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―ミシェーとのお茶会を終えたぼくは護衛のロンとシュレンと共に馬車に乗り込んだ。
ぼくの隣にはロンが座り、その前にシュレンが座る、いつも通りの風景だ。
「はぁ~、今日も今日とてミッシェル様は元気だったな、相変わらず」
口を開いたのはロン。背もたれに重心を預けながら彼は言う。
…ロンは正直、ミシェーのことを好いていない。
お茶会から帰る時、いつも、ミシェーのことを気に入らないとばかりに言う。
「こーら、ロン。王子の前でその言い方はないんじゃないですか」
「は~、だってよぉ―」
ぼくの目の前でこんなに構いなく言えるのはロンぐらいだろう。もちろん、これをぼくがどうかする、ということはない。
―ぼくとロンとシュレンは、ぼくが幼い時からの護衛である。そして良き友人だ。
少しの愚痴や素での話し合いは昔から変わらない。それは今も同じ。
元々、ロンとシュレンは貴族の出ではない。
王族の護衛というのは普通、貴族の中でも最も腕の立つ人物がする職業だ。
―ある日、ぼくがお父様と城下町を見物に言った時、二人と出会った。
その時はぼくが4歳、ロンは15歳、シュレンは17歳。
ロンとシュレンは元は孤児だった。同じような境遇の子たちと集団で暮らし、あまり日の光が届かない裏路地を『住処』としていて、髪は伸び、服は色あせていて生活は裕福ではなかったと聞いている。だからか、出会った当初はやせ細っていて肌の色は健康身がなかった。ロンは元々肌が褐色がかっていて、筋肉質。それとは反対にシュレンは色白で頼りがいがないのが第一印象であった。
そんな中、僕は不謹慎にもその、たくましく自由に生きる二人に引かれてしまった。
ある時、その喧騒の中に二人はいた。二人と親しい女の子が理不尽を受け、それを庇っての騒動だと後から聞いた。
ぼくは二人に声をかけた。ぼくの下で働かないかと。
最初こそはバカにしているのかと罵られてしまったが、ぼくは感を入れず二人を護衛として雇った。そして女の子はぼくの世話役として。
ぼくが雇うことによって他の仲間達に貧相な生活をさせないで済むという理由を付け、三人はぼくの元に来てくれた。今も仲間に仕送りをしているという。
「んでよーそこで俺の事を肘で押してきてよぉ」
「あのキレジューバが入っていた籠を持っていた時ですか?」
「そうそう、防具の薄いところにクリーンヒットしてよぉ、子供ながら痛かったぜ」
「ロンに何かしているとは思っていたけど、そんなことしていたのですか?ミッシェル様は」
「そーそー、…って、あれ?どしたー?王子」
「あ、ううん、少し、昔を思い出していて」
ふーんとロンは頷いた。
その後に続けて言う。
「てかてか!それはそうとさ、帰るときのミッシェル様、めちゃくちゃ笑顔だったくね?あれはさすがの俺でも鳥肌もんだわ~」
「!、それは私も思いました。ミッシェッル様もあのようなお顔ができたんですねぇ」
ロンに続けて相槌を打つシュレン。
「…それにはぼくも驚きました、ミシェーがあんな顔で笑うなんて」
「な!驚いたよなぁ王子!」
―そうなのだ、あんなにうれしそうな顔をしたミシェーを見るのは初めてと言ってもいい。
今までぼくからのプレゼントを受け取っていても、嬉しそうな仕草はするのだがすぐに手放して、生き物などは最終的にはメイドさんたちが世話をするという始末だった。
…ミシェーは『あの事件』以来どうも様子がおかしい。週に何回もあったお茶会は数日の、それも数時間だけに減り、ぼくをあまり家に招こうとはしなくなった。
ミシェーの事を知っている人に話を聞いたがどうにも自分の部屋に籠りがちになっているという。メイドの数も今や、常にいるのは一人だけになっているのだとか。
でも…。
「―もっと見てみたいかなぁ…」
「…あ、やべっ、俺ここで言っちゃいけないこと言ったかも…」
「ほら、だから王子の前では言わない方がいいとあれほど…」
ロンは額に青筋を立て、それを見たシュレンは大きなため息をついた。
―婚約者のあんなにいい笑顔を見たいと思うのは当然だよ?
…ぼく、頑張ってみるよ、ミシェー。
―少年は窓から空を見上げる。
まだ幼く、頼り気のないその少年は、小さな胸に一つ、決意を示したのであった。
10月20日、あげれそうにないです。申し訳ない。




