116.神谷君の復活じゃー!!
そして更に何日か経って……
「よーし神谷修一、復活じゃー!!!!」
未だに怪我の痛みは残っているものの、普通に歩き回るくらいは大丈夫になってきた。だからもうそろそろ、みんなにも会っていい頃だと思うんだ。
……ちなみに誰が俺の看病するかでかなり揉めそうだったから、蓮がずっと俺の世話をすることになっていたらしい。それで蓮から何度も愚痴を聞かされたけど……何だかんだ毎日世話してくれたんだから、アイツも優しいよな。
それに蓮も停学中だから暇だったのか……ま、聞いたらきっと、そんな感じで誤魔化してくるんだろうな。アイツも透子ちゃん並みに素直じゃないんだし……いや、今ならアイツが一番ツンツンしているんじゃないんじゃないか?
……そんなことを思いつつ俺は部屋から出て、共同スペースのリビングへと足を運んでみたんだ……そこには。
「……ん、神谷。もう大丈夫なのか?」
ソファーの上で文庫本を読んでいる蓮がいた……逆に言えば、蓮しかそこにはいなかったんだ。
「うん……蓮、他のみんなは?」
「学校だ。今日は平日だからな」
「そっか……だから停学中で問題児の蓮しかいないんだね」
「あ? 一応、お前もだけどな?」
蓮は若干キレ気味にそう言って、また本に視線を移す……が、それだけの反応だとつまらないと思ってしまった俺は、ダル絡みをするように、続けて蓮に話しかけるのだった。
「なぁなぁ、そういや蓮に色々と聞きたいことがあったんだけどさ」
「何だよ?」
「一番気になってたのは、あのスリングショットのことなんだけどさ」
「スリングショットって……もしかしてコレのことか?」
そこで蓮は文庫本を閉じ、その本を棹に見立てて、引っ張るようなジェスチャーを俺に見せてきたんだ。
「そうそう、それ! 俺、お前にあんな才能があったなんて全然知らなかったんだぞ!」
「そりゃあ隠してたからな」
「どうして!」
「だって同級生があんな殺傷能力のあるパチンコ持ってたら、普通引くだろ。あとアレ持ってるの違法だし……」
「いやいや俺は引かないよ!! 超かっけーし、俺もやってみたいって思ったもん! それに……俺に隠していたことが一番悲しかったんだぞ!」
俺がそうやって言うと、蓮は大きく息を吐き出して。
「はぁー……まぁ、お前はそういう奴だったな」
そして俺に視線を合わせながら、続けて。
「分かったよ。今度貸してやる。そしてコツとか教えてやるよ。それでいいだろ?」
「うん、ありがとう蓮! 楽しみにしておくよ! それで後は……どうして蓮は、自転車の練習してたの?」
「ああ。それはお前から馬鹿にされたくなかったからな」
「えっ、たったそれだけのことで?」
「そうだ。悪いかよ?」
「あ、いや、別に……」
『乗れたら便利だから』とかじゃなくて、そんな理由だったんだ……もしかして蓮って、結構負けず嫌いなところがあるのか? それも俺に対してだけ……?
「んん……じゃあ最後に。どうして蓮は、俺を助けに来てくれたんだよ?」
「……」
そこで蓮はスタッと立ち上がり……俺の額に向かって、思いっ切りデコピンをしてきたんだ。
「があいたあああっっっっ!!! ちょっと、おいっ!! こっちは怪我人だぞ!? もっと優しく扱ってくれ!!」
「……じゃあ神谷。お前は何で鳥咲を助けに行ったんだよ?」
「それは……! 仲間が、大切な人が危険な目に遭ってたら助けに行くのが普通だろ!! それ以外に理由なんかある訳ないだろ!?」
俺がそうやって言うと、蓮はまたソファーに座り……視線を本に移しながら、呟くように。こうやって言ったのだった。
「……バーカ。それと同じだっつーの」
「……!! あははっ、そっか! やっぱりお前は最高の親友だよ!」
嬉しくなってしまった俺は、思わず蓮の肩を掴み揺らしたんだ。
「ああ、触るなって、本が読めないだろ……」
……と、このタイミングでクランハウスの扉の開く音がしたんだ。そしてドタドタとした足音がしたかと思えば……
「五十嵐さーん、今日の王子様の様子はどのような感じで……」
「あ、真白ちゃん! おかえりー!」
真白ちゃんが学校から帰って来たんだ。そして彼女は俺を見るなり、手に持っていた買い物袋をドサッと床に落として……飛びつくように、俺に駆け寄って来たんだ。
「お、お、王子様っ……!? もう体調は大丈夫なのですか!?」
「うん、それなりにはねー……って、そういや真白ちゃんは、俺が寝てる間色んなことをやってくれてたみたいだね。本当にありがとう、助かったよ!」
「い、いえいえ! そんなの全然大したことでは……!! それより私、王子様に謝りたいことがあって……!!」
「謝りたいこと?」
聞いた俺は首を傾げる。そんな謝られるようなことされたっけ?
