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第38話 そうだ、京ちゃんの配信にお邪魔しよう!

 お風呂あがりのほかほかベルさんが、首からタオルを下げてやってきた。


 着ているのは、パーカーのルームウェア。セットアップの一品である。オフホワイトのそれは、ベルさんの黒髪ロングとベストマッチしていて、恋がきゅるるんとしてしまいそうになる。桃色ですなぁ。


「お風呂あがりました……」


「おーおー、長風呂だったね? のぼせなかった?」


 私が声をかけると、目を宙に彷徨わせるベルさん。はて?


「……ち、ちょっとのぼせました、ね」


「うちわいる? 貴族様の従者みたいにあおぐよ?」


 イメージは、椅子に座るお嬢様に、大きな鳥の羽とかでできた扇をぶんぶんふる執事である。あれ絶対腕プルプルになると思うんだよね。


 私の腕力で、できるかどうか。そこが問題であったが、それは杞憂だったようで、ベルさんが手を振って『いえいえ』と示してくる。


「その、少し冷ませば大丈夫なので」


「そう?」


 ベルさんが言うなら、きっとそうなんだと思う。お風呂あがりにしても、頬が赤い気がしないでもないけど、うーむ?


 ちょっと触ってみる? ピトっ。


「私の手、ひんやりしてるから気持ちいーでしょ?」


「え、あ、あの、その……」


 私、なんか手とか足とか冷えちゃうんだよね。天然湯たんぽならぬ、天然氷枕である。


 これでベルさんの温度を下げてしまおうと思うんだけど、どうか?


「ひゃっ!」


 どうだ、ベルさん! 冷たかろう!

 ちょっと驚かせてしまった気もして申し訳ないけど、だがしかし、こんなところで止まる私ではない! うむ、良きに計らえ。


「うーむ、お風呂あがりだからほかほかだね。それにいい匂い……」


「ちょ、ちょっと!」


「へへ、冗談だよ〜」


 流石に拒否られそうだったので、顔を近づけるムーブはやめておいた。ちぇっ、ケチ。


 しかし、おっさんみたいなムーブをしてしまった。ンンンいけない、これはいけないですぞ。拙僧(せっそう)高まって参りました!

 匂いを嗅ぎ始めたら、それはもう変態。そうです、わたすが変態です(開き直り)!


 でもほんのりシャンプーのかほりがですね、あせと石鹸が……ではなく、石鹸の香りがふわっとして、自然に鼻まで届くのがよききまるである。並の香水より破壊力があるまであるから。ソースは私。


 そんな私だけども、座って携帯を見ていた。横に傾けて、配信画面を表示させていることから分かる通り、日々勉強、精進している。


 このお勉強、ベルさんも誘いますか!


「あ、そだそだ。京ちゃんの配信観てたんだけど、一緒にみる?」


「え、あ、はい。いいと思います」


「んじゃ、隣でみよー」


 許可がおりたので、全軍出撃! ぽんぽんと私の隣の椅子を触って、ここへと促す。

 ニコニコと笑顔を浮かべて圧をかけておくことも忘れない。すると、観念したベルさんがおずおずと座ってくれる。


 圧力作戦大成功である。我々は勝利したのだ! 勝鬨(かちどき)をあげよ! えいえいおー!


 そんなわけで、携帯を私とベルさんの中間地点に置いて、そのまま距離を詰める。遠すぎると画面見れないしね! 言い訳完了!


「あっ……また近い……もう、本当に……」


「ん? なーに?」


「な、なんでもないでしゅ……」


 でしゅ……?

 なにそれかわいい。


 女子力の高さに脱帽しながら、あるいは肩と肩を触れ合わせてイチャイチャしながら、京ちゃんの配信を見始める。



 * * *



『【雑談配信】京の雑談配信にようこそ【伊勢京/しなぷす】』



 ベルさんが見始めたタイミングでの話題は、私ことフィーナが新衣装配信をしたことを受けてのものだった。


「んでな、やっぱりあぁいう現実世界の服装っていいやん? それで、ウチもママに頼みたいなぁって気持ちになってきてな……」


 話している京ちゃんは、バーチャル東京の巫女という設定。その設定が生きるかどうかは、ちょっとわからないけど、京ちゃんもその設定を守っていこうと思っているっぽいので安心である。



 配信の姿をご紹介しよう。


 伊勢京は黒のボブカット。しかし、光で反射して緑っぽくも見えるという2度美味しい色をしている。瞳はピンクで輝いており、それに巫女装束という、もう日本の美少女という完璧でギークなスタイル。


