持たざる者と捨てた者
「そうよ、あたしいろいろ調べたんだから。昔から稀だけどいるんだって。1ヶ月前に分離したって話題になったじゃない」
「知らなかった」
「お、ようやく反応したな」
サキコが笑う。
ハヤタはユーリルの事を全て自分から遠ざけていたため、何も知らなかった。
「何処にいるのその人?」
「地方に引っ込んだって言うから、どっかの田舎にでもいるんじゃない?なんだったら調べて来てあげるわ」
この日初めてハヤタはサキコに感謝した。
(どんな人なんだろう?なんで分離したんだろう?ユーリルは生涯のパートナーだっていうのに)
ハヤタはサキコが調べて来た住所を頼りに、都市からずっと離れた田舎の集落にやって来た。
とても小さな村で、見かけるのは老人が多かった。
ハヤタは2日前にフードをかぶって夜の闇にまぎれて家を出た。近ごろ感じたことのない高揚感がハヤタを包んでいた。それに後押しされて、ここまでやって来たのだ。
白髪頭の老人に道を尋ねる。
言われた通りに行くと、村のはずれに小さな小屋があった。畑に隣接している。その畑には青々とした野菜が育っていた。
『その人』はすぐわかった。
サキコがニュース記事をプリントアウトして渡してくれたからだ。
「ショーターさん?」
畑仕事をしていた若い男性が振り向く。
思っていたよりずっと健康そうな顔立ちであった。日焼けしているせいでそう見えるのかもしれない。長く伸ばした髪が世捨て人を感じさせる。
ハヤタが事情を話すと、彼はにこやかに迎えてくれた。
つづく




