104.心の中の大悪魔?
「ふふっ、そうだよ? ……でもずーっと頑張ってアピールしてたのに、全然シューちゃんは想いに気が付いてくれないんだもーん」
朱里ちゃんはあざとく微笑んで、俺を見つめてくる……いや。いやいやいやちょっと待ってくれ!! それはマジで言っているのか!? あの出会った日から、朱里ちゃんは俺のことが好きだったって……そんなことがあり得るのか!!?? エロゲでももう少しは段階踏むよ!??
「ちょ、なっ、なんで……何で出会った日から、俺のことが好きだったんだ!?」
若干混乱しつつ俺はそう言う。そしたら朱里ちゃんは少し恥ずかしがっているのか、自分の髪の毛をクルクルと触って。
「んー。まぁ何と言うか……シューちゃんのお顔が、すっごくタイプだったんだよねー」
「えっ……たっ、タイプ!?」
そんなの初めて言われたんですけど……まぁ別に俺の顔はイケてる訳でもないけど、ブサイクって訳でもないしな……? だから俺の顔が好きな人がいても、不思議ではないのかもしれないが……それが朱里ちゃんだなんて、どんな確立だよ。
……もしかして俺って、藤野ちゃんに負けず劣らずのラッキーボーイなのでは?
というか今思い出したけどさ。俺が朱里ちゃんとしっかり喋ったのって、ライブ終わりの会場だったよな。何故なら俺が体調を崩して、そのままベンチで横になっていたからであって……
そこで朱里ちゃんのふわふわ膝枕で目覚めて、靴舐める勢いで謝ったんだけど……今思えば、初対面の人に膝枕なんて普通しないよな!? それに朱里ちゃんが色々と過去を話してくれたり、連絡先も交換してくれたのは……もうその時点で俺のことが好きだったからって考えたら、腑に落ちるぞ!!
どうしてこの考えに至らなかったんだ俺は!! バカ!! 俺のバカ!!
「……でもさ。人を好きになるのきっかけなんて、そのくらい単純なものでしょ? それにシューちゃんだって、お顔からみんなを好きになったんじゃないの?」
「え、いや、まぁ……顔も無くはないけど……! でもそれだけじゃないよ!? 俺はみんなの内面も全てを合わせた上で好きなんだからね!!」
思わず俺は声が弾む。その必死さが面白かったのか、朱里ちゃんはまた笑って。
「ふふっ。もちろん私だってそうだよ。きっかけは顔だったかもしれないけど、それからシューちゃんの性格も知っていって……それでもっともっと、君のことが好きになっていったんだよ?」
「そうだったんだね……って。もしかして朱里ちゃんは誰よりも先に、俺のことを好きでいてくれたことになるんじゃないの?」
「んーまぁ、そうなるのかもね?」
朱里ちゃんは満足気味に頷く。まさかあの真白ちゃんよりも先客がいたとは……
「でもさ、それだったらどうして早く言ってくれなかったの? 誰よりも先に付き合うことが出来たかもしれないのに……」
そう言うと朱里ちゃんは顎に手を当てて、考える素振りを見せて。
「うーん。何でだろうね。恥ずかしくて素直になれなかったってのは、当然あっただろうけど……モヤモヤしてたからかな?」
「モヤモヤ?」
「シューちゃんが私以外の子も好きでいることに、かな」
「あ、ああ……」
俺は何も言えなくなる……まぁそうだよな。好きな相手が他の子のことも好きって言っているのは、普通に嫌だもんな……
「もちろん、私は透子や結奈のことは友達として大好きだよ。それを前提として聞いてもらいたいんだけど……みんながシューちゃんと付き合っていることを思うとね。何だか無性にイライラしちゃうんだ」
「い、イライラですか……!?」
ここで「苦しくなる」とか「辛くなる」という言葉をチョイスしない辺りが、朱里ちゃんらしいというか、何と言うか……そして彼女は続けて。
「やっぱり私さ、わがままだから。シューちゃんを独り占めにしたいって思っちゃうんだ。結奈みたいに優しくないから、二人きりの時間を分けたくないんだ」
「……」
「……だからさ、シューちゃん。私とはさ、他の子とは全く違う……もっと特別な関係になるのはどうかな……?」
そこで朱里ちゃんは足を開き、スカートの裾を掴んで……ピラッとそれを持ち上げた。そして純白でリボンの付いた可愛い『それ』が、俺の目に入ってきたんだ。
「な、なっ、何をしてるの!!??!?」
突然の出来事に俺は訳が分からなくなり、脳内はバグる。そんな俺とは反対に、朱里ちゃんはその恰好のまま淡々と。
「……大丈夫だよ。シューちゃんになら見せられるから」
「いやいやいや、ダメっ!!!! ダメだよ、朱里ちゃん!!! 早く下げて!!」
そこでやっと状況が吞み込めた俺は、慌ててパンツから目を逸らして、わちゃわちゃと両手を横に振り続けた。正確な時間は分からないけど、相当長い時間振っていたと思う。
「……」
そして朱里ちゃんも折れてくれたのか、いつの間にか足を閉じた、上品な元の座り方に戻っていたんだ。それに気が付いた俺は手の振りを止め、朱里ちゃんの方へと向き直ったんだ。
「あ、朱里ちゃん……もっと自分を大切にね?」
「……」
朱里ちゃんは真顔のまま無言でこちらを見る。だけど今どんな感情なのか、俺は読み取ることが全く出来なかったんだ。と、とにかく何か言わなきゃ……!!
