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16の夏、私はひとりで王都行きの乗合馬車に乗った。
私の村から王都までは、馬車で片道15日もの距離があった。窓際の先に座って、通り過ぎる景色を眺める。
私の村が、私の海が、どんどん遠ざかっていく。深いため息が漏れた。
後悔はしていなかった。私の中に、王都に行かないという選択肢は存在していなかった。
勉強ができるのは嬉しかったし、もう少しで自分で稼げるようになるという事実もうれしかった。
それなのに、今私の心にあるのは。たぶんこれは、哀愁だ。
鳩尾のあたりに、ポッカリと空洞が開いたような感じがした。
王都での生活は、良いものだったと思う。
勉強した内容はとても興味深いものばかりだったし、恩師と呼べるような人にも出会えた。
いい先輩にも、私を慕ってくれる後輩にも恵まれた。
私は成績だって悪くなかった。休日は新しくできた友達と王都の活気あふれる街に遊びに行ったりだってしたし、美味しいものだってたくさん食べた。家族には一月に一度は手紙を送っていた。楽しかった。
ただ、王都には海がないだけだった。足りないのは、彼だけだった。
20歳の夏、4年の学習過程を終えた私は、乗合馬車に乗って、生まれ育った村に帰った。
帰郷してすぐ、私は村の学校で教鞭をとることになった。子供たちにものを教えるのは楽しかった。子供たちは可愛い。最初の頃はもちろん大変だったが、今ではこれが私の天職だとさえ思っている。大袈裟だろうか。
それから一年たった今でも、海には、あの砂浜には、行けていない。
あと1話で完結します。