焼肉食べてくれませんか?
初めてなので誤字脱字、書き方等お見苦しいと思いますが、生温く見守って頂ければ幸いです。
※自ら命を絶つ表現があります
「一緒に、焼肉食べてくれませんか?」
咄嗟にでた返事は、「はい」だった。
Aがお薦めだという焼肉屋まで二人で歩いている
何故(A)かと言うと名前を知らないからだ
こうなった理由を考える。
『知り合い?』
『いや違う』
『逆ナン?』
『悲しいかな そんなイケメンじゃない』
『怪しい商売への勧誘?』
『!』
『それだ!』
そうと解れば断って帰ろう、焼肉は惜しいが……
決心が鈍る前に、
「あのぅ」
「着きました。ここです」
「さぁ お先に中へにどうぞ」
店の中から、「いらっしゃいませ」と聞こえてくる、そして、人の胃袋を強制的に空腹にする悪魔の香りが、人の三大欲求である食欲を、これでもかというほど揺さぶってくる。
『この状況で断って帰ることのできる若い男がいるわけがない』
つまり俺は悪魔の誘惑に負けた。
『いや 違う 違うぞ 断じて負けた訳じゃない、自分に正直になっただけだ、やはり人は正直に生きていかなといけない、広島のじいちゃんも言ってた。』という事で、グーっと音がしそうな腹を括って店に入る
「2名様ですか?」
「はい 2名で」
後からAが返事をする
「お席までご案内します」
案内された席は店のすみの半個室、そして俺は上座へと言われて壁側に
『もう逃げられない』
『八方塞がり』
『絶体絶命』
『万事休す』
『お茶を淹れるのは急須』
「お飲み物は何になさいますか?」
店員さんの声で我にかえる
「私はウーロン茶で」
「あっ俺も同じで」
「ウーロン茶 おふたつですね」
「その他のご注文は、いかがなさいますか?」
「とりあえず、今は飲み物だけでいいですか?」
「はい とりあえず」
「かしこまりました」
「では、お決まりになられましたらお呼び下さい」
店員さんはそう言うと店の奥へと消えて行った
「注文は私に任せてもらっていいですか?」
「それとも食べたいものがあります?」
前に座るAが聞いてくる
断るならこのタイミングしかない『焼肉は非常に、非常に残念ではあるが、食べてからでは断れない』
「あのぅ 確かに、俺、お金は欲しいですよ」
「だけど、楽して儲けられるなんて信じられないっていうか」うつ向きながら相手を刺激しないように、断りの言葉を紡ぐと
「何の話ですか?」
Aから少し驚いたような、何をいってるのだろうと不思議がるような返事がきたため、改めて自分の考えをAの伝える
「いやっ だって 商売の勧誘でしょ
食べ物を奢って、お願いを断りづらくして、言葉巧みに組織の一員にして、気付いたときには抜けられないような状態に」
一通り自分の考えを伝えると
「えー そんなこと思ってたんですか!?」
「そんな風にみられるなんて、ちょっとショックです」
笑いながらショックだと言う目の前のA
「だって、ふつう公園のベンチで座ってる人に、「一緒に焼肉食べてくれませんか?」なんて声かけます?」
あからさまに怪しいのはお前だと言うように、Aに言う、少し考えてAは、
「それは、そうですね 確かに うーん まぁ良いじゃないですか」
Aは事も無げに何か問題でも?と問うように返してきた。
何が良いのだろうか、俺はちっとも良くない、納得出来ないという雰囲気を察したのかAから
「でも、キミも「はい」って言って付いて来たじゃない」と口撃。
実に痛いところ突いてくる。
確かに俺は、承諾して付いて来た、確かにそうなのだが
「あのときは、ちょっとボーっとしてて、なんなら少し眠たくて」
「でも、付いて来たよね」Aの追及は続く
「お待たせしましたウーロン茶2つです」
「では、ごゆっくりどうぞ」
店員さんの登場で話が中断される
「まぁ食べながら話しましょう、私お腹すいてるし」
「………」
「大丈夫だって そんな警戒しないでよ」
「後でお金払えとか、この商品を契約しろだとか、店を出たら恐いお兄さんが待ってるだとか、実はお店の人とグルで、薬で眠らせて遠い所に」
「もういいです もういいですから」
ペラペラと恐ろしいことをいうAの話を遮る
「でっ どうする?」
「えっ 何がですか?」
「だから、何頼むの? カルビ? ロース? 豚トロ?」
「いや 何でもいいです」
「そう だったら私のお薦めでいいよね」
