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「うおぉ…」
私は静かに声を上げ、驚きを露わにする。
何故ならそこには―。
「ミッシェル様のご命令通り、動物たちを連れてまいりました。えっと、こちらはハンリコという動物でこちらがルーフェンという名前の動物です」
私は少しだけ悩んだ。
何しろ予想に反して動物が二匹いたのだから。
一匹目の動物はハンリコという名前らしい。
こちらのプレちゃんは私が予想していたあの『体に電気を帯びているモモンガのような形をした、だけどしっぽがえらく長い』というモモンガもどきちゃんだ。
…問題は二匹目である。
これもミッシェルが覚えている記憶の中に居た動物だ。
名前はルーフェン。
見た目が『羊とアルパカをヒュージョンしたような形で頭から黒い角が生えているもっふもふした』動物である。角と思わしきものには革製の保護袋が被さっていて安全面は今のところ問題はない。
…のだが、正直この家にルーフェンがまだいるとは思わなかった。
―カノンさんの話によるとこのルーフェンは元々、雪国出身。
しかしこの土地は春夏秋冬がはっきりしている。とてもじゃないがまだこんなに小さい動物を野に放しては途中で死んでしまうだろうという話になったそうだ。私の今の父親に頼んで冒険者の人に雪国に連れて行ってもらうのはどうか、と信頼の厚いクウーバメイド長もお願いしたそうだが断られてしまったのだという。
因みに父親は動物をメイドさんたちが放しているのは知っている。しかしやはりというか、興味があるのは地位と権力だけらしい。王子に気に入られたいのならそこらへんもしっかりしとけよ、と思うのだが仕事が公爵というだけあってよほど忙しいのだろう、そこまで気に留められなかったようだ。
話は戻るが、仕方なく、この家でメイドさん達がシフト制でお世話をしていたそうだ。
こんなモコモコな毛を纏っていても暑さにやられていないのは首から下げている魔法具のおかげなのだという。ちなみに魔法具のお金はクウーバさんが払ったそうだ。
…いや、なんというか、私がしたことじゃないけど我が儘娘がすいませんでした。特にメイド長のクウーバさん。
魔法具は基本的に高いらしく、そしてネックレス型に魔法を扶助ともなると一メイドの給料じゃとても手が出しずらいのだとか。
―うん、クウーバさんにはお金を返しておこう。幸い、私には腐るほどお小遣いがあるので懐は全然痛まない。
問題は…このルーフェンをどこで飼うか、だ。
「ん?それなら元々飼っていたところでミッシェル様が育てたらいいんじゃないですか?」
疑問に思ったことを口にするとなんとも簡単にネイビスさんから回答が返ってくる。
あぁ、そうか!と私も納得した。
なんせ、こっちに転生してから基本的にこの部屋でしか行動していなかった。なので脳みそが勝手にこの部屋限定、と考えていたのだ。
なんという見落としを、と私は自分に突っ込みを入れる。ミッシェルがもう見ているが、やはり『私』で異世界の建造物を見てみたい。それもあるがゆえに大賛成だ。
「ちょ、ガガルさん!ミッシェル様になんてことをっ―」
するとカノンさんが言った。
あ、そっか、カノンさんとは微妙な感じでさっき分かれてしまったから委縮しているのか。
過去のトラウマは簡単には薄れない。
私はカノンさんに声をかける。
「カノンさんっ、さっきはすいませんでした。めんどくさいことの連続できっとすこーし八つ当たりしてしまったんだと思います、…えっと、ほんと、すいませんでしたっ!」
頭を下げ、誠心誠意謝る。自分に非があったら謝るのは当然なのだ。それとカノンさんとはここに居る間は良い関係でいたい。
すると焦った声が飛んでくる。
「ミ、ミッシェル様!?ミッシェル様!顔をあげてください!え、いやっ、私はそんなことされるほどの人間ではありませんからっ」
その言葉は私に引っかかった。
「…カノンさん、『私』が見た限りカノンさんは『相手に非があったとしても謝られなくていい人間』では、ない、です。…だから自分のことをそんな風に言わないでください」
今までミッシェルが言っていた。本当に役に立たない人間だと。
昔の私がやらかしていたので今更言い訳もできないが、でも、でも自分で自分を卑下する事はとてもつらいことだ、それに他人に何を言われようが自分だけは胸を張って生きてほしい。自分で自分を褒めるのだ。
「…すいません、偉そうに。でも私はもっとカノンさんに胸を張って生きてほしいです、今までのことを水に流してもらわなくても、大丈夫です、ただ、えっと、私が言いたいのは『自信をもって楽しく生きてください』ってことなんです…けど…」
―慣れないことをして話に纏まりがなくなってきてしまった。
数秒沈黙が続く。しかしこれを破ってくれたのはネイビスさんであった。
「まぁ、要は?人生楽しく生きていこうってことですよね?深くは考えないでいいじゃないですか、こんな雰囲気になったらそれこそ楽しくない、ですよ?」
ほいきた、とばかりに私はその言葉に乗る。
「―あぁ!!そうでだすね!!!」
ばっ、私は動く。
カノンさんとネイビスさんの片手を手に取った。
「楽しく!!そして元気に!!プライドを持って!!生きましょうや!!」
高々と宣言する。
私の声は部屋中に響き渡った。




