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117.きっと退屈はさせないからさ?

「ごめん! おまたせ!」


 そう言って俺は、花音ちゃんが入ったゲームの部屋へ訪れた。それで花音ちゃんはあまりの速さに少し驚いたのか、一瞬だけ目を丸くさせて。


「えっ、いやいや、全然待ってないってば……それより神ちゃん。ましろんとはもう大丈夫なの?」


「ああ、それは大丈夫だけど……もしかして何があったのか聞いてたの?」


 そう聞きながら、俺は腰を下ろす……そして花音ちゃんは首を縦に振ったんだ。


「うん。ゆいにゃんから話は聞いてたんだ。それで神ちゃんが寝ている間、ずーっとましろんは落ち込んでいたんだよ。『王子様に酷いこと言って、嫌われてしまいました……』ってね」


「そうだったんだ……でも、もう大丈夫だから! ちゃんと仲直りしたからさ!」


「そっか。それなら安心したよ」


 そう言って花音ちゃんは、優しく微笑んでくれたんだ。


「……」


「……」


 そしてお互い無言の時間が流れる……別に気まずい訳ではないのだが。こうやって花音ちゃんと話すのは、あの事件以来のことで……何を話したらいいのか、どんな風に喋ればいいのかがよく分からなかったんだ。


 ……そんな困った俺を見たのか、花音ちゃんは特有の笑い声を上げたんだ。


「にゃははっ。何だか色んなことが重なり過ぎて、何から話せばいいのか分かんないね?」


「そうだね……何だかあの日は、フィクションの世界に放り出されたような一日だったもん」


「確かにそうだね……ね、神ちゃん。改めてだけど……神ちゃん達に迷惑かけて、心配かけて。本当にごめんね?」


 そこで花音ちゃんはペコっと頭を下げたんだ。こんな一日に何回も女の子から謝罪されるなんて、なんて俺は罪な男なんだ! ……じゃなくて!


「いやいや、全然全然! 何度でも俺は言うけど……花音ちゃんが無事でいてくれたってこと、ただそれだけで良かったんだからさ!」


「怪我して停学にもなったのに、そんなこと言えるなんて……神ちゃんは本当に凄い人だよ。神ってるよ」


 花音ちゃんは顔を上げつつ、俺を拝むように手を合わせてきたんだ。


「あははっ。ありがとう……でももうその言葉、流行ってないけどね?」


「じゃあ……神っぽい?」


「君は本当に頭の回転が速いんだねぇ……」


 感心したように俺は頷く……それで花音ちゃんは拝んでいた手を止めて。


「いやでもホントホント、神ちゃんがモテモテな理由が分かったもん。ウチも神ちゃんのこと王子様って呼んじゃおうかな?」


「俺は別に構わないけど……それ、真白ちゃんが黙ってないんじゃないかな?」


「にゃはは、確かにねー?」


 花音ちゃんはまた笑って笑顔を見せてくれたんだ……それで、いつもの自然な感じが戻って来たと感じた俺は、気になっていたことを聞いてみることにしたんだ。


「それでさ花音ちゃん。あの日、俺から離れた後……何が起こってああなったのか、教えてくれないかな?」


「……!」


 聞いた花音ちゃんは何かを思い出したのか、ビクっと反応したものの。自分の中で覚悟を決めたのか……息を整えて、話を始めるのだった。


「うん……あのね。ウチが神ちゃんのとこ離れて公園で一人、泣きながらこれからどうしたらいいか悩んでいたんだ。そしたら……男の人が声を掛けてきたんだよ」


「そいつが……あの暗黒竜の奴らだったの?」


「そう。その人は優しくウチに『行くところがないなら俺らのとこに来ないか」って言ってくれたんだ。ウチもこれからどうするか悩んでいたから、それに乗っちゃったんだ。だけど……それが間違いだったんだね」


 花音ちゃんは恥ずかしそうに、頬をポリポリと掻く。きっと彼女も悩んでいたからこんな迂闊な行動を取ってしまったのだろうな……でもそれは責められないよ。


「最初はウチを丁重に扱ってくれたよ。でもみんなと夕飯を食べた後、急に眠たくなっちゃって……それで気が付いたら、ロープで椅子に縛られてたんだ」


「……クソ、酷すぎるよ。もっと俺が早く助けられていれば……!!」


 俺は自分の拳をギュッと握る。それが見えたのか、花音ちゃんは焦ったように。


「ああ、そんなのいいってば! たらればの話をしたって意味無いよ!」


「そうだよね。ごめん……それで……その……何か…………エロいことされたの?」


「……神ちゃんってデリカシー無いんだね?」


 花音ちゃんはジト目で俺を見つめてくる……完全に聞き方ミスってしまった。でも花音ちゃんはそれ以上怒ったような素振りは見せず、ただ俺を無言で見つめてくるだけであったんだ。まぁそれが逆に怖いんだけどね……


「これでも精一杯、言葉を探したつもりだけど……見つからなかったんだ。許してくれ! ……なんなら気が済むまで俺をぶん殴ってくれ!!」


 そして俺は花音ちゃんに向かって顔面を差し出したんだ……なんかこれも重度の変態によるセクハラみたいになってるけど、大丈夫かな。通報されないかな。


 それで花音ちゃんは「やれやれ」と。


「……まぁ、ウチはこのクランの下品担当みたいな所あるし、全然気にしてないから大丈夫だよ?」


「そっ、そんな風に思ってたの……?」


 俺は一度もそんな風に思ったことないってば。もっと自分に自信持って『可愛い担当』みたいなこと言ってくれよ。誰も否定しないからさ。


「それで……まぁ、神ちゃんが心配しているようなことにはならなかったから、安心して大丈夫だよ。何だか団長……? みたいな人がいなかったから、手を出せなかったんだって」


