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―体調は良好。
まだ若いこの体は肌が透き通っており、もちもちと弾力がすごい。もう色は健康そのもので体力も回復した。
髪の調子もすこぶるいい。なんせ髪から淡く光る粒子のようなものが飛んでいるから。
私が考え込んで、結局熱をぶり返してしまったあの時から三日が経った。
母親や父親は一切見舞いなど来ず、居るはずの兄貴も私の部屋には来なかった。来るのはせいぜい忙しそうに動くメイドさんだけ。
正直、ミッシェルがグレてしまった理由が分かった気がする。
親の愛情を受けられずに育ち、何でも言うことを聞いてくれるメイドさんがいれば正直ああなってしまったのもしょうがない気がした。
そりゃ、お嬢様気質にもなるわな、っと。
そんなこんなで私は今、髪をメイドさんに梳いてもらっている。
それはなぜかというと、ここのところ、私がおもっくそ体調を崩していたので、国王の息子、つまり王太子殿下がこの家を訪問するという。
お見舞いとかなんだとか、らしい。
だから今日することは、お茶会と談笑ということだ。
こっちの精神になってからのお茶会というのは初めてである。
しかしそれはお嬢様の方のミッシェルが覚えてくれていた。
どういうわけか知識の共有はできるようであった。言葉もきちんと伝わるし。
それとミッシェルは自頭はいい方だと判明した。
覚えなければいけないことはすぐに覚えることができていたようだ。
しかし、ゲームの中のミッシェルはバカという設定になっていた。成績は良い時で中のチョイ上ぐらい。しかしそれは、わざとしていたんじゃないか、とか思ってしまった。
親の興味を少しでも引きたくてそうしていたのではないか。
本当はそんな設定はなかったかもしれないのに。『かもしれないこと』を考えてしまって、馬鹿らしくなって、そしてなんだか少しだけ可哀想だなと思った。
「お嬢様、御髪を整え終わりました、お次はアクセサリーをお選びいたします、よろしいでしょうか」
「イイワヨ」
言葉が片言になってしまったわ、お嬢様言葉はまだ慣れないわねん。
―そうそう、このメイドさんは以前の私が、「ジュースがどうのこうの」でぶちぎれたメイドさんだ。
体調が少し良くなって自分一人で歩けるようになった後、慌てて謝罪という名の自殺宣告をかましてきた。死んで詫びるとかいう。
ジュースの件だな、と理解した私は、もともと私が悪いし、というかぶっちゃけ今の私にも関係ないと思ったので適当にあしらった。
そうしたら相手は、その場ですすり泣き始めた。どうやら相手は、私の時間をメイドさんごときに割くのはもったいないとか、勝手に死んどけとか、そういう方向の解釈をしたらしい。
話を聞いて落ち着かせるとともに、何か罪滅ぼしをさせてほしいと頼んできたので、丁度今日の準備の手伝いを頼んだ次第である。
「お嬢様、準備が整いました。王太子殿下がご到着いたしますので、お出迎えをお願いいたします」
(第一の鬼門、いらっしゃいなり)
―覚悟の気持ちと共に、あぁ、この人の声は安心するな、とかそんなことを思った。
――さぁ、気張っていこう。




