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第5話 【初配信】はじめまして、ベル・イエリスですわ【4期生リレー3番手】

今回は3人目、ベル・イエリス中心の第三者視点です。

フィーナ、京と続いて3人目。

 私が初めて見たVtuberは、AIの少女だった。


 『Vtuber』という言葉が、まだ浸透していなかった時。


 その少女は、始祖(オリジン)。このバーチャル世界の創造主であり、開拓した素晴らしい大先輩だ。


 姿も声も何もかもが愛おしくて、配信を追いかけていた。


 私もこうなりたいと、憧れを持つに十分だった。


 追いかけて、追いかけて、追いかけ続けて。


 それでもコンテンツはいつか終わるもの。

 ストーリーは完結するもの。

 生命は、潰えるもの。


 私の大好きなAIの少女は、活動にピリオドを打った。



 だから、私は────


 誰にも聞かせられない独白ではあるけれど、これから配信を始める上では力になると信じて。




 * * *




 ──それは、ある昼下がりのこと。


『なんか始まったwww』

『動画ベース??』

『自己紹介かねた動画かもしれん』

『何か始まったのはわかった』

『むしろそれしかわからないまである』


 コメント欄にあるように、配信が始まるのではなく、動画が始まったようだった。


 ふりふりと動いている金髪の御令嬢。

 真紅の眼を携えて、彼女がずんずんと歩んでいく様子が見られた。

 そして、彼女は扉を開け放った。


「お父様!! どういうことですか!?」


「来たか、ベルよ。お前にも関わりのある話だ。……まあ座りなさい」


 扉の先には、渋い初老の男性がいた。彼は、手元にある書類から目を離すと、父譲りの金髪をたなびかせる愛娘──ベルを見据える。


『お父様渋い声だな!?』

『誰の声だこれ? 知らない人だ』

『初っ端からコラボとはやりますな?』


「それどころではありません! なぜ、私達イエリス家がこんな辺境に追いやられなければなりませんの!?」


「これ、言葉を慎みなさい。辺境とは言え、自然ある広大な土地を手にしたのだ。……それで良しとするしかない」


 父親はそこで言葉を区切ると、こめかみに手を当てる。それは、これまでの歩みを振り返っているようでもあり、諦観のこもった感情を感じさせる。


「貴族の世界では、まだマシな方なのだよ。我々イエリス家は、あのまま王都にいても存続は難しかっただろう。……これは温情なのだ」


「だからって!」


 理解は出来る、だが納得がいくのとはまた別の話だと。

 そんな気持ちで声を上げたベルを手で制す。


「憤る気持ちもわからなくはない。だがベル、お前は世間を知らなすぎる」


「それは、そうですが……」


「少し、世間を勉強するといい。お前の部屋に世間を勉強できる機材が揃っている。それを使って、この世界を見つめ直すといい」


「機材……?」


 困惑の声を上げるベル。


『それって……』

『どう考えてもそれってw』

『ストーリー0的な展開好き』

『ベルさんは、この世界の人じゃないよね?』


「……わかりました、確認してまいります」


『こうして、ベルのVtuber生活が幕を開けたのであった……』

『ナレーションやめいw』


「──言われるがままに、父の執務室を後にしました。私は、なぜ我がイエリス家がこんな辺境に追いやられたのか、その理由を知りたかった。けれど、はぐらかされたように感じていました」


