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悪役令嬢に転生した少女は愉快に生きる!  作者: 踊り狂ったピエロ
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そう高々に宣言した私だったが突如背中に衝撃を受けた。

それは結構な力だったので、少しばかりズキリと痛みが生じその衝撃の勢いに乗って床に手をつく。


何事かと思ってその正体を探るために後ろ向いた。

一瞬だけ『敵襲か!?ふぅん!?』などと思いはしたがその考えは杞憂だったらしい。後ろを見ると私が先ほど立っていた場所にルーフェンがいた。


―その様子はまるで私のことを好いていないさまで、ふんっ、と鼻を鳴らしこちらを見下すように立っている。目には動いたら容赦しないぞ、お前なんぞ認めるか、とでもいうかのように怒りの炎が揺らめいていた。


その状況に、カノンさんはもう毎度のことながらに慌てふためき、ネイビスさんはこれにはさすがに肝を冷やしたのかルーフェンを押さえにかかる。しかしその反動で片手に抱え込んでいたキレジューバがネイビスさんから逃亡してしまった。

しめた―!というようにその隙をつき私たちが手の届かない天井へと飛ぶ。

それにも慌てたカノンさんに再度、よっしゃ!と思ったのかハンリコは自分をつなぎとめているリードごと引き連れて走り、部屋の天井に引っ付いた。そこはキレジューバが先に居た場所である。


―これが起こったのは、ほんのわずか数秒の出来事だった。


私はというとこの騒動に参戦できずに依然、床に手をついたままだった。背中に受けた痛みが想像以上に痛かったらしくズキズキを疼いている。…ネイビスさん守ってよ…。


―いや、それは今は置いておこう。まずは辺りの状況の確認から。


ルーフェンはネイビスさんに無事抑えられているが、今は抵抗の兆しはない。

ハンリコとキレジューバは天井の同じ場所を取りあって喧嘩している。


しかしなぁ、…ハンリコとキレジューバがいる天井は梯子かなにかで捕獲するしかないだろう。ネイビスさんは生憎ルーフェンで手いっぱいだからカノンさんと私で。

いや、しかし、ルーフェンはカノンさんには懐いていたような気がする。凶暴化したのは私がいきなりカノンさんの近くに行ったからだ。


―幸い、この部屋の窓はきっちりと施錠されていたのでプレちゃん達が逃げ出すことはなかった。うん、そこだけは本当に安心した。


考え事をしているとふと、横から『グゥゥ』という音が聞こえる。…ルーフェンだ。どうやら私のことが相当に嫌いらしくおんなじ空気を吸いたくない、と言っているのが分かるぐらいに嫌悪の念を私に送ってくる。


「ちょ、カノンさん、手を貸しておくんなまし…」


いまだ腰の曲がったおばあちゃん状態から抜け出せていない私はカノンさんに助けを求めた。




―――――――――――――

―――――

――


カノンさんが手を出してくれたので私はその手を掴む。

体勢を立て直そうとするとズキリ、と痛みが走り顔を歪ませるが今は気にしないでおく。


まず、私はルーフェンとの接触を試みた。

う゛う゛う゛、濁音がついた可愛らしくない声を発しながら私に向かって威嚇してくる。


…まず何故このプレちゃんはこんなにも私を毛嫌いしてくるのだろう。人間がただ単に嫌いなのか。

いや、違うな。

ルーフェンをカノンさんがこの部屋に連れてきた時、やはり私の目には懐いるように見えた。

とすると『人間嫌い』という線はないと考えた方がいいだろう。…今もネイビスさんに取り押さえられているのに何故だか敵意は向けていないように思う。


―となるとやはり…ミッシェル時代のことをだろうか、少し記憶を遡ってみよう。嫌な予感がするが多分、そこに答えはある気がする。


―その日は王子とお茶会をしていた。

ミッシェルは王子にハツハツと話しかけ王子は顔に笑みを浮かべその話に耳を傾けているだけ。

そしてミッシェルの長い話が終わり、ふと王子は思い出したような仕草をした。

『今日はミッシェルにプレゼントがあるんだ』、そういった王子は毎度の事あの護衛さんたちに指示を送りプレゼントを運んできてもらう。

そこに居たのはこのルーフェン。

今よりも体格は一回り小さく角にはカバーを被せられていた。なんといっても居るのは檻の中。このルーフェンはカノンさん曰く野生の出らしく、小さい時に親から引きはがされこんなところまで連れてこられたのだと容易に想像できた。