そう言うと、嬉々としてスタッフさんを呼んで注文をしだす。次々と繰り出される肉の部位、それはまるで台本通りの台詞を言うように、そして、その注文を受けるスタッフさんも次に何を注文するのか解っているかのように、受け答えをしている、凄いなぁと思って2人の会話を聞いていると、
「ごはんは、いる?」
「食べます」
突然の質問に反射的に答えると
「大、中、小、大盛り、どれにする」
「じゃぁ 中で」
グ~~ゥ
『何故このタイミングで腹がなるのだ まぁ小さな音だし聞こえてないだろう』
「じゃぁ ウフッ 大盛りを1つと中盛りを1つ いっ以上でフッ……お願いします」
「はっ はい かしこまっ…りました」
笑いをこらえながら帰って行ったスタッフさんと、笑いをこらえきれず、時々、グフゥなどと口から空気が漏れている音が聞こえてくる。
思ったより大きな音だったらしく二人に聞こえていたらしい
『仕方ないだろう、腹がへってたところで、少し気が緩んだんだから』
自分に言い訳をしつつ、恥ずかしさを誤魔化そうと、話を切り出す
「でっ? 何でオレに声をかけたの?」
そう、状況は変わっていない、悪意は無いのだろうと、少しは安心したが、それでも、特殊な状況ではある
「そうね しいて言うなら似ていたから、かな?」
「誰にだよ」
「うーん 飼ってた猫?」
「は~?」
あまりの事に少し声が大きくなった
「嘘うそ 冗談だって」
「最近の若い子は気が短いんだから」
「………帰る!」
「あー 待って待って、お願いだから 今帰られたら食べきれない」
『どんだけ注文したんだ!』と思いつつ、一度上げた腰を再度落ち着けると、とても言いにくそうに話し出す
『ははーん これはあれだろう好きな人に似ているみたいな、そんな感じ』
「その~ あの~」
「何だよ」
「弟に……」
予想していない事で少し間が空いたが
「じゃぁ 俺じゃなくて弟を連れて来てやれよ、喜ぶと思うぜ」
「あのね 会えないの」
「何だよ喧嘩でもしてんの?それなら仲直りの為にもおごってやった方がいいじゃね」
そこまでしゃべってAの様子がおかしい事に気付く、明らかに落ち込んでさっきまでの軽い雰囲気がない
『まさか、この流れは、いやいやそんな、ドラマじゃあるまいし』
否定してくれと、恐る恐る聞いてみる
「まさかもう死んで……」
当たってしまったらしい、目の前のAは明らかに項垂れている、慰める糸口を見つけたくて、よせばいいのに込み入った話を聞いてしまう
「あのさ」
「そのぅ」
「どうしてって聞いていいのかな?」
さっきより重い空気がその場を支配している、時間の進みかたさえ遅くなったような感覚、さほど時間も経ってなかっただろうが、Aが長い沈黙からようやく出てきた言葉は、
「自殺」
たった三文字の言葉、ニュースや噂等情報として知識としては知っている言葉、しかし、目の前のAから出てきた言葉は明らかに重みが違う、後悔 懺悔、憎しみ、怒り、悲愴、マイナスの感情が全てないまぜになっているような、とてもじゃないが言い表せない。
重い沈黙がどれほど続いたのだろう何も出来ずにいると
「信じちゃった?」
「純だなぁ いいよ そのまま純粋でいてくれ若人よ」
さっきまでの重苦しい空気は何だったのだ、俺は完全に騙されいた『ふざけんのもいい加減にしろよ』もう何が何でも帰ってやる
何も言わず席を立とうした時気付いてしまった。『このタイミングで気付くのかよオレ』
「待って 帰んないでよ」
「帰えんねぇよ」
「うそー 帰ろうとしたじゃん」
「帰ろうか?」
「すいません 居てください」
「そこまで言うなら居てやろう」
「急に上からくるねぇ」
「お待たせしました。ご注文の厚切り牛タン塩と、おすすめカルビ、白菜キムチ、ミノ、ザブトン、骨付きカルビ、豚トロ、ホルモン、ご飯の中盛り、大盛りです」
テーブルの上に所狭しと皿が並んでいく
「おいおい どんだけ頼んでんだよ」
「いいじゃん 私の奢りだし、お腹が鳴るくらいすいてるんでしょ」
「お前こそ大盛りなんてどんだけ食うんだよ」
「あっ これ?」
「これはアンタの」
「はぁー?」
「はい 二回目の「はぁー?」いただきました」
「何でだよ 俺は中を頼んだだろ」
「お姉さんからの、心遣いです」
「これぐらいの心遣いが出来ないと社会に出て苦労するぞ」
「くそっ」
「こら!そんな言葉使わないの」
「ヘイヘイ 分かりました」
「ヘイじゃなくてハイ そして、ハイは一回」
「ハ~~~~~~~イ」
「そんな悪い子は、超高級松阪牛はあげません」
「ちょっ おまっ そりゃないだろう」
「しょうがない ちゃんとごめんなさい出来たら食べるのを許してしんぜよう」
