第36話 イニちゃんの配信、反省会をベルさんと
ベルさんとフィーナで、今回の配信について話してます。
──配信が終了しました。
イニを演じていた私──望月かなたは、開放感を存分に味わっていた。
「うわー! 終わったぁー! っはぁ!」
難しいなぁ、ロールプレイぃぃ!
そんな風に考えながらも充実感はあった。
「お疲れ様です、かなたさん」
隣から、水を差し入れてくれるのは、今回の配信の企画者であるベルさんである。例によって本名は聞いてないよ! あしからず!
ともかく、水を受け取ってごくりと喉を潤す。
「ありがとー、ほんと疲れた……」
「本当に疲れてるみたいですね、反省会後にします?」
ぐでっとベルさんの配信用椅子にもたれかかっている私に、そんな風に声をかけられる。
しかし、甘えさせたらいけないよ! 私はそれにつけ込んで、存分にだらけてしまう自堕落人間だからね! 怠惰な人間なのデスよ!
「いや、今からしよ! この感触を忘れないうちに!」
「では、始めますか?」
「レディゴー!」
バス◯ーズ、レディーゴー!
反省会を始めることとなったのであった。
今宵は、長い長い時を過ごすことになるであろう……! いや、知らんけどね!
* * *
まず私が驚いたのは、ベルさんのリスナー『従者』さんの民度の高さだった。
「意外と好意的に受け止められて安心した! ほんとあのキャラでちょっと罵詈雑言くるの覚悟してたんだけど、みんな優しかった!」
「そうですね。だから言ったんですよ、『リスナーは大抵のことについてきてくれますよ』って」
「言われてたけど〜、や、でも私ど素人なもんで、演技なんて触れたこともなかったからさぁ。どうだろうなぁって不安もあったわけですよ!」
そう、演技のえの字も知らない私でございます。そもそも、ドラマや演劇というものに、ほとんど触れたことがない。映画も、そんなに観たことがないくらいだし。
アニメは存分に見てたよ? でもねぇ、ドラマなんかはすごく観たい! って感覚にあまりならなかったのだから、仕方ない。
「確かに。かなたさん、フィーナはかなり素でやってますもんね」
あ、ちなみにベルさんには私の名前を伝えておきました! できる女でございますとも!
すでにニートとして家にいる身で、名前バレは怖くない……とは言えないけど、まぁ、ベルさんも京ちゃんと同じく、うっかりすることはあるまい。
同期への信頼が熱い! あつもり!
……すみません、ただいま、あつもりと出てしまったことお詫び申し上げます。
「そうよ! だから、『イニちゃん』っていうクールキャラ、私にできるかなぁってビクビクしてたんだからね!」
「ビクビクしてたようには見えなかったです。かなり落ち着いてましたよね?」
「いや、そんなことないよぅ! かーなーり緊張してたってこれでも!」
かーなーり強いとは言えないのよ私は!
実際どうかと言われれば、してなかった気もする。私、肝座りすぎじゃない? 度胸がすごいのか、はたまた何も考えてないのか……後者ですね! 間違い無く! フィーナ、ウソツカナイ!
「そうですかね? ……かなたさんがそう言うなら、そういうことにしておきますね」
「疑問飲み込んだね、今?」
気を遣える子だね。ベルは過ぎた名前だ、お前の名前は今日から『ベ』だよ! 『べ』!
「……んー、まぁ、話しやすくはあったけどねぇ。でもでも、やっぱり普通に話してる方が気楽だよ! 頭使ったー! フットーするぅ……」
「また、イニちゃんで配信します?」
「絶対いや!」
鬼かあんた! フットーしとるんじゃこっちは! 脳が茹で上がりそう……!
また配信するとなると、私は死を覚悟せねばなるまいて……と悲壮な覚悟を内に秘める。ヤダヤダ、む〜と怪盗幼女になってもおかしくない。
「いやなんですか……」
「あ、その、あれだよ? ベルさんからどーしてもって言われたらやるけど……自発的にはノー!」
ノーと言ってやることだ!
