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―あのプレちゃん事件から、約五年の月日が経った。
小学校と中学校のご友人とのお付き合いを当たり障りなく過ごした私の肉体は今年でもう12歳になり、しかし残念ながら精神年齢は変わらず。
―あの後、私はなんとかプレちゃん達を所定の場所に移すことに成功した。
キレジューバはメイドさん達に作ってもらった籠の中へ、ハンリコは、さらにあの後部屋の模様替えをして『ハンリコ専用スペース』などを作ったりした。そしてルーフェンはというと、前居たところは少しだけ日当たりが強すぎると思ったので今回は出来るだけ涼しい場所の庭に移したのだった。…正直にいって苦労した。もう…、それはもう本当に苦労した。
天井付近を飛んでいたキレジューバに近づき捕まえたはいいものの、籠に入れるまでめっためたにクチバシで突かれるは、ハンリコからは電気でビリビリやられるはで。
そして本当に苦労したのはルーフェンだ。どつかれ、けたぐられ、全身傷だらけになる勢いで私に襲い掛かってきた。でも、今冷静になった私にはその気持ちが分かる。なんせ自分にトラウマを植え付けた人物なのだ。そう簡単に警戒を解いてくれるはずはなかった。
でもその時冷静になれていなかった私はその後もみんなを私に懐かせようと奮闘したのは良い思い出だ。
しかし今や、皆私のことを認めてくれているのが分かるぐらいの距離にはなれたと思っている、…私が一方的に思っているだけだが。
私がキレジューバを呼んで腕を出せば自動的にそこに乗ってくるようになり、ハンリコも同じように呼べば肩に乗ってくるようになった。電気を流されてピリピリするなんてこともない。天然の羽毛と柔毛が両サイドにあってとっても触り心地がいい。
「きゃう!」
すると足元から可愛らしい声が聞こえた。
自分の足を傷つかない程度にカリカリしてくる動物。…いやこの子の場合魔物といった方が合うだろう。その子を私の右腕に抱える。
実はキレジューバをプレゼントしてもらった後、その一週間後ぐらいに王子が家に『押しかけお茶会』をしに来たのだ。前まで私が誘うまでは絶対自分から来なかったというのに。『何だなんだどうした』と。もしかしたら頭を打って私のように人格が変わってしまったのではないかと。本気で心配になった。
そしたら、なんというか、予想通りミッシェルの笑顔にやられていたようで『ミシェーのあんな可愛い笑顔が見れてうれしかった、だから気持ちとしてこの子を受け取ってほしい』とまたもやプレちゃんを寄越してきたのである。これにはさすがの私も頭を抱えた。これからこの家を脱走する人間に何てもんを寄越してくれたんだ、と。何やってくれてんだこの王子はと。
―しかしプレゼントが嬉しくないわけではない。どちらかというと、もんのすんごくうれしかった。だからその時は王子の気持ちをありがたく頂戴した。第一、王子は私がこの家を脱走するとは思ってもいない。だからここでウダウダしていても仕方ないという決断に至った。でもまたこんなビックリサプライズをやられても困るので『嬉しいよスマイル』を放ちながら、次はこんなことがないように、としっかり王子にくぎを刺した次第である。
そのお茶会が終了した後私はこのプレちゃんと対面したのだ。
そこに居たのは『黒い毛のフェネックのような生き物』であった。種族名は『コウコ』というらしい。王子からは種類的には動物ではなく魔物だがそんなに狂暴ではないので大丈夫だろう、と言われていた。その通りだったのだがもちろん最初はそんなに懐いてくれなかった。一回だけ風〇谷のナ〇シカのように『怖くない怖くない』というようなことをしてみたが痛いだけで終わった。しかしある時コウコがこの家に慣れて緊張の糸が切れたからか体調を崩した時があったのだ。どうにかできないかと悩んだ結果私は魔法を使うという結論に至った。実を言うとこの魔法を使うのはこれで二回目だった。この症状はキレジューバもなったのである。その時はネイビスさんに補助してもらいながらなんとか成功させることができた。命が懸かっていたのでめちゃめちゃに緊張したがなんともなくて良かったと思う。そしてそんなこんなで懐かれたのは結果的には良かったと判断したのだった、うん。
