表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/68

第52話 推しとのコラボはウラバナシの匂いがする

あけましておめでとうございます。

今年もゆるゆると始めますので、よろしくお願いします。

 ──よろしくね、アストライアさん。



 私と推しが司会進行するって、どういうことなんですか!?


 パニッパニしている私に、怪訝な表情で翠様が言う。


「……聞いてる?」


「は、はい! バッチリ一言一句聞き逃さないレベルです!」


「……そこまで聞かなくてもいいけどね。とりあえず、俺たちの仕事はきっちりこなそう」


「り、りょうかいです!」


 あわあわ、はわわ。

 ある程度慌てたことで、少しずつ私の意識が現実に追いついてくる。


 目の前にいる人、今時の青年といった風貌の男性の声は、聞き間違えようもないほど、推しのものだった。


 赤が混ざったような茶色のパーマ髪に、耳元のピアスが映えている。想像より、目つきは鋭いみたいだが、声色を加味すればかわいいの分類に入るんじゃないかな?


 冬の装いということで、ドレープのレトロシャツの上にはチェスターコートが。黒のアンクルスキニーも引き締まった感じがして、スタイリッシュという雰囲気を纏っているように思われる。


 できる人、って感じである。

 流石は推しの中の人! 天才!


 脳内はドッタンバッタン大騒ぎ!


「ガチガチだね? 俺が来るって話は聞いてない?」


「誰からも……」


 そういえば、ずっと隠されていたライバーさんがいたけど?


 翠様の言うことには、今回のウラバナシだけではなく、以前配信された現地でのリポートのナレーションも担当されていたようだ。


 現地リポートの配信のアーカイブも見るなと念を押されていたのは、そういうこと?

 石宮さんが「見ない方がいいと思いますよ」って言ってたから素直に従ったのに! どーゆうこと!


「かなり危ない方法に思えるけど、まあ、そこら辺はちゃんとマネージャーが舵とってるかな」


 石宮さんは裏表のない素敵な人です!


 確かに翠様のおっしゃる通り、私が見てたらどこかで期待したり不安になったりしてソワソワしてたと思うし、ファインプレーではある。でも教えてくれてもいいじゃん!


 ふぅ、少しだけ落ち着いてきた。

 フィーナ・アストライアとして、配信者としてここに来ているのだから、推しだとかそういう感情は一旦置いておく。後で転げ回るがいい! ふははは!


「あのナレーションは俺ってよりは、『ナレーションのお兄さん』って感じだから、見なくてもいいけどね」


「見るに決まってるじゃないですか!」


「……見なくてもいいけどね」


 2回言いましたね!?

 もうストッパーは存在しないのよ! 通勤快速ドライバーだからね(?)


「……そろそろ始まるよ」


「あっ、ですね! よろしくお願いします!」


 改めて挨拶を。

 推しとのコラボレーションが始まってしまう。


 私、どうなっちゃうのぉ〜!?!?



 ***



 私の想像よりも、番組は和やかな雰囲気で進んでいく。



「──ってことよね。あの時は流石に焦ったわ」


「てへぺろなの……でもどうしても行きたかったの、仕方ないの」


 レインちゃんが、ルナさんの困ったエピソードに、てへぺろをかます。かわいいですねぇ!


「仕方ないで済むあたりが、流石レインちゃんだなって感じがしますね!」


「済んでないからね、アストライアさん」


 私のコメントに、翠様からの鋭いツッコミが入る。なんでや工藤! せやかて工藤!

 そんな風に考えていると、アンジェラ先輩からも何やら言われる。


「フィーナちゃんは、あたしらよりも甘やかすタイプだよね、マジで」


「アンは甘やかすタイプではないでしょう? どちらかと言えばボコボコにして、再起不能にさせるとか、そういう……」


「あぁん?」


「……なんでもないわ」


 な、和やかに進んでいた?

 花奏先輩とアンジェラ先輩は、同じ2期生ということもあって、仲良し(?)なので、配信上でプロレスができてしまうのである。よほどの関係値がないとできないと思うし!


 あと、地味に私の呼び方変わってる! やったね! 一歩前進!



 楽屋で起こった『どたばたレイン事件』、花奏先輩の脱走や猫ババしようとした祈里めばえ先輩の話など、数多くの事柄が赤裸々に語られ、一ファンとしては嬉しい話ばかりとなっている。


 ライブでは見ることができない『ウラバナシ』は、リスナーにとっても大好物、もちろん私も好き! キーボードのRとGに書いてあるひらがなを読んでください!



「めばえはねっ、美味しかったから、もっともっと食べたかったんだよっ。だから、猫ばばなんて、そんなことはないんだよっ?」


「世間一般では、それを猫ババって言うからね? めばえは意外と食い意地張ってるから困る。この間も──」


 めばえ先輩の言い訳に、この場の唯一の先輩である翠様が追加のエピソードを盛り込む。


「ちょっ、それは話さない約束だったでしょみどりんっ!」


「俺、そんな話してたかなぁ?」


「してたんだよっ!」


 ともすれば神聖なアイドル──めばえ先輩を、いじめ倒せるのも1期生くらいだろう。

 私なんて恐れ多くて、会話に入っていけないです!



 話題はさらに変わって。


「余はそんなこと思わないよぅ、全然、思ってないよぅ、天使ぃ?」


「ほとんど言ってますよねそれ!?」


「精霊師ぃ、文句あるのぉ?」


「ないです!」


 ひぇぇ、こわいよぉ。

 私のツッコミにも動じないどころか、恫喝してくるのは、幼女悪魔の『皇るう』先輩である。


 今回のライブでは、アンジェラ先輩とのユニットである【天使と悪魔】として登場し、カッコいい天使と可愛い悪魔という対照的なコンビで、会場を沸かせていた。


 幼女であり、悪魔であり、一人称は余であり、声は非常にもちもちしていて可愛らしいというのが、るう先輩の持ち味ではあるのだが、幼女らしからぬ言動も魅力ではあって。こうして脅してくるわけですしな! あくまで悪魔なので、そういうこともあるわね!


