121.ここまで言えば分かるよな?
そして大会当日、俺はクランハウスで大会開始の合図を待っていたんだ。俺の目の前にはそこそこ高性能なノートパソコン、そして飲みかけのエナジードリンクが置かれていた……要するに準備万端って訳である。
「あー。んー。何だかちょっとだけ緊張しちゃいますね、王子様?」
俺の右隣に座っている真白ちゃんは、ソワソワしながらそうやって言った。
「そうだね……でも俺はそれ以上にワクワクしてるよ。だってこんなにも大規模で、体験したことのないようなレベルの大会が行われるんだからね!」
「ふふーっ。やっぱり修一は生粋のゲーマーだね。でもそんなに楽しみにしてるなら、修一も外で探してくればいいのにね?」
そして俺の左隣に座っている朱里ちゃんは、笑ってそう言うのだった……はい。皆さんご察しの通り、今このクランハウスにいるのは、俺と真白ちゃんと朱里ちゃんの三人だけなのである。
どうして大会が始まりそうなのに、二人がこの場にいるのか……もちろんそれにも理由はあって。真白ちゃんは身体が弱くて、外で長時間チケットを捜索するのは大変だと思ったから。朱里ちゃんは人気過ぎてファンに囲まれて、自由に動けなくなると思ったから、ここで待機させることにしたんだよ。
……ま、もちろん二人とも頭の切れる人物だから、クランハウスから指示を出したり、問題を解いたりしてくれることも期待しているので、役割が無い訳では無いのだよ。というかむしろ、この裏方の方が重要なポジションなのかもしれないね?
それで、何で俺もクランハウスに残っているかと言うと……。
「俺もそうしたかったんだけどねー。生徒会の奴らは、俺を監視しようと考えてるみたいなんだ。だから俺、迂闊に外に出られなくなっちゃったんだよ」
『神谷の足を引っ張り隊』でお馴染みの生徒会クランは、俺を尾行しようと計画していたらしいんだ。だからチケットの場所を嗅ぎ付けられたりだとか……まぁ、絶対面倒なことになりそうだったから、俺も大人しく引きこもることにしたんだよ。
……ちなみにこの情報は、生徒会クランの下から二番目くらいの奴にポイント握らせたら、ゲロッと全部教えてくれたんだ……お前らの絆、ひもQ並みに脆くない?
「ああ、そうだったんだー。修一は私よりも人気者になっちゃんだね?」
「王子様が他の子にも人気になっちゃって、ちょっとだけ寂しかったりします……」
真白ちゃんは少し悲しそうに言う……好きだったバンドが売れてちょっと熱が冷めちゃったりするやつね? ……まぁその気持ちは分からなくも無いけどさ。
「でも、俺と朱里ちゃんの人気の種類は全然違うよ。朱里ちゃんは純粋なファンが大多数だけど、俺のは弱みを握ろうとしたり、妬み嫉みで恨んでるような奴ばかりだもん……」
果たして純粋な俺のファンっているのだろうか……などと考えていたら、片耳に付けていたイヤホンからノイズが入ってきて。
「おい、聞こえるか神谷」
聞きなれた、不機嫌そうな蓮の声が聞こえてきたんだ。もちろん今回もクランハウス側と捜索側で連絡が取れるように、事前に通信を繋いでおいたのだよ。
「うん、聞こえるよ」
「ならいい。それでちょうど今、大会開始の合図が鳴って一斉に動き出したぞ。それで決勝チケットのヒントも解放されただろうから、至急確認してくれ」
「お、あいよー」
言われて俺はカチャカチャとキーボードを叩いて『決勝戦参加チケット』のヒントのあるページを開いたのだった。
「どれどれ……ってこれ……」
そこには二つの文章が。『んそね゛わおせぬくわの゛とみげし』と『Don’t forget your first resolution』と書かれてあったんだ。
「……なーんか見覚えのある文だねぇ」
「えっと……これ、英文の方は『初心忘るべからず』という意味みたいですね」
「んー? 最初の気持ちを忘れるなってこと?」
気持ちと言うよりは『resolution』には決断という意味もあるから……直訳するなら『最初の決断を忘れるな』って感じだろうか。ま、なんにせよ俺の直感通りの考えで正しかったみたいだ。
俺はマイクを口に近づけ、みんなに聞こえるようこう発した。
「このゲームは俺達一年だけじゃなくて、二年も三年も参加しているんだ。これら全員が共通して最初に行ったことと言えば……蓮、ここまで言えばわかるよな?」
「何でわざわざ僕に言わせるんだよ……受験だろ?」
「正解! そして記念すべき問一は!」
「まぁ試験問題が変わっていないとするのなら『1+1』……つまり2になるってことだろ?」
「そう! そしてその文章に+2するんだ!」
聞いた蓮は「はぁ……」といつものため息を吐いた後に。
「どうせそんなことだろうと思ったぜ……えっと……い、ち、ば、ん、き、た、の、こ、ん、び、に、め、ざ、せ。『一番北のコンビニ目指せ』か」
「完璧だ! よし真白ちゃん、最北端のコンビニを教えて!」
俺が指を鳴らしそう言うと、真白ちゃんは端末でコンビニを調べてくれて。
「はいっ! え、えっと……北港店の『セブントゥエルブ』のようです!」
「オッケー! そこに最速で向かえる人は誰かいない?」
俺がそうやって聞くと、花音ちゃんの元気な声が聞こえてきて。
「じゃあウチが行くよ! スケボーあるし!」
「おっ、そっか! じゃあお願いするよ!」
「にゃははー! 任せてよー!」
そしてその笑い声と同時に、ガラガラとスケボーを走らせている音が、俺らの耳にも届いてきたのだった。




