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二度目のパフェ

二人それぞれの思惑を持ったまま、夜はふけてー


(昨日は色々考えてしまって、全然寝付けなかった…)

(考えても仕方がないことはいつもきれいさっぱり割り切れるのに、もう!)


華はこ綺麗に身支度を整えたものの、顔は睡眠不足でどんよりしていた。

部屋に置いてある鏡台で顔を確認するとクマまでは出来てないようだったが、目が充血している。


(…ひどい顔)

(全く名前で呼んでみたり、か、可愛いとか仰るからですわ!)

(本当、貴人様には振り回すだけ振り回された気がする…これだから女性に慣れてらっしゃる方は困るわ!)

(まぁ、お話していて楽しかったのは本当だけど…)


両頬を、ぱんっと叩いて気合いをいれる。

そうして、貴人を今度こそ本当に見送るため玄関に向かった。


父と兄はもう仕事場に向かったので、華がお見送りする。

華ももう少ししたら、女学校へ向かわないといけない。

母はというと、なぜか変な気を回して、先程挨拶をすませ家の中に戻っていってしまった。


(あとはお二人で…って。何もないわよ)



「色々と世話になったな」


「こちらこそ、です。中々経験できないことばかりでしたわ」

華の紛れもない本心だ。色々あったが、これは事実だ。間違ってない。


「そうだったな」

貴人もふっと笑いながら、同意してくれる。


だが、華は次の言葉を紡げずにいた。


「………」


二人の間に沈黙が流れる。


なんとなくわかっているのだ、ここで別れれば、もう会うことはないだろうということ。

たとえ次があっても破棄の話が来た時だ。

だが、それすらも連絡だけで会うことはないかもしれない。


一緒にいたのは数えてもほんの数日だったが、貴人の存在はなかなか強烈に華の中に印象を残していた。

よく考えた結果、どきどきしたのは男性に不慣れなせい、もやもやしたのは一気に距離が近づいたので、友人と勘違いして取られたくなかったから、と華はそう思うことにした。

貴人が聞いたら一蹴されてしまうかもしれないが。


だから本音を言えば、もう少し知りたい…話してみたいという気持ちがあったのだが、華はそれを本人に伝える勇気はなかった。


婚約破棄する、というのが大前提で動いているのに、流れに逆らうようなことはしてはいけない、と我慢する一方で、これで前の日常に戻れるという安堵もあった。



「そろそろ時間じゃないのか…?」

「あ、本当ですわ!そろそろ行かないと…」


「では、帰るとするか。くれぐれも気をつけるんだぞ」

「子どもじゃありませんから、大丈夫です!……貴人様も、お気をつけて」


「ああ」


大層な挨拶はしない。

あくまでも日常の延長のように。

後は流れに任せるだけで良い。

これからのことを考えないといけないと華は思っていたが、貴人なら上手くやってくれるだろう。

そう思えるだけの信頼はあった。

だから、平和な日常を取り戻すまでしばらく何も考えないことに決めた。


貴人と見合いをして出会ってから、約1ヵ月ー

季節は次に移ろうとしていた。


---


結婚が決まると女学校は辞める決まりだ。

決まりでなくても、花嫁修行だの準備だので早々に辞めていく人が多い。

だが、華はまだ日取りが決まらないからと言って無理に通わせてもらっていた。


今、華がしてること、それはーもちろん家の手伝いもだがー、女学校に通うこととブローチの持ち主探しである。


ブローチは縦長で、真ん中にべっ甲で出来た丸の半球がついており、その周りを銀細工で花弁のように縁取りしてあった。

最初見た時は帯留かとも思うような、手に乗るくらいの大きさだ。

裏返して見てみると、潰れてよく読めないが「川田」と書いてあるように思える。

特注で作らせたものだろうか、高価そうなブローチだった。


このブローチだが、貴人と見合いをした数日後、女学校から華が帰った時に持っていた鞄からころんと出てきたのだ。

