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初デエト

寄り道すると言って来たのは、帝都デパートだ。


化粧品、帽子、服、ハンカチーフなど様々なものが揃っている。

舶来品の取り扱いや、展示会の催しもある。

品は高級なものばかりだったが、見るだけの客も多く、観光やデエトの場所として、いつもデパートは賑わっていた。


(どれも素敵なものばかり…)

煌びやかな世界を目の当たりにし、華はキョロキョロする。


実は華は近くに住んでいながら、来たことがなかった。

帝都デパートが出来たのは最近ということもあったが、平日は女学校に行って真っ直ぐ帰宅、休日も本を読んだり、家の手伝いをしたりして過ごしていたため特に行く機会もなかったのだ。


(このハンカチーフには可愛い刺繍がしてあるわ!こっちの帽子は今流行っているものね)

人混みに圧倒されつつ、目はついつい色んなものを追う。


「わぁ…!」

ゆっくり歩きながら見物していたが、装飾品の棚の前に来た時、花モチーフの髪飾りが目に止まった。

(とっても綺麗な髪飾り…こういうのが似合う女性になりたいわ)


「どんなものが好きなんだ?」

少し足を止めて見入っていたためか、貴人が聞いてくる。


「あ…!も、申し訳ありません」

決して貴人の存在を忘れていた訳ではなかったが、問われて初めて、夢中になって見ていたことに気づく。

そして興奮してはしゃいでしまっていた自分を思い出し恥ずかしくなった。


「謝る必要などない。さっき見ていただろう?」

「こういうのが好みなのか?」


こくんと華は小さく頷く。


「そうか。つけてみたらどうだ?」

そういって貴人が髪飾りを手に取る。


「い、いえ!いいんです!…そんな素敵なもの似合うはずもありませんから」


華は言っていて少し悲しくなってきた。

いつかはつけてみたいという憧れを込めて見ていただけなので、今つけてしまったら自分がいかに違うのか思い知らされる気がして怖かったのだ。


いつも変に卑下したりくよくよしたりしない華だったが、この煌びやかな雰囲気に呑まれ、周りと見比べてしまっていた。


「そんなことはないと思うが」

「ほら、俺がつけてやろう」


「いえ!貴人様!」

抵抗を試みるも、デパートで変に騒げないのと、高級な品を壊してしまっては一大事という焦りから、殆ど抵抗にならなかった。


「うぅ…もぅ」

と少しだけ抗議する。だがやっぱり気になっていたものを身につけて、単純に嬉しい気持ちもあった。


「ほら、出来た…ぞ」


目を瞑っていた華が、恐る恐る目をあける。


「貴人様…?変ですか?」

近くに鏡がなく華からは確認が出来ない。



「…」


「…いや、よく似合ってる」

貴人はそう一言告げたきり黙ってしまった。



(ほら、やっぱり!きっと七五三みたいだったんだわ…恥ずかしい)


華は貴人の沈黙について、似合わず言葉が出なかったんだと勘違いした。

本当はとても似合っていて、どう言葉をかけようか貴人なりに悩んでいただけなのだが。

そんなことつゆ知らず、勘違いした華はろくにに確認もせず取ろうとした。


(あれっ?髪が引っかかって…!)


「?もういいのか?」

「ーっ、そうじゃない。俺がとるから」


貴人が絡まりを解いてくれる。


その間、華は大人しく貴人に身を預けていた。

そして、ふと上を見た。


(ち、近い!)


(そういえば、こんなに男の人の近くに行ったことなんてないわっ)

(二人きりで外出だって初めてだし)


貴人の少し骨張った指が、さっきから華の髪に触れて…一生懸命動いている。

吐息も耳にかかっている。


一度意識してしまうと気になって仕方がない。

下を向こうにも解いてもらっているため俯けず、華はそのまま目を泳がせるのだった。


(どうしたらいいの?も、もうダメ!)

華が恥ずかしさの沸点を迎えようとした時、


「よし、とれたぞ」

ようやく終わったのだった。


(まだドキドキしてる…頼むから、おさまってちょうだい!)

あの後、髪飾りを貴人は何度も買ってやると言ってくれたのだが、華は丁重にお断りした。

そして適当に理由をつけて、すぐ売り場から離れたのだ。



そろそろ帰る良い時間になってきた。

「前に俥を」と貴人が店の人に頼もうとした時、華ははたと気がついた。


(そうだ、この前も女の人と俥に乗ってー)



やはり貴人は女性の扱いがとても上手い、

華がデパートに来たのが初めてだと多分気付いていたが、それを踏まえてさりげなく気遣ってくれていた。

それで、大前提を、楽しくてうかれていたために、忘れてしまっていたのだ。


貴人は女性と沢山遊びたい人だということ。

このデパートでの買い物も、いつも誰か別の人と来ていて、いつもと同じ流れであろうこと。

そして、華は仮の婚約者で、今日はただのお詫びという名目で来ただけだったということを。


不特定多数の内の一人でもなく、婚約者だが、恋愛関係もなければ、友人ですら違う。


(私はあの人達より関係がなかったわね)


浮かれていた気持ちが一瞬でしぼむ。

(ドキドキした私が馬鹿だったわ)

(あんなに近かったら、誰でもそうなるんだから)

華は気になりだした気持ちに強引に理由をつけ、無理矢理フタをした。

そして自分のために線をひく。


「貴人様、あの、今日は本当にありがとうございました。私、近くですし、歩いて帰れます」

「帰りまで送ってもらうなんて、そこまでしていただく訳にはいきません。ですので、このまま失礼致しますね」


華は少し早口で、きっぱりと言い放ち踵を返した。



---


(これで終わり)

(後は、知らせがくる来るまで待つだけでいいわ。それと、その後の身の振り方もそろそろ考えないといけないわね)

(お父様お母様は許してくれるかしら)

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