―あれから五年経ったというだけあって皆体に変化があった。
キレジューバは綺麗で可憐な女の子に育った。幼さを残していた羽毛は今や見られず可憐の中にも力強く凛としている様子が見てとれた。一度その羽を広げて羽ばたいてみればキラキラと綺麗な粒子が飛んでいるのかと錯覚させるぐらい美しくなった。その光景を見て私は、子供の成長に感動していた親はきっとこんな気持ちだったのだろうなぁ、と思ったものだ。
そしてハンリコ、会った当時は少しゴワゴワしていたその茶色と白と黒の毛は今や私の手入れでもっふもっふのふっかふっかだ。電気を帯びているので静電気を心配していたのだがどうやらこの毛は電気の影響を受けないらしく手入れがさほど大変ではなかったのを当時の私は覚えている。
そしてルーフェンはというと…。
「よしっ、じゃぁ三人とも、牡丹の所に行こうか」
―そうそう、牡丹というのはルーフェンの名前だ。他にも、キレジューバは臣。ハンリコはメスだったこともあり燈心、コウコはオスだったので元育と名付けた。普段の呼び方はくんやちゃんを付けたりつけなかったりしている。
ネイビスさんたちからの指導で、名付けには大まかに分けて二種類存在することが分かった。ここで使う魔法は契約魔法というものだ。
一種類目は自分の血と契約を交わす対象の血を混ぜて呪文を唱え従属させるような魔法。二種類目は魔法紙の契約書に自分の名前と相手に付ける名前を書きお互いの魔力を流しての契約。魔力がない場合は相手がそれでいいと了承をしたら契約ができるとのことだった。私がやったのはもちろん後者の方である。
前者の方は「血ぃ!?」とか思ったりしたし、なるべく痛くはしたくなかったので選ばなかった。そして何よりこの子たちの人生、いや、獣生?を縛りたくはなかったのだ。魔法紙での契約はその紙で契約したどちらかが燃やせば契約は破棄できる。その時になったら燃やそうと今は私のアイテムボックスの中だ。
あ、そういえばサラッと言うが火水風土雷闇光属性の魔法を私はすべて使えた。攻撃も防御両方とも。あと生活、回復、補助、空間、召喚、無属性などなど、使えた。
おう、使えたんだYO!!!!!!!FO~~~~~~!!!!!!!!!
おん、いろいろこの五年間で試してみたけど一個一個確認していってできた時の喜びは半端じゃなかった。明日は何をするんだろう、やら、してみようかな、など考えていて寝れないときも多々あったぐらいだ。しかしさすがに全部使えるのを悟られるのはネイビスさんたちでも御免だったので火と風、光が少々という事にしてある。
案外ネイビスさんたちからいろいろ教わったことを応用して、ほかの魔法に利用すれば他の魔法もどうにかなったのである。前世の記憶や知識と結び付けて考えることができたので案外、前世の人生も悪いものでもない。
「あれ…おっ居た居た、ぼた~ん!ブラッシングゥーの時間だぞ~!」
私は少し視線をさまよわせた後、お目当ての動物の名前を呼んだ。
すると『どっどっどっ』という地面を踏み鳴らす音が聞こえる。
その動物は待ってましたぁ!といわんばかりのスピードでこちらに向かってきた。
―縦の大きさ、約140センチ、横の長さはもう私の身長なぞゆうに越していた。
ぬっ、と私の前に立ちはだかるその巨体は威圧感があり小さい子供が見ればたちまちに泣きじゃくってしまうに違いない。
白い毛がふわふわと私の顔面をとらえる。
そう、五年前とは打って変わってこのルーフェン、いや牡丹は急成長をしたのだ。今だったら背中に乗ってお馬さんごっこができるかもしれないが牡丹が嫌がりそうなのでさすがにしないでいる。
(まじでけぇ)
ブラッシングは週に三回程度しているのだが毎回会うたびに思う。
マジででけぇ!!!!
…と。普通のルーフェンはこれよりも全然小さいらしく牡丹サイズは珍しいのだとか。
「まっいっか…、ほーれ今日はどこしてほしいんじゃ~?牡丹」
―牡丹のブラッシングが終われば次は臣や燈心、元育のブラッシングだ。
さぁ、今日もせめてもの罪滅ぼしに愛をこめて梳いてあげよう。