「るうちゃん、ダメよ。フィーナちゃんは初めましてなんだから、そんな風に威圧するのはナシ!」


 怯える私を見かねてか、或いは面白がってかルナさんが仲介に入ってくれる。お姉様……っ!


「なんだよぉ、聖女ぉ! るうは別に、挨拶が無かったのを怒ってるわけじゃないんだよぉ?」


「怒ってるじゃないですかそれ!?」


「文句あるのぉ!?」


「……ないですごめんなさい!」


「んふーっ、わかればよい〜」


 こわい、このようじょこわい!

 でも私が悪いので言い返せない! るう先輩、小悪魔だよ!


 戦々恐々としている私に、さらなる爆弾が。


「あ〜っ、めばえも挨拶してもらってないなぁ〜っ!」


 え、めばえ先輩もそういうスタンスなの!

 挨拶してもいいんですかむしろ! 正直『しなぷす』の中でもさらに忙しい印象のある祈里めばえ先輩なので、こちらとしてもどうしたものかと考えていたんだけど、そっちがその気ならこっちも考えがありますよ!


 まあ、これは私のプレミ。認めよう。


「いえ、あの、その、遅れてすみません! めばえ先輩大好きなので、恐れ多くて!」


「精霊師ぃ、それってるうのことは大好きじゃないってことぉ?」


「違います!! るう先輩も好きに決まってるじゃないですか!!」


「んふーっ」


 得意げな表情のるう先輩は、やはり可愛い。可愛いの前には全面降伏するしかないんだよ我々は!


「まあ、アイサツしてなかったのはダメだってーの。そこは上手くやらないと」


「おっしゃる通りですアンジェラ先輩……」


「……先輩と後輩の暖かい交流も終わった所で、話していくんだけど──」


 私達の長くなりそうな掛け合いに、翠様が間に入って次の話題へと導いてくれる。

 いやぁ、司会に安心できる人がいると違いますね!


 そんなこんなで、話題も流れて流されて。


 番組はなんとか終わりを迎えたのでした。



 * * *



 番組もなんとか無事に終わり、先輩方に挨拶を交わした後で、私はとある人を追いかける。


 先程は混乱し尽くしで、思いの丈を話すこともできなかったことを、せっかくの機会を逃さないように話しておきたかった。


「あ、あのっ!」


「……アストライアさん、どうかした?」


 声をかけて立ち止まってくれたのは、私の推しである斜向翠様である。

 たぶん、たくさん言われ続けている言葉ではあっても、私の言葉でなんとか伝えられないかと、そう思って。


 ふう、ふう。息を整えてから、一息に言ってしまおう。


「昔から翠様の大ファンです! 会えて光栄でした、これからも応援してます!」


「……それを言うためにわざわざ?」


 翠様は眉をひそめている。


「え、えっと、言える時に言っておくのが大事かなって」


 目を一瞬宙に彷徨わせて、私と目が合う。

 そこから、翠様は私に向かって言ってくれる。


「……そう、ありがとね。様はいらないから、これからもよろしく」


「は、はい! これからもぜひ!」


 やった! 推しと会話できた! しかもこれからもだって! やばくないですか!? これは私史上最高の出来事ではなかろうか!?


 私に挨拶をした後、翠様はスタスタと歩いて行ってしまう。


 その背中には100万のファンがいて、私なんか恐れ多いけど、これからも推しとは"近くない場所"でお話しする機会があれば、嬉しいと思うのだ。


「……強欲だよねぇ」


 私は呟く。


 同じライバーとしてデビューをさせてもらって、話せる位置にいて、ただのファンだった以前から考えれば、あり得ざる事態。

 けれど、翠様──改めて翠()()と絡めるという幸運に感謝しつつ、私はこれからもライバーとして活動をしていく。


 その時は推しに対してではなく、一配信者としての対応が求められると分かっていても。

 受け取った活力を、少しでも他のライバーさんに、リスナーさんに還元していきたい。


 だからこそ、ライバーになったみたいなところもあるわけだし。


 いや、もっと自分本位な理由だったんだけどね、うん。ちょっとカッコつけたくなっただけだからね?


 ともあれ、今回の経験をさらに活かしていきたい。そんな気持ちを込めて──



「──よーし、私も頑張るぞー!」



 * * *



 フィーナ・アストライア

 @Fina_astlaia_


 『ウラバナシ』終わりましたー!

 やっぱり、先輩方と対面すると緊張感がパナイです! でも楽しかったー!

 リポートに呼んでくれた【D'ream】の御三家とライブに登場したゲストの先輩方、私と司会をしてくださった翠さん、観てくれたリスナーのみんなもありがとうございました!


 ぬいぐるみは私がもらってきました!


 [フィーナぬいぐるみの写真]


 ─────


 斜向翠

 @hasmuΧ_greeN


 @Fina_astlaia_



 アストライアさん、次も司会を頑張ってね?


 ─────


 フィーナ・アストライア

 @Fina_astlaia_


 @hasmuΧ_greeN



 次の予定はないですよね!?


 ─────


 斜向翠

 @hasmuΧ_greeN


 @Fina_astlaia_



 …………?


 ─────


 フィーナ・アストライア

 @Fina_astlaia_


 @hasmuΧ_greeN



 無言は怖いです!!

なんとなく、『第1部、完』みたいな気持ちです。


次回は間話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