「え、えっと……も、もちろん気持ちは嬉しかったよ? でも朱里ちゃんとだけ、そんな関係になるなんて……俺には出来ないんだ」
「……どうして?」
朱里ちゃんはそう聞いてくる。……その答えは、ある。
「こんなこと言うと引かれそうだけどさ……本当に俺はみんなのことを愛しているんだよ! 藤野ちゃん、真白ちゃん、透子ちゃん、花音ちゃん……そして朱里ちゃんのことを!」
「……」
「その中の順位なんか絶対に決められないんだ! 絶対に全員が一位なんだ! 誰か選ばなきゃ死ぬと言われたら、俺は全員を指さして死を選ぶくらい大馬鹿なんだ!」
「……!」
「だから……君とだけ特別な関係になるなんてことは、俺には出来ないんだ。勇気を出して言ってくれただろうけど……本当にごめんね」
そこまで言った俺は頭を下げた。……ここで俺は朱里ちゃんからのどんな言葉だろうと、罵声だろうと泣き声だろうと受け止めるつもりでいたんだけど。正面から聞こえてきたのは……聞きなれた、いつもの笑い声だったんだ。
「ふふっ……ははっ、あははっ! なんでシューちゃんが謝ってるの?」
「えっ……」
「変なことを言ったのはこっち。変なモノを見せたのもこっちなんだから、シューちゃんは謝らないで? ほら、顔を上げてよ?」
「え、いやいやいや、変なモノだなんてとんでもない!!」
……多分ここの言葉のチョイスミスった。だけど朱里ちゃんは聞かなかったことにしてくれたのか、スルーしてくれて。
「……それにさ。シューちゃんの言葉を聞いてさ。恥ずかしい、悔しい、悲しいみたいな感情は溢れているけど……それ以上に私、とっても安心しているんだよ?」
「安心?」
「うん。本当にシューちゃんはみんなのことが好きなんだって。そしてそんな馬鹿正直なシューちゃんに、ずっと心を惹かれていたんだって改めて気が付かされたんだよ」
「そ、そっか。そう言ってくれて、俺は本当に嬉しいよ」
「ふふっ、それじゃあシューちゃん。私と付き合ってください」
「…………えっ、えっ? ええっ!?」
また予想外の言葉に俺は衝撃を受ける……でも朱里ちゃんは俺が混乱する前に、説明をしてくれて。
「だからーこれはちゃんとした告白だよ。危なくてイケナイやつじゃなくて普通の。私も透子達みたいに彼女にしてくださいって言ってるの。それならいいでしょ?」
「えっ、それはもちろんだよ!! で、でも……朱里ちゃんはそれでいいの?」
そしたら彼女は頷いて。
「うん。それでもいいよ。こうなったら私、正攻法で頑張るからさー?」
「えっ?」
「透子達から情報を盗んで、もっとシューちゃんの好みになって。それで最終的には、私にだけシューちゃんを振り向かせてみせるから、楽しみにしててねー?」
「あ、あははは……俺はみんなと仲良くしてくれると嬉しいんだけどな……?」
「ふふっ、考えておくよ?」
「……」
そんな訳で小悪魔……ならぬ、心に大悪魔を潜めていた朱里ちゃんも俺の彼女になってくれました。未だに心臓がバクバクしているのは、きっと観覧車の中だから……うん。そういうことにしておこう。