 ナレーションが挟まれ、ベルの置かれた環境が見え始める。


『なるほど、お父さんは何かを隠していると』

『ベルパパもなんかあったんやろうなぁ』

『ベルさんは、貴族様っぽい?』

『これで平民とかだったら逆に笑いますww』


「もしかしたら、その機材とやらで、この現状の原因を知ることができるかもしれない」


 少なくない可能性を、口から溢すベル。


「──希望的観測かもしれない。それでも、藁でもすがりたい気持ちでいっぱいだった私は、足早に自室へと戻ってきていました」


 自室の扉を開けると、そこに置かれていたのは──


「──配信キット?」


『やっぱりかww』

『まてよ、このセット内容からすると、ただの配信者……?』

『ということは、Vtuberではないという設定?』

『つまり、この美少女は実在する……?(混乱)』

『お前ら、天才か?』


「──私は説明書を開きながら、それぞれの機材をセッティングし、いよいよ配信開始となります」


 挟まれたナレーションには、ベルの不安が表れているようだった。


「ここには、たくさんの人が集まるという。……箱入り娘の私に務まるかしら?」


『いけるいけるって、俺たちがついてる』

『でぇーじょーぶ、ドラゴン○ールで生き返る』

『箱入り娘とは、京さんと被りますね?』

『君ら不安材料なんよねww』

『京はほら、配信とか初めてだから……』


「それでは……ポチッとな」


 画面が一瞬真っ暗になる。

 そしてブォン、と目の前にベル・イエリスの姿絵が映し出され、コメント欄も引き続き見られるようになっていた。


 ここからが、配信の本番のようだ。




「あーあー、聞こえますか? 大丈夫のようですね。……こほん」


 咳払いをひとつして、彼女は続ける。


「私の名前は、ベル・イエリス。イエリス侯爵家の令嬢ですわ。皆様、よろしくお願いいたします」


『貴族来たー!!』

『侯爵ってことは、まあまあ偉い人?』

『御令嬢だったのか、これはまた濃いキャラがやってきたね』

『イエリス嬢よろしく〜』


「よ、よろしくお願いしますわ。……あまりフランクなのは慣れておりませんのに」


 頬を赤らめるベル。

 そして、ぼそっと呟かれたことも、コメントの住人達は拾い上げる。


『小声で可愛いこと言ってるww』

『箱入り娘ムーブwww』

『照れ顔用意されてるの策士すぎる』


「京さんが恥ずかしがるわけですわね。貴重な体験ではありますけど、貴族社会ではこんなにおおっぴらに褒められることなどありませんので……」


『貴族ってそうなのか』

『お父様のファンになりました!』

『京とはどういうつながりなんだろ?』


 コメント欄から、ベルは1つの質問を拾い上げる。


「そうですわね、京さんはお友達というのが1番近いでしょうか。もちろん、フィーナも」


『フィーナは呼び捨て……?』

『お、てぇてぇか?』


 細かな変化も見逃さないコメントの住人達。それはそれとして会話は進んでいく。


「さて、私が配信をすることになった経緯は見ていただいたかと思います。なので、私のお勉強に付き合っていただけると幸いです」


『勉強えらいなぁ』

『なんでも聞いていいんだよ?』

『勉強……うっ、嫌な思い出が……』

『トラウマ抱えたやついて草』


「私もフィーナに習って『おしながき』というものを作ってみました。こちらです」


 ベルがそう言うや否や、画面には『おしながき』が表示される。


【お品書き】

 1.自己紹介ですわ

 2.皆様の呼び方を決め

 3.はっしゅたぐ決め

 4.おまけ


「と、このような流れですわ。まずは私の【自己紹介】から……と言いましても、貴族の令嬢であることぐらいでしょうか。それは皆様に見ていただきましたし……皆様、なにか聞きたいことはございますか?」


『あまり自分のことを語らない……これぞ美少女』

『聞きたいことは山ほどある、任せておけ』

『おい、美少女(笑)の話はやめるんだ!』

『どんな配信をしていくんですか?』


「はい、配信の内容ですね。私は、基本的に雑談配信が多めかなと思います。マネージャーさんに勧められた、げぇむ配信などもやっていきたいと思いますが、あまりげぇむをしたことがないので……慣れるまで時間をください、という感じでしょうか」


『ゲームって言い慣れてない感いいね』

『げぇむ』

『それでもマネージャーはちゃんと言えるんだね』


「げぇむ? ……あれ、言い方おかしいですか? げえむ? ゲェム? あれ?」


 色々な言い方を試すも、しっくりこなかったように首を傾げる。


『混乱していらっしゃるwww』

『おい、箱入り娘様を混乱させるんじゃない! いいぞ、もっとやれ!』

『やめてやれww』


「難しいですね……私も勉強不足ということを痛感しております……」


『これも勉強なのか』

『ゲームについてなら任せてくれ!自宅警備員の俺には得意中の得意!』

『ニート兄貴は働いてどうぞ』


 警備員、と言う言葉にベルは反応する。


「警備員、ですか。私の家にもいますわね。護衛、というのが正しいでしょうか」


『護衛がいるの、さすが貴族様って感じ』

『絶対強い(小並感)』

『護衛さんはイケメン?』


「いけめん? ……あぁ、格好良いかということですか? どうでしょう、あの子はどちらかと言えば、可愛いと言われるのが嬉しいでしょうし……」


 顎に手を添えて、ベルはその子に想いを馳せる。


『あの子?』

『え、子供?』

『いや、待て。普通に女の子というパターンも』


「さて、どちらでしょう? でも皆様があの子を見たら驚くと思いますよ?」


 得意げなベルの様子に、コメント欄はざわつく。


『あー濁した! いけないんだ! 気になっちゃうじゃないか!』

『人心を思いのままに操る……これぞ貴族』

『弄ばれてますわ俺が』


「それでは、次の質問に参りましょうか」


『はいはいー、魔法とかありますか?』

『フィーナちゃんとは昔からの知り合いなんですか?』

『勇者って知ってます?』

『みんな世界観大好きだなwww』


「はい、魔法ですね……ありますよ、もちろん。私もほどほどに扱える程度のものではありますけれど、一応は」


『魔法やっぱりあるんやね』

『貴族様のほどほど』

『これは謙遜してるパターン?』


「で、えーっとフィーナとの関係、ですか。小さい頃からの付き合いはありますね。話すと長くなりますので、またの機会にでも話させていただきましょうか」


『おっとこれはストーリーに関係ありそう』

『同期でストーリー組み込んでくるとか正気か? ……うむ、悪くない』

『ということは、フィーナもストーリーあるんか』

『ベルさんはガッツリ、ストーリーある感じだね』


「そうですね、これでも貴族ですので。それなりにいろんな出来事がございましたので、追々お話しできれば、と思っております」


 これまで経験してきたこと、これから起こる事件などを、ベルは最初の動画で示したとおり、ストーリーで提供してくるということを仄めかす。


『つまり、ストーリーも定期的に配信していく、ということか』

『ベルさん、演技力高そうだしなぁ』

『演技じゃない、ほんとに起こってることだからな! ……設定とか言いかけた奴もいたけど!』


 どこのアストライアだろうか? はて?