 精霊の巫女であるフィーナとは、違う。

 フィーナが異世界の装束だとすると、伊勢京は現実の日本に即したジャパニーズスタイルの装束である。


 そこで差異が生まれるのは、絵師さんのお力がすごいと言わざるを得ない。



『クロクママに頑張ってもろて』

『クロクマさん今ソシャゲの方で大忙しなのでは?』

『近々ラノベの絵も担当するという噂やしなぁ』


「そうなんよね。やから、もう少し落ち着いたのを見計らいたいなと思うとるんよ」


 京ちゃんの生みの親──クロクマさんは、大人気の絵師さんである。そのため、やはり仕事は大量に舞い込んでくるのだ。

 あるいは、Vtuberとして京ちゃんが人気となり、その宣伝効果もあるのかもしれない。


『ママ思いのいい娘だ』

『クロクママも仕事だから、そこは気にしなくてもいいと思うけど、なんなら次々にタスク増えて京の入る隙間なくなりそう』


「それ、今1番の懸念事項なんよ」


『むつかしいところよな』

『あれじゃない? フィーナみたくスパチャ解禁に合わせる形でお願いしたら?』

『こういうのは早めに声かけとくが吉よ』


 いいこと言うね、リスナー。

 ただ、私はタイミングが非常に良かったので、なかなか難しいんじゃないかと思う。

 『しなぷす』の運営さんや、マネージャーの石宮さんが頑張ってくれたおかげでもあって、うまくいくよ、いけるよと脳死で応援することもできぬ。ぐぬぬ。


「なるほどなぁ、それはありかもしれんね。早めに、早めになぁ」


 ─────


「京ちゃん、少し悩んでいるみたいですね?」


 隣でベルさんが、私に聞いてくる。

 確かに迷っているように見えるし、踏ん切りがつかなくて停滞しているように見える。女は度胸よ! 男もだけど!


「これは背中を押してあげるべき、かな」


 私の返事を聞いて、こくりと頷くベルさん。ベルさんも携帯を取り出して準備完了である。


 そんなわけで、またしてもお節介に参上します、私フィーナとベルでございます。イクゾー!


 ─────


『問題はどのタイミングで送るか』

『絵師さんは忙しいイメージあるからなぁ』

『今をときめく神絵師さんともなれば、なぁ』


「それはそうなんよなぁ……』


 やはり戸惑いのある京ちゃんに、コメント欄も停滞気味である。


 今だ! スイッチ!

 私はコメントを送信する。



 ◇フィーナ・アストライア:『今すぐ送ろ!』



「って、フィーナ? 今すぐって言うた?」


 私が入った瞬間に、困惑とちょっと口角が上がった京ちゃん。にしし、嬉しいんだね、わかってるよ。


 私が参戦したことで、リスナーも大量の草と共に私に合わせてくれる。


『同期からのご指名だよw』

『すぐに送りなっせwww』

『フィーナちゃん直々の指令だからね、これはやるしかないでしょwww』


「リスナー面白がっとるやろ!?」


『おもしろがってますよそりゃw』

『ほれほれ、早よ送りなっせ。たーんと送りなっせ』


 みんなほんとおもしろがってるね!?

 こういう時の君たちの団結力すごいね!?


「急すぎるわ、うわぁ、どうしよう。なんてことをしてくれたんや……」


 声色だけで、慌てふためいている様子が窺えるし、ちょっとアバターがブレてるよ! たぶん、今、頭を抱えたな? 手の動きにまでまだ対応してないからね、2Dのサガよ。バージョンアップはよ!


 ◇フィーナ・アストライア:『何言ってんだい、これも京ちゃんを思えばこそだね……w』

『笑っとるんよ』

『草生やしとるんよね』

『これは確信犯』

 ◇ベル・イエリス:『送りましょう!』


「ベルまで! ……わかったわ、そんなに言うんやったら送る! 送るけど、文章考えるの手伝って」


 ベルさんまでもが背中を押したとなると、京ちゃんも覚悟を決めたようだ。確信犯、はて? なんのことやらわかりませんなぁ?


『そりゃ任せてよ、国語2の実力見せたるわ』

『2ておい、信用できんw』

『だめだこりゃ』


「不安材料増やすな!」


 そんなこんなで、私もベルさんも京ちゃんのコメントを考えるお手伝いをすることになったのだった。



 15分くらいして、協議の結果が完成する。

 コメントと私やベルさんの力を結集した文章が、画面上に羅列されている。うん、社会人経験からしても悪くはない。


 え、社会人的に、夜に送るのはどうだって? うっせえな! 問題はなし!


「こ、これでええんかな? 送るよ?」


『いけ!』

『いくしかねぇずら!』

『やれやれ!』

 ◇フィーナ・アストライア:『ゴー!』

 ◇ベル・イエリス:『ゴーです!』


 みんなの声援を背に、京ちゃんは飛んだ、ではなく送信ボタンを押す。君たちが俺の翼だ! 頼む!


「ほ、ほな、いくで? ほいっ! 送った、送った!」


 やや興奮した京ちゃんの声がして、送信を終えたことがわかった。


『おめでとう』

『おめでとう京ちゃん』

『おめでとう!!』

『さすが京ちゃん!』


 世界の中心でアイを叫んだけものじゃん! エ◯ァじゃん! 包容力の鬼だよみんな!


 ◇ベル・イエリス:『これで京ちゃんの新衣装できますね』

 ◇フィーナ・アストライア:『いやぁ、楽しみだなぁ!』


「期待しとけよ2人とも! ハードルむちゃ上げられたけどな!」


 そうだよ、ハードルは越えるためにあるからね。でも、新衣装楽しみは楽しみなので、今後に期待です!



 * * *



「ふふっ、京ちゃんは相変わらずですね」


「だね、実家かのような安心感あるよね!」


「なんですか、それ」


 なんて言いながらも口元を押さえて笑うベルさん。その姿はベリベリキュート。

 かわいくて、辛抱たまらんってなって、私は隣のベルさんを両腕で抱き寄せる。


「ぎゅー!」


「わっ、ちょっとかなたさん!」


「えへへ、よいではないかー!」


「だめです!」


 可愛いけど、非常にケチです。ぶーぶー。

 とは言え、少しだけ距離を詰められた気がした夜でした。


 この後も、他のライバーさんの配信を見て時間が過ぎましたとさ。配信ってなんで見てるだけで時間経っちゃうんだろうなあ!


 ほんとに不思議だなぁと思いましたまる。

まさか京も、フィーナとベルでイチャイチャしてるとは思うまい。

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