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第15話 ベルから見える景色

『みっか組』のベル・イエリス視点です。

 ここは私が行きつけにしているカフェ。

 悩み事や考え事があると、私は度々ここを訪れる。


 そんな私にとっての休憩所、そこに同期の2人を案内したのはなぜなのか。


 目の前には京ちゃんとフィーナ。

 京ちゃんはアイスカフェオレ、フィーナはキャラメルマキアートを頼んで、ストローで飲んでいる。


 すると、私の視線に気づいたのか、フィーナが何か言う。


「ふぇふぇ、ふぉまはいほ?」


「えっと、なんて?」


「フィーナ、ストローから口離さんと分からんて」


 京ちゃんからの指摘が入る。

 2人の同期を目の前にして、話したいことはある。それこそたくさん。


 けれど、歌を歌い、同期としての結束力を深めようというこの場にはそぐわないような気がした。


「ベルさん、じっと私を見てたけどなーに?」


 ストローから口を離したフィーナが、問いかけてくる。先程ストローを咥えながら言っていたこととは違う気がしますけど、まあ。


「いえ、なんでもないですよ」


「ほう?」


 このすっとぼけたような顔も、見慣れたものだ。最初は非常に面食らったけれど。


(ほんとに、そうでしたね……)


 私は、フィーナという同期と初めて会った時のことを思い出していた。



 * * *



 その日、私はフィーナを呼び出していた。

 事前にボイス収録に参加してもらうことを告げ、了承してもらい、そして合流。


 ボイス収録のために、アフレコスタジオを借り、演者として『ベル・イエリス』を生み出すために最善を尽くす。


 フィーナを選んだのは、単純な理由だ。

 同期であるフィーナ・アストライア、そして伊勢京の2名の中で、同じ異世界組という括りであるフィーナの方がストーリーに組み込みやすかったからだ。


 伊勢京、京ちゃんは現実世界? の住人であるということで、中々こちらのストーリーに組むのは難しいというその点に尽きた。


 伊勢京は、バーチャル日本の巫女という設定があることは知っているので、どこかしらでストーリーに参戦できる可能性はある。

 けれど、彼女の強みは()()()()()()


 私が引っ掻き回すのは、よくない気がした。

 すごく感覚的な話になって申し訳ないけれど。


 その点、フィーナは精霊師であり、自然の体現者。貴族であるベルに近しい存在であるということにすれば、どうにでもできると踏んだのだ。


 けれど、不安もあった。


「フィーナさん、だからなぁ」


 話を持ちかけたのが、4期生として決まってからすぐのことだったので、人となりが不透明だったのというのもある。

 そして、彼女の喋りは元気で楽しそうな印象があって。


 だからこそ、演技とは無縁のように思えて、声をかけて本当に良かったのだろうかと考えることもあった。


 けれど、賽は投げられた。


 これからのファーストコンタクトで、難しければまた演者を探すこともできる。

 だからこそ、初配信に間に合うことは間違い無いとそう考えていて。


 ……今にして思えば、ひどいことを言っている自覚はある。


 ストーリーに巻き込むこともそう、おおよそ試したことがないであろう挑戦を強いていること、そして最悪諦めることも視野に入れていること。


 これじゃあ、私の嫌いな人達と同じだ。


 でも、やらなければ。


 もう、失敗はできないのだから。



「あ、ベルさん? ベルさんであってるよね?」


 待ち合わせで声をかけてきた人を見て、私は驚いた。


 その声に驚いたのではなく、その容姿に驚いていた。

 声は聞き覚えがあった。電話もしているし、間違うことは、まあないと思えるくらいには。


 けど、それと目の前の彼女との乖離が凄まじかった。


 ──彼女は、美しい人だった。


 アシ◯カではない。

 素直な感想としてそう思った。


 同じ女性として、羨ましくなるくらい"美人"という言葉を体現したような女性だった。


 肩下まで伸ばされた茶髪は、光に反射して少し青みがかって見える。

 微かに釣り上がった目尻から、鋭いながらも穏やかな光を感じ取れるし、それをサングラスで覆うことで、カッコよさは5割マシになっている。そして、涙ボクロがちらりと垣間見える。


 黒のタートルネックニットと、黒のスカート。

 上下ブラックに染まったファッションは大人の女性という印象を強く感じさせるし、合わせられたミニショルダーバッグにワンポイントとしてハートが添えられているのも、遊び心を感じさせてくる。


 ほんのりとメイクされているのも分かるが、ナチュラルな程度で、彼女の素材の良さがありありと伝わってしまう。


 可愛い、というよりは綺麗というのが彼女を示す言葉として正しい気がした。


 私は驚いて声もなくなっていると、目の前の美人がまた口を開いた。


「あれ、ベルさん、だよね? 違う?」


「……あ、はい、そうです」


「だよね! よかったよかった。違う人に声かけたのかと思っちゃったよ〜」


 サングラスをサッと取り、鞄の中に仕舞う。

 安心して破顔する彼女の表情は、第一印象と異なり、可愛らしく見える。


 あれれ?


「あ、あのー」


「ん? なに?」


「フィーナさん、ですよね?」


「そうだよ、初めましてベルさん! 今日はよろしくね!」


 あ、フィーナだ。

 正真正銘、フィーナ・アストライアだこの人。


「よろしくお願いします」


 電話で話していた明るい声が、この女性から聞こえてくることに違和感しかないけれど、紛れもない本物だと、そう理解できた。



 そのギャップに絆された訳ではないけれど、ボイス収録も案外すんなりと終わった。


 収録してもらうのは一言だけとはいえ、キャラクターが固まるのに時間がかかることも予想していたが、それに反してこちらの提示したクールで無表情なキャラを見事に演じていた。


 クールキャラを演じたことがあるのかと勘ぐりたくなるくらいスムーズだった。


「なるほど、りょーかいです!」


 なんて気軽に言っていたけど、あれほどすぐにキャラを憑依できる人も珍しい。



 話せば話すほど、ファーストインプレッションは崩れていった。

 彼女はフィーナそのもので、とても残念なことに変わりなかった。


 けれど、その分真面目でもあるのだろうなぁとそう感じた。


 色々と話して、きっとこれからも────



 * * *



「ベルさん、どうしたの? ボーッとしてるけど?」


「……あ、えっと、そうですね、ごめんなさい。なんの話でした?」


「あのさ、歌った時の合いの手の『うーはいはい!』ってところが好きだって話してて」


「もう5回は聞いたってそれ」


「や、でもよくないですか!?」


 フィーナが楽しく話していて、京ちゃんがそれにツッコミを入れていて、私はそれをほんわかしながら眺める。


 この光景がきっとこれからも──続くことを願って。


 私も自分の物語を駆け抜ける決意を。



 ──いつか、終わってしまう物語を描くために。



 私は、手元のブラックコーヒーに口をつけた。

次回、間話です。

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