「ははー 私が悪うございました」
「うむ 致し方ないな この度は不問にふそう」
「ははー ありがたき幸せ」
お薦めの店と言うのは本当らしく、どれも俺の人生で食べたことのないほど旨い。食べ進めるうちに、気付けばAと談笑していた。
どれほど食べたろう、もう当分肉も見たくない、松阪牛は旨かったし他の肉も旨かった
「もういいの?」
「まだ食わすのかよ」
「食べれるの?」
「いや もう無理」
「美味しいアイスが有るけど 食べる?」
「おぅ 食べる」
「食べるんかーい」
「デザートは別腹だろ」
「ハイッ 隊長」
「発言を許す」
「私も同意です」
妙な茶番を繰り広げ、デザートのアイスまでしっかり平らげ、食後の暖かいお茶をいただきつつ満足感に浸っていた
「満足ですかー?」
Aから変な確認が入る
「あー 大満足 もう食えねぇ 本当に限界、しばらく肉も見たくねぇ」
「しかも、今までに食べたことないいほど旨いんだよ、もう他の焼肉食えねぇ」
「おいしかったでしょう このお店はお肉屋さんもしてて、親戚には牧場を経営してる人がいるから、いいお肉が安く提供できるって訳よ」
「何故 お前がドヤ顔なの」
「私が、このお店に連れてきたからよ フンッ」
「なんだそれ 理由になってねー」
「………」
少しの間が空いた後
「ところで元気は出ましたか?」
Aからの質問
「さて 何のことでしょうか?」
何故バレたのか内心ドキドキだが、動揺を隠すようにとぼけてみた
「何があったかまでは知りませんが、あの公園で見かけたあなたは、虚無感と言うか、もうどうでもいい、みたいな感じでしたよ」
「なんでわかったかなぁ 家族にも、親友にも気付かれなかったのに」
「それは、あなたが1人で居たからですー。」
「あなたは、他人の目を気にして、気を使いすぎて、頑張りすぎるタイプでしょ そして、その事に自分では気付けない」
なんだか不思議な感じだ、見ず知らずの初対面の人に、見透かされ、自分ですら漠然とした感じを受けるだけで、自覚がなかった事を的確に指摘され、妙な納得感でスッキリした。
しかし、このままでは悔しいので、そっくりそのまま聞き返す
「ところであんたは、元気になりましたか?」
「さて、何のことでしょうか?」
やっぱり同じ言葉でとぼけてきやがった。
「まぁ また何かあったら飯ぐらい一緒に食ってやるよ」
「わぁー ここ私の奢りなのに超上から目線 引くわー」
「今度は俺が奢る番、それで、貸し借り無し」
「分かりました、じゃぁ牛丼でも奢って貰おうかな いいお店知ってるの、すきy」
「チェーン店じゃねぇか!」
「もう 食い気味に発言しないの それに、チェーン店でもお店によって微妙に味が違うんだから」
「ハイハイ かしこまりました。牛丼でも、豚丼でも、奢らせていただきます」
「お店にも悪いし、もう出ようか」
店を出るとすっかり日が落ちていた。
「わぁー 冬とはいえ日が落ちるの早い 長居しすぎたね」
「もう少し付き合って、海が見たいから」
「いいぜ」
海までの道のり、さっきまで食べていた焼肉の話で盛り上がる
「着いたー、以外と遠かったね」
「まぁ いい腹ごなしになったな」
海の側の公園柵の向こうは海、打ち寄せる波の音が以外と大きく聴こえる
「ところで、原因は聞いていいのか?」
焼肉屋で気付いた事、それは、手の甲に落ちていた一滴の涙、必死にこらえたが、僅かに漏れ出た悲しみ、いつもなら気付かないのに、何故か気付いてしまった。
夜の海、水面は黒く闇のよう、その闇を二人で眺めながらAが話し出す。
「誰でもね、早いか遅いかの違いなんだよ 死ぬのって」
「……」
「だけどね 頭で理解するのと心で理解するのは違うんだよ」
「そうなんだ」
「そう だから 早く逝かれると頭は凄く冷静なのに、心が痛いし 苦しい」
「うん」
「そして、どんなに説明しても、誰も本当の意味では苦しみを解ってくれない、君の苦しみも私には解らないし、そして、私の苦しみも君には解らない」
「それなのに、解った気になって、時が解決するとか、生きていれば良いことがあるとか、解るよとか」
Aはそう言うと空気を吸って
「なんなんだよ」と海に叫んだ
「あー 少しスッキリした」
「あ~あ 演技には少し自信があったのにな」
「ところで、若人よ1人で家まで帰れるかね?」
「もちろん」
「迷子になるなよ」
「そっちこそ」
名前も連絡先もきいてない、でも何だかまた会えるようなそんな気がしていた。