「はい、あの時……花音さんを捜索している時、私が『花音さんが裏切ったのかも』と口にしてしまって、それで王子様を怒らせてしまって……! そのこと、私とっても反省しています! 本当に申し訳ありませんでした!」
そう言って真白ちゃんは、深く深く頭を下げてきたんだ……当然俺は焦りながら、顔を上げるように促した。
「ああ、そんな謝らないでよ! 俺だってあの時は冷静じゃなくてさ……それに真白ちゃんは、単なる可能性を上げてくれただけなのに、俺があんなこと言っちゃったからさ。だから悪いのは俺なんだよ!」
「そんな! 王子様は悪くなんかありません! 私が……私が全部悪いんです──」
そこで俺は、正面にいた真白ちゃんの頭をよしよしと撫でたんだ。
「大丈夫、大丈夫だから、そんなに自分を責めないであげて。俺は怒ってなんかないし……それにもし花音ちゃんがそのことを聞いたって、きっと許してくれると思うから。だからさ、そんなに謝らないでよ」
「ほっ……ホントですか?」
「うん、ホント。真白ちゃんは優しいからずっと抱え込んでいたんだね。気付いてやれなくて本当にごめんね?」
そこでずっと抑えられていた物が溢れ出してしまったのだろう。真白ちゃんは鼻をすすり、子供のように目一杯声を出しながら涙を流すのだった。
「ううっ……うっ、っ、うあわあーんっ!!!!」
「よしよし、大丈夫だよ。いっぱい泣いてスッキリしちゃおう」
……と。何ともまぁ絶妙なタイミングで、また扉の開く音が……要するに、他のみんなもここに帰って来たようで。
「あっ、神谷君! ……って、どうして真白ちゃんが泣いてるの!?」
「おやおや修一、復活していきなり女の子を泣かせるなんて、罪な男だねー?」
「いや、これは誤解だってば!! ホントに!!」
慌てて弁明しようとすると、透子ちゃんが俺の元まで近づいて来て。
「言い訳はナシだぞシュウイチ!! ボクらはこんなにも心配したのに……心配したのがバカみたいじゃないかっ! バカ!! 」
「ちょ、痛いってばぁ!! 髪の毛引っ張らないで!」
「ううっ……透子さん、違うんですよ……!!」
「大丈夫だ、マシロ! ボクがちゃんと懲らしめてやるから!」
「だからぁ!!」
……と、ここで一言も発していなかった花音ちゃんが、他のメンバーをすり抜けるようにして、俺の前まで来て。
「……神ちゃん。後ででいいから、ウチの所に来て欲しいな」
「えっ? うん、分かった……」
「ありがと」
花音ちゃんはそうとだけ言って、リビングを抜け……別の部屋へと入っていくのだった。そして一同はポカーンとした表情を浮かべる。
「あれ……カノンはシュウイチの復活が嬉しくないのか?」
「ううん、そんなことないよ。きっと修一と二人で話したいだけなんだと思うんだ」
そして朱里ちゃんは俺に向かって。
「だからさ修一……早く行ってあげなー?」
「う、うん! 分かったよ!」
そして俺は朱里ちゃんの助け舟に乗ってこの場から離れ……花音ちゃんの元へと急ぐのだった。




