第20話 心の終わり、雪の始まり
リースちゃん視点です。
今回も短めです。
誤字報告助かります。ありがとうございます。
──それは、一目惚れだったのでしょう。
私が、初めてVtuberと呼ばれるものを知ったのはいつのことだったかしら。
しなぷす自体がまだ存在していなかった頃。
世に言う『四天王』が、まだ活発に活動していた頃のこと。
彼女達の輝きで現存しているのなんて、私の同期の『あの子』と、『コレット』ちゃんくらいでしょうか。この業界に長いこと過ごせば、色んなことがありますよね。
まぁ、その話は置いておきましょう。
その頃の私は、夫に恵まれて不自由なく生活することができていました。
夫の収入が高かったので、私は働かなくても生活には困らなかったこともあり、私は専業主婦として、日々の生活の質を高めることに勤しんでいたんですね。
主婦の仕事は家事。
私のやることも少なくはないですが、それなりに自由な時間というものは生まれるもので。
その自由な時間で出会ったのが、彼女でした。
──心を、あなたに繋げて。
──初めまして〜、『デンパ・ココロ』だよ!
『デンパ・ココロ』ちゃん。
電脳世界に生息する、電波少女ということで、AIとは少し違うみたいです。
電脳世界にいるけど普通の女の子、ということのようでした。
元気で明るく、どこか天然で。
でも時々企画でおかしくなっていく。
そんな彼女の可愛さに。
「な、なにこれぇ! 好きぃ!」
私は、メロメロになったのでした。
そこからの私の行動は、私基準でとても迅速なものになりました。
元々可愛いものに目がなかった私は、すぐさま彼女のこれまでの配信を追いかけ、グッズ……は流石に少ししか集めてないですね。
しかして、私史上1番にハマったのが、『デンパ・ココロ』ちゃんであり、ひいてはV界隈にまで牽引することになるのでしたぁ。
夫には少し呆れられてしまいましたが……それでも私の情熱は留まるところを知らなかったのです。
けれど、長い時を経れば変わってしまうこともあるもので。
『デンパ・ココロ』ちゃんは、その活動を終えることになったのでした。
大団円、とはいかないですが、惜しまれつつもプロジェクトは終了した、ということでした。
今は、どこで何をしているのか、それは1ファンである私にはわかりません。けれど、この世界のどこかに彼女は今でもいると、そう思えるだけで、世界は彩りを見せるのです。
私も、彼女のように誰かに彩りをあげれる存在になりたい。
いつしか、そう思うようにもなりました。
引退を発表した時には、夫に引かれるほど号泣したのですが、恥ずかしいのでここだけの話にしておきますねぇ。
そうして、意気消沈から立ち直った時に目にしたのが、しなぷすの1期オーディションでした。
私は燻る思いを、このオーディションにぶつけ、見事1枠を手に入れることができた、ということなのでした。
* * *
「今日の配信、楽しかったですねぇ」
私は、1人自室で呟く。
フィーナ・アストライア。
元気のある可愛い女の子。
私の憧れたあの子とは、違うけれど。
「憧れ、ですかぁ」
私が憧れられている。
その事実が、少しくすぐったい。
だから、あの子のことが気になったのでしょうかぁ。
声も仕草も違うけれど、どことなくココロちゃんに通じるものがある、と思うのは期待しすぎかしら。
な〜んて。
「さぁて、明日からものんびりやっていきましょ〜」