「ああ、そうだったんだ……それなら良かったのか……?」


「あ、でもちょっと胸とか触られたような……」


「やっぱ許せねぇ!!! あいつら全員ぶっ殺してやる!!!!!」


 急に怒りがマックスになった俺は立ち上がり、蓮から殺傷能力のあるパチンコを借りに行こうとした……


「ちょ、落ち着いてってば! それにもうぶっ殺す相手もいないんだからさ?」


「あ、確かに……」


 言われて俺は冷静になり、再び腰を下ろす……本当に俺は仲間のことが絡むと、冷静さを失ってしまうな。これは唯一と言える弱点なのかもしれない……早く対策しておかねばな……


 それで花音ちゃんは手を、自分の顔に当てながら。


「……でもさ。本当にウチは嬉しいんだ。ウチの為に怒ってくれる人がいて、心配してくれる人もいて。ウチを本当に大切に思ってるんだって、心から感じて。ウチはこれ以上ないくらいに幸せ者なんだって、再認識することが出来たんだ」


「そっか。それは良かったよ」


「うん。それでさ、神ちゃん……決めたんだ。ウチ、きっぱりとメイドを辞めるよ」


 それを聞いた俺は、あんぐりと口を開く。


「えっ……! 花音ちゃんは本当にそれでいいの?」


「うん。やっぱりウチはここが大好きなんだ! こんな素敵な場所、離れたくないんだよ! ウチはゲームも下手で、ほとんど家事は出来ないけど……みんなが。神ちゃんが必要だって言ってくれる間は、お世話になろうかなって思ってるよ!」


 それを聞いて俺は、涙が出そうになるくらい……とっても嬉しくなったんだ。


「そっか! 俺の言葉、信じられるようになったんだね!」


「だってあんな命がけで助けに来てくれたんだもん……信じない理由がないじゃん!」


「あはは、そうかもね! あ……でもメイド服はどうするの?」


 それでメイド服を返却するということは、考えていなかったのだろう。花音ちゃんは悩むような素振りを見せながら。


「うーん……それは……もう新しいの買っちゃおうか! 神ちゃんのポイントで!」


「えっ!? 俺ので!? 全然いいよ!?」


「え、そこは断ってよ! ウチがせこい人みたいじゃんか!」


 花音ちゃんは焦ったように言う……もしかして冗談のつもりだったのだろうか?


「でもそれくらい、余裕で払うのになー」


「はー。もう、本当に神ちゃんはお人好しだね。ちょっと心配になっちゃうよ」


「そうかなぁ? 好きな人なら何でもしてあげたくなるのって、普通じゃない?」


「……」


 すると花音ちゃんの言葉が途端に止まったんだ。あれれ……何か変なこと言ってしまっただろうか?


「花音ちゃん?」


「…………ね、神ちゃん。神ちゃんがウチを助けに来てくれた時。自分がなんて言ったかちゃんと覚えてる?」


「えっ? ……いや、ドロップキックしたことしか記憶にないや……」


 あの時は精一杯で、記憶が結構曖昧なんだよな。美しいライダーキックをしたのは覚えているんだけど……と自分の中で振り返っていたら、花音ちゃんが答えを言ってくれたんだ。


「『花音ちゃんを助けに来た、彼氏だ!!』だよ。ウチはしっかり覚えているんだ」


「……あ、確かに言った気がする……!!」


 ……うん。うんうん、めちゃくちゃ俺が言いそうな言葉だわ! だってクソかっこいいもん!! 映画の一時間二十分辺りで、イケメン俳優が言ってそうなセリフだもん!!


「……神ちゃん。ウチは神ちゃんと付き合っていないし、彼氏でもない。なのにあの時、ああやって言ったのはどうして?」


「えっ? えっと、それは……相手にそう宣言することによって、相手に宣戦布告をする意味を込めてだね……!!」


 急に花音ちゃんから問われ、俺は半分パニック状態で答えたんだ……だが、どうやら彼女はその解答がお気に召さなかったらしく、首を横に振りながら。


「……もう一回だけチャンスをあげる。ああやって言ったのはどうして?」


「えっ……?」


 俺は冷や汗を流しながら振り返る。確かにさっきの答えは、俺でも分かるくらい明らかに違う……! もっと自然に考えろ! 俺がああやって言ったのは、本当に単純な理由で……!


「それは……花音ちゃんのことが好き過ぎで、既に付き合っていると思い込んでいたからです!!!」


 それを聞いた花音ちゃんは……堪えきれなかったのだろう。今まで聞いたことのないくらいの声量で、腹を抱えて笑うのだった。


「にゃははははっっ!!!! ははっぅ!!! あひゃひゃひゃ!!!!」


「……そこまで笑う?」


 さっきまでのシリアスな空気は何処へやら……完全にギャグマンガの世界へと移動してしまったらしい。いやまぁ、花音ちゃんが楽しそうならそれでいいんだけどね?


 ……それで花音ちゃんは、笑いで出た涙をぬぐいながら。


「にゃはははっ! あーやっぱり、神ちゃんはサイコーだね!」


「ああ、それはどうも……」


「もっと嬉しそうにしてよ! ウチだって神ちゃんのこと、大好きなんだからさ!」


 言われて俺は、あからさまにテンションを三段階くらい上昇させる。


「ええっ!? ホントに!?」


「うん! そうだよ! だからさ、神ちゃん。こんなウチなんかでよければ……もっと神ちゃんの傍にいさせてよ! きっと退屈はさせないからさ?」


「え、それって……!?」


 ……そして花音ちゃんは照れたように。それでいて彼女らしく元気に笑いながら、こうやって言ってくれたんだ。








「うん、告白だよ! 神ちゃん、ウチを彼女にしてくれないかな?」

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