第13話 レコーディングを待ってる間は騒いではいけない、いいね?
総合評価500pt超えてました。
ありがとうございます!
そんなこんなで、合流した後はとことこ、スタジオ入りして、初めて見る機材やらなんやらに「へぇ」「はぁ」なんて言いながら、レコーディングが始まっていく。
ちょっと前にベルさんと来たスタジオは、アフレコするためのマイクとかモニターがあったのだが、こちらは音響設備がより充実しているように思える。
や、あんまり違いはないのかもしれないけどね、素人にわかるレベルはこんなもんね!
私は、ボーカルレコーディングが初めてということで、最初は見学から入ることになる。
京ちゃん、ベルさん、そして私の順番で収録をしていくと、マネージャーの石宮さんから説明を受ける。
「フィーナさん、ぜひ京さんのを見て雰囲気を学んでください。勉強になるはずです」
とのこと。
メガネくいくいっとしながら、石宮さんはやる気満々の私にそう伝えてきた。
初配信の時や、リハーサルの時でも音楽機器の扱いには長けているような印象のある京ちゃん。配信機材についてはさっぱりの様子だったから、そっち方面の経験は積んでないみたい。
京ちゃんがブースの中に入って行くのを手を振って見送る。
「京ちゃん! ファイト!」
「……!」
京ちゃんはぴくりと体を震わせ、私を見る。
その後でサムズアップを送ってくれる。
ふむ、だいぶ落ち着いてるっぽい?
意気揚々とマイク前に立つ京ちゃんは、配信の時より幾分か落ち着いているように見えた。
たぶん、人前に立つのが苦手なのだろう。
そんな気がする。
配信で大勢の人に見られるという環境に、不安があったのではないかと思うし、今回は限られた人員がここにいるだけなので、京ちゃんの本領発揮ということにもなるのだろう。
京ちゃんがマイク前に立ったということは、私とベルさんはその次と次まで待機になるので、ブースの外に置かれている柔らかめの椅子に腰掛けて、その時を待つ。
そこからはガラス越しにブースの中が見えるようになっていて、京ちゃんの歌っている姿を間近で、見ることができる。
ちょっとした特等席だ。
同期の特権としてありがたく享受しておこう。さんきゅな!
「それでは京さん、お願いします〜!」
『お願いします』
「まずは、頭から──」
マイク前に立つ凛々しい姿。かっけぇ、そこに痺れる憧れるぅ!
その表情は自信に満ち溢れていて。
……いいなぁ、羨ましい。なんて思うのだ。
『机合わせて──』
京ちゃんのカッコいい歌声も、今は私達だけのモノなのだと。
嬉しい気持ちでいっぱいですわ!
* * *
色んなパターンで歌って、京ちゃんのレコーディングは終了した。
かっこよく、可愛く、ノリノリで、柔らかく、何パターンかの歌い方を駆使して表現する京ちゃんは、やっぱりすごいなぁと思う。
どのパターンもそれぞれの良さがあって良かったけど、スタッフの方との相談など交えて、ある程度の形になったようだった。
すごい、プロっぽい。小並感。
さて、少々待ちはしたけれど、歌うまうま京ちゃんは割と短時間で収録を終え、私の横に座る。
次はベルさんのレコーディングとなる。
私最後なんですか!? アィエナンデ!?
混乱はひとまず置いておいて、京ちゃんに水の入ったペットボトルを差し出す。
「はい、京ちゃん。おつかれさま!」
「ありがと」
私からお水を受け取り、口をつける。
こきゅこきゅと喉が鳴っている京ちゃん。いい飲みっぷりですねぇ!
「フィーナ、全然緊張しとらんみたいやね」
「え、うーん、そうみたい? 実感湧いてないだけかもしれないけどね」
「ふーん、そういうタイプには見えんけどね」
あらま、バレてら。
昔はもうちょい緊張してたような気がするんだけど、いつからか動じない無敵の精神を手に入れていた。
鋼のメンタル、そう簡単に砕けはしないのさ!
「フィーナってすごいな」
「え、そうかなぁ。えへへ」
「……そうや。ウチは本番になるとどうしてもな……だから、そういう意味ではすごいなって」
「それ、私が能天気だって言いたいの!? 受けて立つぞ!?」
そういう意味ではってどういう意味だ!? 屋上! 私の拳が火を吹くぜ……?
「フィーナさん、うるさいですよ。スタジオではお静かに」
「……あい」
近くにいた石宮さんに釘を刺されてしまった。うぅ、ベルさんといた時はこんなに大声出さなかったのに。
ツッコミしたくなっちゃうのは、もう性分なのかなぁ。やだなぁ!
しゅん。
叱られたために、あと静かにするためにベルさんを見ることにする。
ベルさん、頑張ってるなぁ。
来る時に緊張していた顔とは、全く違う。
真剣な表情だ。
『ガールズトーク、お茶会で さあ』
あ、今こっち見た。視線合っちゃった! きゃー!
視線合った時に、にこってするのは、カワイイムーブが過ぎるんじゃないかね!? 私もそれしたい!
「フィーナ」
「ん?」
ファンの心理で見ていると、京ちゃんから言葉が投げかけられる。
「京ちゃん、なーに?」
「……ウチ、『しなぷす』受かってよかったなぁって」
「急にどしたの」
無味天井デッキ?
ぽつりぽつりと京ちゃんが話してくれる。
「いや、なんか、みんなでこうして1つの曲を作るってのが、ありがたいことやなって思って」
なるほど、それは確かに。
私も『しなぷす』受かってなかったらどうなってたことか……ニートでしかないですね! 知ってました!
たくさんの人が関わってて、たぶん私だけじゃ実現できないことだらけで。
事の大きさに、ちょっとついていけないです私!
「……受からなかったら、今もあの──」
あの?
京ちゃんはそこで言葉を止めて、ハッと私を見る。
「……悪い、しんみりしちゃって」
「ううん、全然だよ。ちょっとその先が気になるような言い回しだったけど、その先が気になるような言い回しだったけど!」
「2回も言わんでよろしい!」
大事なことは2回言わないとね!
「……いつか、話せるとええなぁ」
京ちゃんは独り言をぽつり。
「今話してくれてもいいんだよ?」
「いつかはいつかや、ばーか!」
わからないことも、知らないことも。
いつかくる未来で、理解できたらなぁと、そう願うのだ。
そのためにはもっと仲良くならなくちゃね!
「京ちゃん」
「……なに?」
「とーう!」
隙だらけの身体に、横から抱きつく!
きゃー、すべすべ! あと抱きつきやすいサイズ感! いいわぁ!
「ちょ、ちょっとフィーナ!? はな、離して!」
「いーや!」
ふははは! このポジションは誰にも渡さないんだからね!
「……フィーナさん?」
「あい、ごめんなさい」
また叱られちった。てへぺろ。
そんな騒ぎつつ待っていると、ベルさんのレコーディングは終わり、いよいよ私の番がやってきた。