「では、次は【皆様の呼び方を決める】です、が。私、実は思いついているものがございますので、嫌だという方がいらっしゃらなければ確定させたいと思っております。よろしいですか?」


『よろしいです!』

『貴族様には逆らわないですよ、ワタシハ』

『嫌な予感が……』


「それでは発表しますね。こちらです!」


 [従者(サーヴァント)]。

 画面に表示されるその文字に、コメント欄は爆発した。


『やっぱりかよwww』

『やりやがったなww』

『ちくしょうめwwwwww』


 草を生やすコメントが多くを占める中、それ以外のコメントも見てとることができた。


『従者でサーヴァントってルビ振るのずるくないですかね!?』

『大丈夫? 聖杯を巡って戦争とかしない?』

『我々は英雄となったのか……』


「えーっと、予想外に好意的なので驚いておりますが……反論はないのですか?」


『問おう、あなたがマスターか!?』

『運命ネタやめいwww』

『反論ないですね』

従者(サーヴァント)でいいって、みんなもしかしてドえ──』

『おっと、それ以上はいけない。その先は地獄だぞ?』


「……えと、うーん、はい。それでは従者(サーヴァント)の皆様、今後ともよろしくお願いいたしますね」


『本気で困惑してんじゃねぇかw』

『よろしくマスター!』

『イエリス嬢〜』

従者(サーヴァント)としてしっかり教育しますよ!』

『お前ら……最高だよ!』


 思い思いのコメントが流れていく。

 この流れを生かしつつ、ベルは話題転換をする。


「それではお次、えーっと【はっしゅたぐを決める】ですわね。はっしゅたぐ、というのをフィーナから教えてもらったので、これも決めていきたいと思います」


 意見はありますか、と質問を投げかける。それに従って、次々に候補が浮かぶ中、ベルの目についたものは。


「あ、これいいですわね。ふぁんあーとのものは『#ベルアート』で決定させていただきます。あとこれ、『#べるの勉強会』というのも採用しますね。……ふふっ」


 つい、思い出し笑いをしてしまう。

 思い出したのは同期の配信での言動。


「すみません、フィーナが『採用!』って言っていたので真似したくなってしまいました」


『か"わ"い"い"な"ぁ"』

『てぇてぇみがふかい!!』

『フィーナ×ベル……ふむ』

『たまんねぇなぁ! 箱推ししちゃる!』

『組み合わせニキちーっす!』


「くすくす……では、はっしゅたぐも決まったところで、そろそろ配信を終わりたいと思います」


『えー!もう終わりなの!』

『もう1時間も経ってたか?』

『時よ止まれ!』

『あれ? おまけ?』


 コメント欄が悲壮に暮れる中、一瞬画面が暗転し、また動画に切り替わる。

 これは最後の仕掛け。ベルの今後、方向性を見せる、そのために()()してもらった動画だ。


「すみません、同期の2人と相談してまして、初回の配信は1時間って決めてたんです。それに──」


「……ベル、そろそろ時間。早くして」


「あ、ごめんなさい。すぐに行きますね」


 ベルの後ろから声がかけられる。その姿は薄らと見ることができるのみで、かろうじて女の子であろうことが窺える。


『誰!?』

『フィーナの声に似てる? 姿もぼんやりしてるけど、似てないか?』

『だからこの配信にフィーナの姿が見えなかったのか?』

『フィーナさんにしては喋り方がきついな……別人かな?』


 コメント欄の言う通り、フィーナの声のように聴こえた。しかし、フィーナにしては淡々と喋っていて、初配信で見せた姿とは異なるように思われた。

 そのことで、考察班がざわつくのはまた別の話。


 コメント欄の喧騒を、気づいてか気づかずか、ベルは締めくくりの言葉を口にする。

 とびきりの爆弾と共に。


「えと、それでは従者(サーヴァント)の皆様。この後()()()()()()()()()()()()()()()()()()。よろしくお願いしますね」


『唐突なるコラボ!』

『反省会……』

『それぞれの初コラボ相手を確保するという策士』

『まだ配信あるんかい! ひゃっほう!!』


「それでは、またお会いしましょう」


『おつかれー』

『おつべる〜』

『おつべる採用!』

『その後、"採用"を使い込む猛者が現れたという……』


 ベル・イエリスの初配信はこうして終了した。



 * * *



 ベル・イエリス

 @bell_ieris


 初配信終わりました〜。

 これからも従者(サーヴァント)の皆様とお勉強していきたいと思いますので、よろしくお願いいたしますわ。


 そして、フィーナと京さんとで反省会もしますので、ぜひお越し下さいませ。


 #ベルの勉強会


 ─────


 フィーナ・アストライア

 @Fina_astlaia_


 @bell_ieris


 おつべる〜!

 反省会がんばろーねー!


次回、反省会します。

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