表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/68

第49話 フレイア・ナイトメアは女の子になりたい!

ライトに重たい話です。


12/23 4:00頃に加筆修正しました。だいぶ変わってるので、よろしくお願いします。

 デビューを果たした際に、気になっていたことがあった。


「……あの……なんで……女の子……?」


「その方が可愛いじゃないですか!」


「えぇ……?」


 ボク──フレイア・ナイトメアの姿が女の子だったことだ。ボクとしてはちょっと苦手な気もしていたのだけど。

 ボクの身体を担当してくれた絵師さん──さつきあんりさんは、ボクに言う。


「だって、女の子の方がやりやすいよね?」


「……それは……」


 どうだろう。


 ボクはどうあがいても、『男の子っぽく』なれないのだと、これまでの道筋で知っていたけど。

 だから逆に女の子っぽくを目指してみる、というのは案外悪くないような気もする。


「それに、『女の子』は君に合ってると思うんだ。ワタシの見立てだとね?」


 ボクに合っている。

 本当にそうなんだろうか?



 ただ反論する意味も理由もなかったから、流れて流されて、フレイアになってしまった。


 実際のボクは、生物学上は男なんだけど。

 そこの所はいいんだろうかと、マネージャーに聞いてみたけど、返ってきた答えはこうだった。


『え、むしろご褒美では? ありがとうございます』


 ……なにそれこわい。


 あまり参考にならなかったけど、多分バレたらやばいという意識はあったので、隠し通すことにして。



 ともかく、初配信。


『……あの……えっと……その……』


『……わかり……ます……ボクは……あの……見ての通り……人見知り……なので……あっ……聞いてのとおり……かな?』


『です……ね……ボクも……上手く……話せるように……』


 とても散々だった。

 今でもアーカイブを覗けば、恥ずかしくて転げ回りそうになる。実際に転げ回った。恥ずかしい、悶える。


 両親も『あれは、ちょっと』と言葉を濁して苦笑いするシロモノだった。泣きたい。泣いた。

 Vtuberになることに、良くも悪くも応援してくれていた両親ですらこれだから、ボクのトークスキルの低さは本当にひどかった。今も、そこまで上手くできてるわけではないけれど。


 そんなボクを受け入れてくれたリスナーさんの懐の深さには脱帽するしかない。こわいです。



 そんなこんなで暗雲立ち込めたライバー生活でも、レインや同じユニットになったルナに相談したりしなかったりしながら進んでいったんだけど。


 何故か爆発的な人気を得られてしまった!


「……え……なんで?」


 ほんとにわからなかった。ふぁい?


 後々に夢人の人達に聞いてみたら『箱推ししてるから』『レインが度々名前を出してるから』『3人の空気感が好き』『おどおどしてて、それがまた可愛い』なんて多数の意見が波のように押し寄せてきて、あたふたしたこともあった。ほんとでござるかぁ?


 けれど、当時のボクには分からず、日々の配信に追われているしかなかったけど。


 ただ、思うことはあって。


 やればやるほど人が来てくれて話してくれるし、コラボは……ちょっと緊張するけど、嫌な視線もなければ、()()()()()()なんて言われることもない。



 それに()()()の言葉を、そのままの意味で受け取れるのも、思いの外、嬉しかった。



 そうして配信業務の傍らで【D'ream】での歌やダンスのレッスンも加わってくると、さらに忙しさは加速していった。


 【D'ream】が"アイドルユニット"としてデビューしたからには、ボクもアイドルとしての力が求められていたのだ。可愛らしく、『女の子らしい』仕草とダンスと歌唱を、運営さんから求められていた。


 女の子らしい仕草は、不思議と自分の中に馴染む感覚もあって、すとんと自分に落ちてきた。



 ──君に合ってると思うんだ。



 あの日、さつきさんに言われた言葉が、納得感を持った気がした。


「……ボクに合っているのは……女の子?」


 これまで、理想の自分は"男になること"だと思っていた。


 けど、もしかしたら違ったのかもしれない。

 ボクの理想は、"女の子"だったのかもしれない。


 普通、現実ではその理想は叶うことはない。

 けれど、バーチャルでなら叶うのだ。


 理想の自分(フレイア)になることが、既にできてしまっているのだから。


「そっか……ボクは……女の子になりたかったんだ」


 周りに馴染めず、男になろうとした自分。

 きっと、それは間違いじゃない。世間一般で考えれば、正しいことだったのだと思う。


 けれど、それはボクじゃない。

 ボクではなることができなかったものだ。


 だから、これが正しい()()()なんだ。


 これが長年の悩みが解消された瞬間で、新たな目標が生まれた瞬間でもあった。



 ***



 問題を1つ片付けたボクではあったけれど、残念ながら新しい問題も浮上し始める。


 それは、アイドルとしての技量不足だ。


 これまでそうした訓練をしたことがなかったからかもしれないが、レッスンで最も出来が悪かったのが、ボクだったのである。


 【D'ream】のまとめ役、ルナ・ブライトはオールマイティなお姉さんで、ダンスも歌も水準以上を悠々と叩き出してくる。技量も高くて、ボク自身も勉強させてもらうことが非常に多い。


 レインは体力こそないけれど、学習能力がとても高く、1度見たダンスや聴いた歌をすぐに自分の中に落とし込める。正直羨ましくもあり、負けていられないと気合いが入る友達である。天才、と一言で表現するには、あまりにレインに近すぎた。努力や苦労の数々を知ってるからね。