挙句の果てに檻の中にぶち込まれているのだ。もうそれだけでもトラウマもんなのだが重要なのはこの後のミッシェルの行動な気がする。


―ルーフェンはキレジューバと同じく雪国の出というのもあり体毛は真っ白。しかし地肌は黒く、まだ幼いのでもさもさしているのだが、あまり不潔さは感じさせない。

そんなルーフェンを見たミッシェルは大興奮。その日のお茶会はミッシェルの希望で珍しく早く終わりバタバタとドレスを脱いで一目散にルーフェンに飛びついた。


その時のミッシェルは四歳。良し悪しの判断の意識が芽生えてもいい年頃なのだが如何せん周りは逆らわないメイドばかり。

前まではクウーバメイド長がきちんとミッシェルの教育をしてくれていたのだがミッシェルがこれを拒否。お母さんでもない人が私に口出ししてほしくないとクウーバメイド長を突っぱねた。私の今の父親に「あのメイド変えろ」と抗議して私の担当を外されてしまったのだ。現在ではクウーバメイド長は今の私の母親のメイドをしているという。


そういう訳で、メイド&ルーフェンにやりたい放題の状況が完成したのだ。


ミッシェルは檻に居たルーフェンを力ずくで引きずり出し、上に跨りになってお馬さんごっこをし始めた。まだこの時はルーフェンの方が小さかったにもかかわらず。


…この時点でもう感想が「うわぁ……」しか出てこない。が、これだけではなかったのである。

前に進まないからと馬にするように見様見真似みようみまねの芸当でルーフェンの腹を蹴った。これにはさすがのメイドさんも止めに入るがミッシェルは大きな声で一喝、癇癪一歩手前でメイドさんも出るに出れず。

そしてミッシェルがルーフェンから降り、メイドさんたちがホッとしたのも束の間、ルーフェンの前に立ち、口を力強く掴んだのだ。

これにはさすがに抵抗したルーフェンが声を上げようと口を開けようとするがミッシェルに抑えられていて開けようにも開けれない。

そしてこの行動にも頭にきたミッシェルは掴んでいるその口を思いっきり握りぶんぶんと力任せに振ったのである。

何回か振られた後ルーフェンはなんとかその行為から逃げ出すことに成功した。

その後ルーフェンはメイドさんの下に駆け寄る。

それにとうとう癇癪を起したミッシェルは、『なんで』だの『どうして』だのわめき散らし、それで体力を消耗したミッシェルはおとなしくなりもうルーフェンには興味がなくなり皆を下げさせた―


―というのが私の中の記憶である。

それ以来ルーフェンには会っていなかったが―。


―おい!!!!ミッシェル!!!おい!!!おいおいこら!!!!!何やってくれとんじゃこらぁ!!!!

これは!!!!!完璧に!!!!!私というかミッシェルがわりぃなぁ!!!!!ああ!!!うん!!!


はーーーん!もうこれ関係修復不可能じゃね!?無理ぽよじゃね!?



…というのも、何故私がこのプレちゃん達と仲良くなりたい、ならなくてはいけないのかというと。

前々からも思っていた通り、私はこの家を出ていくのを決めた。そうすることでアイネルートに入らず自由にこの異世界を冒険できると踏んだからだ。そしてこれには私だけではなくみんなが得をするというなんともハッピーな選択なのである。私がいなくなることで主人公ちゃんの攻略対象のみんなは自由にのびのびと恋愛し真実の愛という者を手にすることができるのだ。ミッシェルという障害がないのだ、恋愛パラダイスである。


しかしここで問題が発生だ。

私がここに居なくなった時、この子たちはどうするのだろうか?

『愛でる人』という建前上の人間がいなくなってしまったらこの子たちはどうなってしまうのだろうか?と。

良くて野に放されるのだろうが、如何せんルーフェンは暑さに弱い、冬の時期に野に放されても生まれ故郷には到底たどり着けないだろう。

では、キレジューバは?

答えは量産される。

生の苗木にされてしまうのだ。しかもこの子はメス。

キレジューバはとても貴重な鳥なのでそこそこお金持ちの人たちはそれを生業の一つにしているという貴族もいる。


ハンリコはというと、ベットとしては意外と流通しているようで貴重性はあまりないが、無責任にここから野に放つと大きい鳥に食べられてしまうかもしれない、最悪の事態を考えればの話だが。



―はぁ、とにかく慣れてもらうぐらいの距離にはならなくては。


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