんに対し、それより先にその文字数にたどり着いた藤野ちゃんが声を上げて。
「ああっ! 本だよ! 神谷君!!」
「ええっ!? ユイナ、どういうことだ!?」
「ここだよ透子ちゃん!『チョコレート本来の風味を~』の『本』の部分! これが84文字目になるんだよ!」
「ってことは……それが答えなのか!?」
藤野ちゃん言うそれで間違いないだろう……確信を持った俺は、みんなに聞こえるように大きな声でこう指示を出したんだ。
「よし! それじゃあブックのアプリを開いて、そのコードを入力してみるんだ!」
そしていち早くコードを打ち込んだ真白ちゃんが、その画面を俺に見せてきて。
「あっ! 出てきました! そして……どうやらこの本の作者は、学園側の人のようです!」
「ビンゴ! それじゃあその本を購入するんだ!」




