101.天才故の悩み?
それから俺は猫に癒され……ている朱里ちゃんの姿を見て、癒されていた。やはり俺の心を癒してくれるのは、子猫ではなく可愛い女の子なのだ。ああ、ドリンクが進む進む。
「……よーし、そろそろ次の場所に向かおうか、シューちゃん!」
一通り全ての猫を撫で終わったのだろうか。朱里ちゃんは膝に乗っていた子猫を開放し、ボケーっと座っている俺に向かってそう言った。
「えっ、もういいの?」
「うん、久しぶりに猫ちゃん見れたし、充分に癒されたからさー。それにシューちゃんと二人きりの時間は限られているんだから、急いで次の場所に向かおうよ?」
「そっか、分かった! 次はどこに行くの?」
俺がそう聞くと朱里ちゃんはまたあの紙を取り出し、考える素振りを見せて。
「んーそうだねー。次は……あっ、ここにしようかな!」
「ここって?」
「ふふ、それはね……」
────
「はい、とうちゃーく」
そしてまた歩くこと数十分。俺達が辿り着いたのは、この島で一番大きなゲームセンターであった。
「朱里ちゃん、ここって……」
「ん、どうしたの、シューちゃん?」
朱里ちゃんは不思議そうに聞いてくるが……まさか忘れた訳じゃないだろうな。
ここは少し前に、俺達が大会の練習で使っていたゲーセンだ。毎日深夜に練習して、それで……朱里ちゃんが大きなケガをしてしまった場所である。
ここに来ると朱里ちゃんがそのことを思い出して、嫌な気分になるんじゃないかって思ったんだけど……この様子だと大丈夫なのかな……?
俺がそんな風に考えていると、朱里ちゃんは「ああー」と思い出したかのように。
「もしかしてシューちゃん、私が怪我した場所だから心配してくれているの?」
「えっ、あ、まぁ……そうだけど……」
すると朱里ちゃんはコツンと俺の肩を叩いて。
「もーそんなの大丈夫だよ。私はもうすっかり元気になったんだし、犯人もシューちゃん達のおかげで見つかったんでしょ? だから何も心配することはないよ」
「そっか……うん、そうだよね!」
「そうだよ。だから……早く行こ?」
そこで俺は朱里ちゃんに手を繋がれ、ゲーセンに引っ張られたんだ。
「あっ」
思わず俺は声を出す……俺はよく彼女らの手を引くことはよくあるが、こんな風に相手から手を繋がれることはほとんどない。だから、こんな体験は非常に新鮮で……少しだけドキドキしてしまうんだ。
俺の鼓動……朱里ちゃんに聞こえていないだろうか……?
『ドルルルン、ジャラジャラ、キュインキュイン!!!!』
……ゲーセン内。俺の乙女のような思考を一気にかき消すほど、店内は騒がしい音で溢れていた。まぁゲーセンだもんね。そりゃうるさいよね。鼓動の一つも聞こえる訳がないよね。
「えーと……朱里ちゃん、何しますかね?」
俺は聞こえるように近づいて言う。そしたら朱里ちゃんは、手を繋いでいない方の手を正面に出して。
「うん。今日はあの辺にある、クレーンゲームやりたいなって思ってねー」
「それはいいけど、何か欲しい物とかあるの?」
そこまでは考えていなかったのだろう。朱里ちゃんは「少し見させてー」とクレーンゲームのエリアの景品を一通り見た後に。
「そうだなー。私、さっきの猫のぬいぐるみが欲しいかも!」
そうやってお願いしてきたんだ。
「よーし、分かったよ」
朱里ちゃんの頼みとあらば、断るわけにはいかない。俺らは狙いの猫の景品がある所まで、戻って来たのだった。
そして筐体のガラスの中には、小さくてカラフルなボールが敷かれており、その上にはデフォルメされた黒猫の大きなぬいぐるみが。更にその上には三本の爪が開いたアームが浮いていた。
「ふーん……なるほど、三本爪か」
これは最近流行りの三本爪のアーム……これは一定の金額を入れなければ取れないようになっている確率機、言ってしまえば自動販売機のような物だ。お金を入れ続ければ、いずれ取れるような設定になっている。
だから、お金と時間を掛ければ誰にでも取れる……と言えば聞こえは良いかもしれないが、その天井までの金額は店によってバラバラだ。タチの悪いことに天井を相当高い金額に設定している店も少なくはない。
だから俺はこういった設定では……確率無視で取るんだよ。
「よし、やろうか」
俺は端末でポイントを支払い、丸いレバーを動かして位置を調整する。もちろん狙いは……タグ。ここに引っ掛けることが出来れば、パワーがなくとも爪が抜けずに落とし口まで運んでくれるんだ。
「……」
落下する時の回転するアームの位置まで計算し……アームの揺れが収まった瞬間に俺はボタンを押した。陽気な音楽の中、アームは俺の計算した位置にピッタリと落ちていって……一つの爪が、タグの中に引っかかった。
「よし」
「おお、持ち上がったよ!?」
そして猫のぬいぐるみは持ち上げられ、アームに運ばれて……丁度元の位置に戻ったところで爪が抜け、投げ出されたぬいぐるみは落とし口へと落下していったんだ。
「やったねー。ほい、どうぞ」
俺は屈んで落ちた景品を取り出し、朱里ちゃんに手渡した。
「わぁっ、ありがとう! シューちゃん上手すぎだよ!」
朱里ちゃんは興奮気味に俺を誉め、ぬいぐるみを受け取ってくれた。
「ありがとう。まぁ……それ故に通常のカップルが味合う、あの『何度も挑戦してやっと取れた時の感動!』みたいなのは、俺には味わえないけどね?」
「あははっ、贅沢な天才の悩みだね。でも、スパッと一発で取ってくれるのが、一番かっこいいよ?」
「そうやって言ってくれると嬉しいよ。でもどうしてぬいぐるみが欲しかったの?」
そう聞くと朱里ちゃんは、さっきみたいによしよしと猫を撫でて。
「この子がクランハウスにいたら、ちょっと華やかになるかなーって思ってね……あ、そうだ。クランのみんなにお土産取っていくのはどう?」
「ほう、それはいいね。俺がみんなの分を取りつくしてあげよう!」
朱里ちゃんの誘いに乗ることにした俺は、他のメンバー用のぬいぐるみを確保しに、また色々とクレーンゲームの景品を見て回ることにしたんだ。
「流石シューちゃん! あっ、このウサギのぬいぐるみなんか、透子に良いんじゃない?」
「ははっ、寂しがり屋さんの透子ちゃんにピッタリかもね!」
……そんな感じで全員の分のぬいぐるみを確保したんだ。もちろん全部一発でね!




