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蛇足かもしれませんが、エド視点です。
よろしければお付き合いください。
神なんて、信じたことはなかった。
自分が、人間の言うところの妖精という存在だと言うことは、不思議と誰にも教えられていなくとも分かっていた。
妖精は、神の手によって直接造られた存在だ。それが常識だったが、自分にはそれが信じられなかった。
だって、神になんて会ったことはなかったし、自分が誰かに作られた記憶なんてものもなかった。物心ついた時には、自分はここにただ存在していたように思えた。
神への信仰なんかよりも自分は、人間の言うところの理論とか、理屈とか、科学とか言ったものを好むものとしていた。
完成された理論は美しい。そこには壮大な自然が見え隠れしてると思った。
神秘的で、かつなんとも現実的。神の奇跡なんかよりも、自分の目には何倍も美しいものにそれは映った。
物心ついてから長い年月を過ごすうち、同族ーつまりは妖精だーにも何度かあったことがある。
しかしながら、僕が神に恭順な態度を示さずにいると、皆が皆、僕を、異物を見るような目で見て、お前はおかしい、と、口を揃えて言った。
それでも別によかった。たしかに彼らの言うことが正論だということは分かっていたが、それでもよかった。
このところ何年か自分はいつも、とある小さな村の砂浜で時を過ごしていた。
潮風に吹かれて表面に白い塩が浮いた大きな流木に腰掛けて、隣に座る少女を眺める。
少しくせのある茶色の髪に、鳶色の瞳。微妙につり上がった眦。彼女の足が砂を蹴る。
彼女と会ったのは、数年前の夏の日だった。
12歳にもなって僕がまだ見えるなんて珍しいと思った。大体の子供は、11かそこらでいつのまにか大人になってしまっていることが多いから。
数年たった今では、彼女と過ごすことはすっかり僕の当たり前の日常と化していた。
彼女はほとんど毎日、決まって昼下がり頃にこの砂浜にやってくる。
陽光を反射してきらめく海面。身に眩しくて視線をずらすと、こちらに向かって歩いてくる彼女が見える。
胸が高鳴る。潮風が頬を撫でた。
彼女が、僕の姿を認めたらしく、いつものように走り出す。この瞬間を、僕は飽きもせずいつも楽しみにしていた。
僕と彼女は、二人でたくさんのことをした。
他愛もないことを話す、二人でただ海を見つめる。砂浜に絵を描いたこともあったっけか。
彼女と話して初めて、僕は人に何かを伝えるのがいかに難しいかを知った。
そんなだから当然、何度か喧嘩になったこともあった。
でも、それだって後になって思い返してみれば、大事な思い出の一つに過ぎなかった。
これが、しあわせというんだろうか、なんて。
そんな柄でもないことを思っていた。