状況から考えると、貴人が女連れで帝都デパートから出てきた時、周りを見てなくて人とぶつかった。恐らくぶつかった時に華の鞄に間違ってはいった可能性が高い。

となると、持ち主は恐らく…あの急いでいた男の人か。

ブローチなので贈り物にするか、はたまた細工師さんか…など推測されたが、どちらにしろ探していることだろう。


華はこれまでも帰り道で人に聞いて回ったりしていたのだが、成果は出ていなかった。

警察にも届けには行った。

だが、ここの警官だけなのかは不明だが、威圧的に対応された。

又、拾得物がブローチ一つ、娘が単身乗り込んできたということで、全く取り合ってくれなかったのだ。

これが財布やもっと宝石のついたいかにも高価そうな物で、持参したのが大人の男性だったら、もっと対応が別だったかもしれないが。


帝都デパートの近くでぶつかったので、華はいつもその近くのお店に聞いて回っていた。

だが何の情報も得られなかったので、今日は一本裏通りに入って聞き込みをしていた。


「あの、すみません!……このブローチなんですけど…川田さんってお名前があって……」

「そう…知らないですか…いえ。どうもありがとうございました」


(今日も空振りね。そんなに大切じゃないブローチなのかしらね)


ブローチを日に透かして見てみる。

透けるわけではないが、べっ甲が日に反射してキラキラと輝いて綺麗だ。


そうしてもう帰ろうと帝都デパートの前を通る。


「あら、あなた。ちょいと!そこのお嬢さん!朽木のおひいさんじゃなくて?」


華は突然後ろから声をかけられた。

ん?とそのまま振り向くと、そこには見たことある女性とお付きの方か男性が1名荷物を持って立っていた。


「あ!……あなたは確か…パーティーで」

とここまで出ているが、名前が出てこない。


「西島桂子よ。元気にしてらしたかしら?」


(そう!桂子さん!婚約披露のパーティーで、貴人様と親し気に会話してた人だわ)

(しかもあの時不躾な視線もくれたような…)


そこまで思い出して、顔には出さないよう平静を装ったが少し眉がよってしまっていたようだ。


それを桂子は見逃さず、

「ふふ、正直な方ねぇ〜」

と、おでこをつんと指で突かれる。


「取って食いやしないわよ。私も買い物がちょうど終わったところだし…そうねぇ」


そのまま、華が顔に出たのを気にも留めず話しかけてくる。


「あなた、ちょっと付き合いなさい」


「え!」

そのまま力強く腕を掴まれ、有無を言わさず華は連行されたのだった。


---


もうないと思っていたことが、こうもすぐ起こるとは。

華は明福堂パーラーにて人生二回目のパフェと対峙していた。


西島と聞いた時にピンと来れば良かった。

あのパーティーで会ったのだから、親戚も来ていて当然だろう。


「貴人様はねぇ、私のいとこなの」


桂子はそう言った。

確かにこの強引に話を進めるところ…似てなくもない。

そしてせっかくパーラーに来ているのに、この居心地の悪さを作るところとかまで似なくても良いのに…


ちなみに、桂子はとても美人だ。

女性としては少し背は高いほうですらっとしており、今流行りの髪型ー前髪を少しカールして、後の長い髪はくるくると下に巻いてお団子のように仕上げている。

先日のパーティーは着物だったが、今日は洋装、ワンピースを着ていた。

貴人の女性版と言うべきか、切れ長の目で、また口元にホクロもあるのが、とても色っぽい。

強引な性格ではあるようだが、カップを持つ仕草も女性らしく、品が漂うようだ。


(まさしく大人の女性ね…)


「召し上がりませんの?」

「はいっ、いただきます!」


つい桂子を凝視してしまっていた。

せっかくのあいすくりんが溶けてしまう。


美味しくいただきながら、華はこれからどんな話が出るのかと考えを巡らすのだった。

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