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短めです。
彼女の唇が、言葉を紡ぐ。
「ねえエド、私ね。来月から、王都の学校行きが、決まったの。だから、たぶんもう…」
ーーたぶんもう、会えない。
言葉が、出なかった。世界が沈黙に包まれる。海だけが音を発する世界。
遅れて思ったのは、ただ。
ただ、いやだと。行かないで、と。
頑是ない子供のように君にすがりついて、ただここにいてと、言ってしまいたかった。
僕は今、どんな顔をしているだろうか。
潮騒が、耳にうるさい。
僕も彼女も、口をつぐんだままだった。時ばかりが過ぎていく。ああ、この沈黙は、好きじゃない。
太陽は分厚い雲に隠されていて、何の光も映さない海は灰色に見えた。僕の髪と、同じ色。
風が吹いた。いつもより塩辛い空気が僕の髪を弄んで、吹き抜けていった。
分かっていた。一生続かないことぐらい。
それでも、信じてさえいなかった神を、無性に呪いたくなった。
それから、彼女がここにくることは、ついぞなかった。
押しては引く波。陽光に反射して光る水面。潮風が吹く。髪が風に靡いて乱れる。
昼下がりの、少しだけ温度が上がった砂を蹴って遊ぶ。
あれから幾年かたった今でも、ここでただ何かを待っている僕はたぶん、とんでもない阿呆だ。
あと1話で最後です。