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第48話 ツギハギのボクがフレイアになったわけ

ルーレットで、フレイア視点になりました。

 本番前、控室にはボクとルナの2人が待機している。もうすぐ帰ってくるであろうボク達アイドルユニットの最後の片割れ、レインを待っていた。


 しかし。


「……遅いわね、迷ってるのかしら」


「……レインに限って……それは……ないと思う」


「そうよねぇ。あの子、そういうところはしっかりしてるし」


 レインは人との会話に苦労する点以外は、非常に優秀なのである。

 それをボクもルナも理解しているので、方向音痴でもない彼女が迷うことはあり得ないだろうと結論づけている。


 まぁ、たまにぶっ飛んだことをするのもレインではあるのだが。しっかりしているけど、時々爆発する危険物みたいなものだろうか。天才とはかくも恐ろしき。



 そうして待つこと、ほんの少し。

 とてとてたったとレインが控室に入ってくる。


「あ、やっと帰ってきたわね」


「ごめんなの」


「……心配……した……よ?」


 ん、と申し訳なさそうに返事をするレイン。この短い言葉でも意思疎通ができるようになったのは、1年経っての絆、なのかもしれない。


 ただ、その暗い感情は一瞬で、またいつもの、にぱっと笑顔でレインは言う。


「フィーナ、楽しみにしてくれてるって」


「そう、良かったわね。メア、心の準備はできてる?」


「……うん……今回は……大丈夫っ!」


 1st LIVEの時は、焦って、怖くて逃げ出してしまったけれど、今回は大丈夫。だから、力強く言い返す。


 2人がいてくれるなら、大丈夫。

 そう思えるようになった。


「それじゃ、行くわよ──」


 ルナのかけ声で、円陣を。

 それぞれの言葉を綴りながら、気合いを入れていく。



 ──みんなにいい夢、見せてあげましょう?


 ──私達の全力、見せつけるの。


 ──……夢人(どりーまー)のみんな……喜んで。



「「「──【D'ream】! ノーブレスっ!」」」



 声が重なる。

 それだけで、このライブはもう最高のものになるしかないという確信を抱かずにはいられなかった。


 ボクがここまで来れたのは、本当に2人のおかげだと噛み締めて。


 以前のボクなら考えられない事態だろうから────。



 * * *



 ボクは、かなり特殊な人間だと思う。



 男なのに、女の子っぽい容姿に声。

 幼い頃から散々揶揄われてきて、男子には遠巻きにされ、女子にはおもちゃにされてきた。


 成長すれば、治ってくれるのかとも思ったけれど、いつまでも女の子みたいな()()()は変わらなかった。


 『かわいい』と様々な場所で言われ続けた。その言葉自体は嫌いではなかったけど、それに付随する意味が、ボクには致命的だった。


 ()()()()()()()()、と。


 みんなの言葉は、その意味合いの方が強かったと思う。


 男子に近づけようと努力したことはある。

 男っぽい服装や、男っぽい言動を意識して、何度も何度も練習して、必死に溶け込もうとした。


 けれど、そんなボクの行動はチグハグで。継ぎ接ぎのぬいぐるみのように、違和感しかないもので。


 その違和感を察知されてしまったのだろうか、どんどんボクの周りから人がいなくなっていって。


 そこから、より人との交流の仕方がわからなくなってしまった。ボクの社交性は大きく欠落してしまったのだ。



 そこからはズルズルと落ちていくだけ、気がつけば誰もが羨む不登校児になっていた。



 父は厳しかったから、不登校になったボクに怒鳴ったり殴ったりすることもあったけど、それでもいつしか納得してくれて。


『男ならば負けるなと言いたかった……だが、お前には合わないと気付いたんだ』


 そんな風に言ってくれた時は嬉しかったっけ。


 母は優しかったから、ボクを抱きしめて泣いてくれて、守ってくれて、見守ってくれて。


『ごめんね、気づけなくて……』


 なんて謝ってくることもあったけど、いつもボクのことを考えて寄り添ってくれていることは分かっていたから、それでも良かったんだ。



 そうして両親が許容してくれて、ボクは家で過ごすことが多くなった。

 世間体とか、学校からの連絡とか色々あっただろうに、ボクが気負わないように奔走してくれて、感謝しかなかった。


 その分、ボクにも何かできないかと考えるようになった。両親の役に立ち、少しでも負担を軽くしなければ、と焦るようにもなった。


 ただ、ボクには社交性もなければ、コネもない。さらには学もないとくれば、ボクにできることなど限られていた。


 どうすればいいのか。



 そんな時に出会ったのが、当時の不登校生活でできたネットの友達───後の()()()であった。



 レインの境遇はボクと近しいものがあった。

 違いは、ボクは恵まれていたことと、レインの方が深刻だったこと。


 レインは、現実でのコミュニケーションができないのだと言う。


 詳しくは聞いていないし、実際に会った時にはそんな素振りは一切見せなかったのだけど。ともかくそんな感じで、ボクと同じく社交性に欠けてしまっているということで意気投合し、ボクの悩みを相談してみたところ。



 提示されたのが、『Vtuber』となることであった。



『……なに……それ?』


『知らないの? 最近流行りのバーチャル世界の住人なの!』



 とのことで、レインは熟知しているようだった。ともかく、そうしてVtuberになる道を示されたわけだけど、正直ボクはそれまでそうしたものに触れることがなかった。


 漫画やアニメは見たりするが、いわゆる『配信者』についてはノータッチで、全くと言っていいほど知らなかった。


 しかも、そうした人は会話が上手だったり、ゲームが上手だったり、何かしらに突出したものがある人がなるものではないだろうか?


 ボクの会話は、チグハグしてしまった影響で、頭の中で会話を組み立てるのに時間がかかってしまい、上手く表現することもできていない。

 ボクが話し始める時には、話題が二転三転していることだろう。上手い返しを思いついたとしても、それはもう無限の彼方、遠い昔の話である。


 ゲームは、そこそこくらいではないだろうか。すごく上手いとか、やりこんでいるというほどではない。というか、そういうものは父に許してもらっていなかったので、やりたい気持ちは大いにあるけど、だからといって魅せプレイが可能なわけではない。


 歌は、うーん、そこそこ? それで言えば女の子っぽい声なので、そこは強みかもしれないけど。


 でも所詮はその程度である。


 だから、レインに背中を押されて『しなぷす2期生オーディション』に応募してみたけど、合格するとは思っていなかった。



 ただ、ボクの予想に反して『しなぷす』という組織は、かなり常識はずれだったようで。



 まずオーディションでは、ボクとレインが面接しやすいように、ボイスチャットでのやり取りにしてくれた。ボクはガチガチに緊張していたけど、レインが『現実の対面での会話よりも話しやすかったの』と話していたのが印象的だった。


 そして、ボクとレイン、そしてもう1人をアイドルユニットとしてデビューさせると通知してきた時にはさらにびっくりした。


 まさかまさかの結果ではあって。


 よりにもよってボク達をまとめてデビューさせるのって驚きもあったし、ボクは上手く喋れた気がしてないし、なんて賭けの要素の強い決定なんだろうと思ったものだ。



 今にして考えれば、これだけの人気を確保できるという未来を予測していたんじゃないかって思うくらいだけど。


 『しなぷす』の人達ならなんでもありだと思わせられているあたり、ボクもだいぶ毒されているけど。



 こうしてボク──フレイア・ナイトメアは『しなぷす』の2.5期生として、そして【D'ream】の一員としてデビューを果たしたのだった。

次回もフレイア視点です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ネ友と一緒に受けて2人とも受かるとか草 だがそれがいい
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