 それに比べて、ボクは頭の回転も遅く、上手く身体を動かすことができない。歌も、レッスンで変な癖がついていたりして、直すのに必死になっている。

 ただ、何度も何度も繰り返しても、その度に失敗してしまい、中々成長することができずにいた。


「……難しい……なんで……」


 最初はなんやかんや自分にもできるだろうとタカを括っていた。動画も見て、レッスンも真面目に受けて、ボイストレーニングも家に持ち帰って練習もして。


 それでも上達は非常に遅い。亀のペースだ。


 ボクのスペックの低さが露呈していて、非常に恥ずかしい。どうしよう。



 同じ【D'ream】の2人にアドバイスを聞いてみると。


「ん、レインは天才だから。メアはメアのスピードでいいと思うの」


「大丈夫よ。私だって、これまでやってきたことが活きてるだけだもの。メアちゃんは、体力もあるし、私よりも上手くなるわよ」


 ちょっとレインは自惚れが過ぎるけど、実際言ってることはわかるし、ドヤ顔で言われてしまうと何も言い返せない魅力もあるので、まあ、うん。


 ルナの経歴についてはあまり聞けなかったけど、これまでの積み重ねがあるみたいで。歳上のお姉さんだし、そういうこともあるから、ルナの言葉には一定の信頼があってもいいかもしれない、たぶん。


 アドバイスももらったけれど、それだけで上達するわけもなく、やはりボクの実力の伸びは悪かった。



 そんな折、人気が出てきたボク達【D'ream】の1st LIVEの開催が運営さんから提案された。


「……むりだよっ」


 冗談抜きで、ほんとに無理なんです。タスケテ。


 だってボク自身の実力は表に出せるレベルには達していない。出た途端に空き缶や紙ゴミを投げつけられるレベルでしかない。


 なので、全力で拒否したいところではあったけれど。



 でも、ボクは【D'ream】の一員。最初からこうしたライブをすることも想定されている売り方であり、ここで拒否したとしても、いつか必ず立ち向かわなければいけない。


 それに、ファンからの声も多かった。


『ライブはいつしてくれるんですか!?』

『ライブはよ』

『フレイアたんハスハス』


 なんか、いろんな声があった。こわい。



 けれど、ファンが増えていくに従って、確実にそうした声は高まってはいて。


 だから、断ることはできなかった。『しなぷす』の運営さんもかなり強引にというか、【D'ream】のマネージャーがすごく興奮した様子で、この話を持ってきたので、ドン引きした。


『はぁ、はぁ、絶対、やるべきですよ!』


 そんな熱意に引いて、あるいは押されてしまって、どうしようもなかったのだ。



「……どうしよう」


 ほんとにどうしよう。

 どうしようもないけど、どうにかしないといけなかった。


「……やらなきゃいけない……頑張らないといけない」


 そんな気持ちが、新たに生まれた。


 この理想になるための道標になってくれて、今も前を歩いているレインに報いるため。

 ボクみたいな半端者にも優しく接してくれて、視線も厳しくなくて、安心させてくれるルナの足を引っ張らないため。


 もっともっと努力しなければいけないと、そう思うようになった。



 そこからは、ひたすら練習に励んだ。

 配信とその準備と【D'ream】の収録以外の時間のほぼ全てを、練習に費やした。


 他の人の配信を見るとか、ボクの遊びの時間とか、そんな余裕はボクにはなくって。


 スペックが低い分、より多くの研鑽を重ねる必要がある。そうするべきだし、そうじゃなきゃ、2人と共にいることなんてきっとできない。


 迷惑をかけたくない、その一心だった。


 けれど、きっとそれはボクには合わなかったんだと思う。どんどんと精度は落ちて、よりわからなくなって、配信にも悪影響が出始めて、私生活も両親がサポートしてくれなければ悪くなっていたかもしれない。


 それぐらい、ボクの状態は悪くなっていた。

 どんどんと下手になっている、そう思ってしまうようになった。


 褒められても、賞賛されても、素直に受け取ることができずに、心のどこかで『そんなわけがない』と思うようになっていって。

 実際は、ダンスも上手くなっていたし、歌も水準以上を超えれるようになっていたようだったけど、当時のボクはそんなことに気づくことができないまま。


 できない、できないと余計に落ち込むようになっていった。



 結局、ボク自身には自信がなかったのだと思う。

 すごい同期の背中を見て、勝手に比べて落ち込んで、視野がさらに狭くなっていって、焦ってしまう。本番が近づいてくれば、余計に考え込んで頭がパンクしてしまう。


「……きゅう……」


 焦れば焦るほど遠ざかる。

 2人はさらに上達しているように見える。その分、自分は劣っているように思える、悪循環でしかなくて。



 そんな日々を続けていて、ついに『【D'reamドリーム】1st LIVE 《Re-ve(レーヴ)》』の本番当日を迎えてしまう。

 その時、ボクは──



「──つかれた……なぁ……」



 そう、思ってしまった。

 そう、感じてしまって。

 張り詰めていた気持ちが、ぼろぼろと崩れていくようで、さらさらと消えていくようで。



 ──迷惑をかけたくない。


 そんな初心すらもどこかに消えてしまっていて。


 だから。



 1st LIVE 《Re-ve(レーヴ)》の本番前に、ボクは逃げ出してしまったのだ。

次回でフレイア視点はお終いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