あれちゃんと読んでないから内容わっかんないんだなぁ。ただ、他の媒体で異様に擦られてるから知ってるだけで、ネタにされすぎなんだよねジョの者。
「そうですか、残念です」
ほんとにショックみたいにされると、ちょっと困るな!
気まずい気持ちを払拭すべく、私は新たなる質問を召喚する! こいつはシールド焼却能力持ちだ、バラバラにしてやるぜぇ!
「そういえば、設定ってあんな感じで良かった?」
「はい、バッチリでしたね。ベルのストーリーにも関わってくる子なので、出るたびに何か発見があるとなおよし、ですね」
何か発見……かぁ。なるほど。
「今回明かしたのは……えーっと、フィーナの設定ちょこっとと、イニちゃんの素性と闇について、かな?」
「あと、イニちゃんが配信をした、ということも大事ですね。この事実だけで、"助かる"人が大勢いますからね」
「そんな人はいない!」
ちょこっとしか出てないのに、なんでだ!
「初配信からシルエットも声も出てますし、フィーナのファンの人達はこぞって見てるんじゃないですか?」
「うちの精霊さん達がぁ? いやいやいや、だってキャラクターが全然違うじゃん!」
フィーナとイニ。
声は同じで、演じる人間も同じとは言え、そんな簡単にファンはつかないでしょうよ!
そんな簡単にいったらねぇ、私もファンがすぐさま10万人突破してねぇ、3Dになってますよ! #フィーナ3Dやってるでしょうよ! 4人ぐらいに分身して、偽物当てて欲しいという願望はあるけどね!
「だって、ほら。イニちゃんってほとんど見た目がフィーナと同じじゃないですか?」
「え、全然違うでしょ? 似てるけど!」
例えば、めんどくさそうな表情も胡乱な目も、雰囲気もガラッと変わっているのだ。あれでフィーナと同じと言われても、フィーナの美少女感が薄れちゃうんじゃないかって思うんだよね! そんなこたぁねぇか!
「さつきあんり先生にお願いした甲斐あって、ほとんど瓜二つですけど……」
「それはそうだけど! あんりママが頑張ってくれたから! でもなぁ、いやぁ、似てるなぁって感じだけどなぁ」
フィーナをやっている者としての、拘りみたいなものが胸の中に残っている感じ。
なんとなーく、ガワの話であっても、別人なんだよなぁって感覚が根付いていて、ちょっとやそっとでは離れてくれそうもない。というか、多分無理だ。
あんりママが描いてくれたおかげで、そっくりさんになっているとしても、魂が違えば、そのキャラは別物になる。や、演じてるのはどちらも私なんだけどね?
でも、個人的に別物だという感じが強いというだけの話で。あんまり言語化するのは難しい気もする。
みんな、見た目で選んどるんか? ……それはそうか、フィーナ可愛いから!!
「そうですか。まぁ、そこまで愛着を持って演じてもらえるのは、キャラクターを作った身としては嬉しくはありますね」
「……そ、そういうこと、です! そうそう、私もさぁ、やっぱりライバーだからさぁ! そういうとこもあるような、ないような? みたいな?」
「ふふ、かなたさんって、照れると早口で声大きくなるんですね?」
「私の癖特定されてんじゃん!? ……いや、そんなことないですけどね!」
照れちゃうからね、そんな話はしないでおくれ! なんで私の心の動きバレてんですかねぇ! 処理、処理!
なんて、ベルさんに笑われながらも、夜は更けていく。話し合いもしたけど、これからベルさんのお家でお泊まりという事実がワクワクドキドキだぜ! 俺のターンは、まだおわっちゃいないぜ!
そんな気持ちでいる私なのであった。
ふふふ、お風呂はいっしょにはいろーね!
え、いや? ……ふっふっふ、さらっちゃうよーん!
次回、お風呂回……?(んなわけない)




