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突然の来客

あの婚約披露パーティーから数日経ち、華は平和な日常を取り戻しつつあった。


というのも、両親からお酒の話は出ず、西島家からも何の通達等もなかったからだ。


(私の考えすぎだったのかしら…それにしても、お酒には気をつけましょう)

(お父様はお酒いけるはずなのだけれど、私はだめだったのね)


元来、華はくよくよ考える方ではない。

兄の心配性すぎな性格も影響してか、そんなに心配しなくても…と同年代の女の子と比べると少しさばさばした性格になってしまった。


そして何事もなく、また数日が過ぎたある日、女学校から帰るとしずが出迎えてくれた。


「お嬢様、おかえりなさいませ。お客様がおみえになっておりますよ」

「お客様?どなた?」

「西島様でございます。客間で待っていただいております」


(貴人様!?)

華は、突然の訪問に少し驚いたが、とうとうその日が来たのだわと身構えたのだった。


ーコンコン


「お待たせしてしまってすみません。随分と待っていただいたのではありませんか?」

慌てて華が部屋に入る。


「いや、そんなに待ってはいない。こちらも突然訪ねてすまないな。少し時間が出来たから、寄ってみたんだ」


さも事前に来るつもりでなかったような返答が来たので少し首を傾げたが、何も言わず黙っておく。


「今から時間はあるか?」

「はい、ございますが…」


今帰ってきたばかりだ。

夕餉までまだ時間はある。


「なら、大丈夫そうだ。君、甘いものは好きか?」

「…はい」


全く意図が読めない。

破棄の話と甘いものの何が関係あるのだろうか?

華は質問したいのをぐっと堪えて、話の続きを待った。


「では、行こうか」

「!」

貴人が立ち上がりかける。


「え、ちょ、ちょっと、貴人様!?今日はあのお話をしに来たのではありませんの?」


「あの話?」

貴人が眉をよせる。


「破棄がどうとか…私てっきり…先日失敗もしましたし…」

華がごにょごにょと小声で話す。


それだけ言うと、貴人はすべて悟ったらしかった。

もう一度椅子に座り直してくれる。


「ああ…今日はその話ではないんだ。君には迷惑をかけるが…時期については、恐らくあと数ヶ月後。もう少しで片がつくはずなんだ。その時が来たら必ず言う」


「そう、なのですか…」


「今日は本当に寄っただけなんだ。君を甘味処にでも誘おうと思ってな」


「!」


「巻き込んでしまっている詫びのつもりだ。それとも、ああ、酒のほうが良かったか?」

意地悪く微笑まれる。


「!」


そうして華は貴人と出かけることとなった。



---


俥の中で華は考える。


(多分、優しい方なのよね。結婚しないって、一体何があるのかしら?)


女の噂が絶えないし、この顔立ち、華族の坊…そういったものが先立って、世間ではぼんくらという印象だ。


だが実際の貴人は、性格に難があるように思えない。少しというか、多少強引で意地悪で言葉足らずなところはあるが、基本気遣ってくれる優しい人だと思う。


お酒の席でのこともよく見ていなければ助けてもらえなかっただろうし、推測だが、華が酔ってしまったことを家に伏せてくれている気がする。


女関係はよくわからないが、それを踏まえても結婚相手なら山程いそうだ。

わざわざ朽木家と見合いをして、しかも本人は結婚しない宣言とは何がどうなっているのやら。


(聞いても教えてくれないでしょうけど、よっぽど良い人がいるのね)


「どうした?」


貴人を見つめてしまっていたらしく、質問される。


「お詫びなんて、私は気にしませんのに。それより他の方をお誘いされるほうが、何かと有意義だったんじゃありません?」


「ほう、嫉妬か」

「違います!私と出かけたら、仲が良いと思われてしまいますわ。破棄されたいんでしょう」

「なるほどな。だが、心配はいらん」

「?」


「ーそのうちわかる」


---


着いたのは、帝都デパート近くにある明福堂パーラーだ。

ここは今、若い女性の間で人気の場所である。

華はいつも真っ直ぐ家に帰っているので行ったことがなかったが、友人から話には何度も聞いていた。

何でもあいすくりんと果物が一緒に皿にのったパフェなるものが美味しいのだとか。


そのパフェとコーヒーを早々に注文し貴人と向かい合って座っているのだが、華は何とも居心地が悪かった。


というのも、時折、知り合いなのか話しかけられて貴人が女性と何度か挨拶を交わす場面があった。

その度に女性達は嫉妬の目を華に向けるか、または私の方が親密だといわんばかりの態度をとってきたのだ。


(こういうことだったのね…)

(そのうちわかるって…女性の知り合いが沢山いるから、たとえ私と食事をしても、私が怒る現場を作るとか、不特定多数の一人だと判断される、とか色々推測出来るようになってるのね)

(確かに前も女性連れで歩いてたし)


そんな状況を当の本人は慣れているのか、涼しそうな顔をしてコーヒーを飲んでいる。


(良い人がいるとかではなくて、本当にただ遊びたいだけの人なのだわ!)

(もう!なんて人の相手になってしまったのかしら…)


華は盛大に溜息をついた。



「お待たせ致しました」

目の前に美味しそうなパフェが給仕される。


「うわぁ美味しそう…!」

思わず声が出た。

さっきまで心の中で延々と文句を思っていただけに、少しバツが悪い。


こほん、と一回咳払いをし、華は少し澄ました顔でパフェのあいすくりんをひと匙すくい口に運んだ。


(んん〜、甘い!)


華族の端くれなので、一応食べたことはある。

が、そう頻繁には食べていない。


もう一口食べる。

(はぁ〜幸せ)


もう居心地の悪さなど気にも留めず、華は夢中で食したのだった。


「美味しかったか?」

食べ終わると、貴人に聞かれた。

「はい。とっても!」

少し興奮気味に華が答える。

お腹が膨れて、毒気も抜けてしまった。


そんな華を見て貴人も満足そうだ。


「せっかくだ。帰る前に、寄り道でもしていくか」

そうして、華の奇妙な初デエトが幕を開けたのだった。

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