113.花音ちゃんを助けに来た、彼氏だ!!
「……えっ?」
それを聞いた俺は、一瞬だけ頭が真っ白になってしまう……花音ちゃんは俺の所ではない、別の奴らのクランハウスにいるって言うのか? そんなまさか……。
「……それは本当なのか、蓮?」
「ああ、間違いない……僕はランキング上位のクランハウスの位置を全部暗記しているからな。だからここは、暗黒竜の拠点で合っている筈だ」
蓮は自信ありげに、そうやって答えた。……暗黒竜。聞いたことは無いが、蓮が知っているということは、相当やり手のクランなんだろう。
……でも。どうしてそんな場所に花音ちゃんがいるんだよ?
「五十嵐さん、その方々は強いのですか?」
「いいや。強いと言うよりは相手を騙したり、初心者を狩ったりしているタチの悪い奴らの集まりだ……それに生徒会に有利になるよう、対抗戦でワザと足を引っ張ったことも情報にあるから、僕はこいつらが生徒会の傘下なんじゃないかと疑っている」
「生徒会の仲間ということでしょうか……? ……あっ!」
ここで真白ちゃんは何かを思いついたように顔を上げ。
「まっ、まさか! 花音さんは、私達を裏切ってそこへ──」
「真白ちゃん!!!」
俺は大声で無理やりその言葉を遮った。いくら予想だとは言え……その続きの言葉が、絶対に聞きたくなかったからだ……続けて俺は真白ちゃんに言う。
「それは絶対に……絶対に言っちゃいけない言葉だよ!! 仲間を疑うなんて真似は、今すぐに止めるんだ!!」
「あっ、そ、そうですよね……ごめんなさい……本当にごめんなさい……!!」
そして真白ちゃんはポロポロと泣きながら、俺に謝ってきた。いつもなら「そんなに落ち込まなくて大丈夫だよ」の一言くらいは掛けたんだろうが……今の俺にはそんな余裕は持ち合わせていなかったんだ。
……そしてそんな重たい空気の中、再び蓮が口を開いた。
「……神谷。汐月の言うことだって、あながち間違いでもないだろ。というか一番そこにいる理由として、自然なのがそれなんじゃないのか?」
「おい、蓮まで何を言ってるんだよ!!」
「仲間を信じるのは素晴らしいことだが、そこまで盲目的だといつか足をすくわれるぞ……それに鳥咲がそこに居ることを、お前はどうやって説明するんだよ?」
「それはっ……!! それを今から確かめに行くんだよ!!」
「おいおい……まさかお前は敵陣に突っ込むつもりなのか? いくら何でもそれは危険だ。もう少し策を練ってからに……」
「そんな時間がある訳ないだろ!? それに……俺は愛する人の為なら、幾らでも危険な目に遭ってやる!! 覚悟はあるんだ!!」
そう言って俺は店から飛び出そうとした……だが、そこで藤野ちゃんが俺を行く手を阻みながら。
「ま、まって神谷君! みんな! これを見て!」
そう言って端末を俺に見せてきたんだ。どうやらそこに表示されていたのはサイッターのようで……そのアカウントは暗黒竜に所属している、団員の一人だった。
「……」
俺は藤野ちゃんの端末を受け取り、そいつのつぶやきを一通り見ていったんだ。そしたら……
『なんか神谷の所のメイド拾ったwwwwww 追い出されたみたいだし、連れて帰ってあげたわwww「宿と飯用意してあげる」って言ったら簡単に着いてきたわwwww俺って優しいいいいいいいwwww』
『胸無いけど、結構可愛い顔してるわwwwまぁどっちかというなら、あかりんの方が良かったんだけどなwwww』
『ああークソ、団長帰ってくるまで手出せないなんて、生き殺し過ぎんだろ!!! 早く帰ってこねぇかなあ!?』
……物凄く気分が悪くなったんだ。
「神谷君、花音ちゃんは騙されただけで、裏切ってなんかなかったんだよっ!」
「…………いや。いやいやいや、藤野。そんなことより……もっとヤバいことが書かれてないか?」
蓮は青ざめた顔で言う……蓮はきっとこいつのつぶやきの意味を理解したのだろう。俺だって理解している……理解してしまっている。こいつらは……
──花音ちゃんを犯そうとしているんだ。
「……ッ!!!! 俺っ、行かなきゃ!!!! 店長、自転車借ります!!」
「え」
「あっ、待てっ、神谷!!」
そして俺は有無を聞かず店を出て、鍵のかかっていない自転車に跨った。そして俺は全速力でチャリを走らせたんだ。一秒でも早く、彼女を救うために。
────
……漕いだ。俺は必死にペダルを漕いだ。足がクソほど痛い。千切れそうだ。だけど。今、花音ちゃんが感じている恐怖に比べたらこんなもの。屁でもない。こんなんで弱音を吐いてちゃダメだ。駄目なんだッ……!!
「はぁ……はぁ……!」
……やっと着いた。ここだ。ここが奴らのクランハウスだ。ここの家は日本の城……というかヤクザの家みたいな感じで、外壁は石で囲まれていた。そして正面には赤い門とインターフォン。
……正面から入ろうとしても入れてくれる訳がない。俺はチャリを乗り捨て、石の外壁をよじ登った。石には凹凸があったため、比較的簡単によじ登れたんだ。そしてそこからジャンプして、庭へと侵入。
「……っ!」
ちょっと高さがあったから足が痛んだけれど、これくらいどうってことない。俺は庭園みたいな庭を抜け、侵入できそうな場所を探したんだ。
「……ッ!!!!???」
……そこで。とある窓ガラスの向こう。目隠しを付けられた花音ちゃんが、紐かなにかで椅子に括り付けれらているのが、目に入ったんだ。
「……」
俺は…………自然に体が動いていたんだ。
「……ッッ!!! だりゃああぁぁぁあああああっっ!!!!!!!」
俺は叫びながら窓ガラスに向かって、ドロップキックをぶちかます。そしたらガラスは物凄い音を立てながらバリンバリンと割れ、俺は家の中へと入りこむことが出来たのだ。
「なっ、何だ!? 誰だっ!?」
そこで音を聞きつけた団員が駆け付け、俺の前に立ちはだかる。そいつに向かって俺は……こうやって言ってやったんだ。
「俺は神谷修一……花音ちゃんを助けに来た、彼氏だ!!!! お前ら絶ッッッッ対に許さねぇからなぁ!!!!!!!」




