第37話 いずれ2人でお風呂に/泡となりて
お風呂回と言えなくもないお風呂です。
短いです。
前半がフィーナ、後半がベル視点です。
強引にベルさんをお風呂に誘った私であったが、残念なことに乗ってくれなかった。全米が泣いた。
ので、私1人でお風呂に入っております。お風呂上がりには「アイスはねぇのら?」って聞く所存でございます。
ちゃぽんっ。
ベルさんのお家にあるお風呂で、お湯を張って浸かっていると、1日の疲れなど吹き飛ぶようだ。ふぃーっ。
『かなたさん、タオルと着替えはここに置いておきますね? ……私のでよかったですか?』
「おー、ありがとー!」
風呂場の外から、ベルさんの声が聞こえる。対して私の声はぐわんぐわんと反響している。
「ベルさんも一緒に入る?」
『だから、入りませんてば! ……あがったら声かけてくださいね』
とてとてと去っていく音がする。
ありゃ、距離を詰め過ぎたかなぁ。うむ、ういやつよのう。
残念、いちゃいちゃしようと思ってたのになぁ。ちゃぷん。
頭を湯に入れ、ぶくぶくと泡を立てる。家でやると、しずくちゃんに怒られるのでなかなかやらないけど、人様のお家だから気楽にできちゃう! 楽しい!
一緒に入ってると、『はしたないからやめてよね!』って言われるのなんでだろ〜?
しずくちゃんもやればいいのになぁ。昔はあんなにお風呂ではしゃいでたじゃん?
んー、でも1人で伸び伸びと入るお風呂も悪くないもんだ。
うん、次は一緒に入ってもらえるように仲良くなるとしよう。それがいい!
次回、フィーナとベル、入浴するってよ! 乞うご期待!
* * *
「はぁ、どうしてかなたさんは、あんなに触ってくるんでしょう?」
私──朝雲鈴音は大きくため息をついた。その息もお風呂で反響して、耳を揺らす。
軽い気持ちで吐いたはずが、頭の中まで響いているような気持ちにさえなってくる。
──お風呂一緒に入ろー!
そう誘われた。
いや、なわけではない、と思う。
入らないと答えたけれど、嫌だから断ったわけでもなし。
ただ……そう。これは私のわがままなのだ。
だから、多分これからも、そういうことはしてはいけないと思う。我慢をしなければいけないと思う。
「……だから、かなたさんがあそこまで近寄ってくると、やりにくいです」
仲良くしたいという気持ちを隠そうともしない。むしろ積極的に絡んできてくるのは、はてどうしたものか。
コミュニケーション能力が高いので、話題も振ってくるし、ボディーランゲージも豊富だ。しかも感情表現も豊かとくれば、一緒にいて気分が良くなってしまうのは、当然とも言える。
私が男性であったら、一瞬で落とされているに違いない。忖度なしにそう思ってしまうあたり、もうだいぶ毒されているのかもしれない。
侮れない。物語の中でも無く、現実であのように『傾国』に出会ってしまうとは思わなかった。
「かなたさん……こわい」
『え、私がなんだって!?』
「わ、な、なんでもないです!」
足音もなく、扉の向こうにいるのやめてください! びっくりしました!
独り言、聞かれてないですよね? 大丈夫ですよね?
「い、今の聞いてましたか?」
『んん? 名前を呼ばれた気はしたんだけど、何を言ってるかまではわかんなかったー! ベルさん、何か用事あった?』
「そ、そうですか。なんでもないです」
『んー、そう? ならいいんだけど』
そう言って、かなたさんはとてとてと去っていく音がした。よかった、安心。でも……?
「あれ、結局かなたさんは何をしに来てたんでしょう?」
まさか、私とお風呂に……?
まぁ、それはないか。ない……ですよね? あれだけ断ったのに、まだ諦めてなかった、とか? そんなことあるでしょうか?
……ありえると思えてしまうあたり、かなたさんの人間性が窺える。容易に想像できてしまう自分が怖い。
壁は作らない。けれど、距離感は保っていたい。
それが朝雲鈴音という人間なのに……そう思っていたのに。
このままではグズグスに溶かされてしまいそうで。
(……私は、耐えられるのでしょうか?)
仲良くするの、我慢できるでしょうか。
ちゃぽん。
ぶくぶくぶく。
お風呂の中で息を吐く。
泡となりて消えていく。
それが、今の私には難しそうだった。




