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面白見たさ…?
…いまいちこいつの言っていることが理解できなかった。…いや、あるいは理解したくないと脳が拒否しているのか。
冷静になって考えてみよう。
面白見たさ…とは?
『私』になる前のミッシェルはそれはそれはとことん性根の腐っていた少女だった。きっと、というか確実に周りの人たちに迷惑をかけてきただろう。多少なりと恨みを買っているに違いない。
―まさか、脅されている私を見てほくそ笑んだり、はたまた、私を手駒にしていろいろやっちゃってくれたりとか?
―ああ、それと、今思い出したが、ミッシェルはひどく獣人、ケモノビト、それと魔物を嫌っていたりしていた。理由はちっぱけなものだった気がするが。
―昔、一人を寂しく、惨めに感じていたミッシェルは護衛とメイドさんたちを連れ、町へ降りたことがあった。
その時にミッシェルは見たことがあった。
下働きとみられるケモノビトの少年達が、馬車馬のごとく働かされている所を。
その人数は計三人。
三人は同じような服に統一されている、そしてそれの不潔さも同様なものだった。
馬車の中からとはいえ、綺麗な道に小汚い格好をした人間はさぞ目立っただろう。
人は普通とは違うものに自然と良くない感情を向けてしまうものだ。
―だから言ってしまったのだ。
その横に馬車を止め。
格下を作り、少しでも心の平穏を保とうとする人間特有の―。
「―まぁ、なんて汚いの。せっかくお父様たちが築いてきた輝かしいものがあなた達という泥のせいで台無しだわ」
―理不尽で傲慢的な一時的幸福感。
言ってしまったのだ。
そしてミッシェルは見た。
無表情を貫きながらも眼の中で燃える炎を。
聞こえないふりをしているが、涙をこらえ雇い主の指示に従い、身を削っている生き物を。
感情はないとされ何にも興味を示さずただ生きる屍と化しているその様を。
…う~ん、あれは約五歳児には強烈だったと思うの。
まぁ、自業自得なんだけどね。
因みにこの国は表面上は奴隷制度こそは認められていないものの、扱いはそれだ。
んで、その場面をもちろんこの男も見ているわけで。
―とりあえず、この男は私を困らせたいのか?と。
ケモノビトの子たちを想ってたりして、少しでも腹いせできればと思っているのだろうか。
私は再度その男を見る。
なおもにやついているその男に一撃パンチ入れて記憶飛ばないかな、などと考えたがすぐに、あちらの方が手練れだと判断し断念した。
「面白見たさ、とはどのようなことでしょうか?」
「…ふっ……!」
「…ふ?」
―ふ??
「ふっ…!…あっはっはっはっは!!」
いきなり笑われて私は驚きと戸惑い、動揺を隠せていないだろう。
「あ~~!!いいよっ!いいよミッシェル様…!」
「…はっ…?」
フリーズしている私をよそになおも男はひーひーと笑っている。
まじでこいつ殴ってやろうかな。
「―ねぇ、なんでミッシェル様ってそんなに面白くなったの?」
「は?」
「だって、前のミッシェル様は、何をしても八つ当たりして、怒って、八つ当たりして。ねぇ、なんでそんなに変わったの?」
『前のミッシェル様』、と言われてドキッとしてしまったが恐らくは階段から落ちた時のことだろう。
ここで素直に前世の記憶が戻ったといってもこいつは私のそういう世界の設定だと笑って流してノッてくれそうな気がしなくもないが。
…正直こういう奴には言いたくないのが本音である。
「それ、答えなくてはいません?」
「いいや、答えても答えなくても、どっちでも」
ほっとした。正直ごまかせる、というか良い言い訳が思いつかなかったから。
「あぁ~っいいよっいい!」
何なんだ、こいつ…。
「なんだ、って顔してるね、いいよ言ってあげましょう、そうしましょう」
私の考えていた感情がそのまま顔に出ていたのか、話してくれるといったこの男に私は耳を傾けた。
「それはね、ミッシェル様、あなたがずいぶん人が変わられたから、何事かと思って見ていたんだよここ二週間ぐらい」
―それは私が頭を強打して前世を思い出した時から、ということか。
「そしたらあらまぁ、びっくり!いきなり喚き散らさなくなるし、人にも物にも当らなくなるし、しまいには大事にしだすし!」
喚きって…。
まぁ、その通りなんだけど。
というかこいつ、調子づいてきたのか段々敬語じゃなくなってきている。んまぁ良いけど。
「しかも驚いたのがこれだよ!魔法の勉強を独学で、この年でだよ…!?面白すぎでしょ!」
いやぁ~、そのことに関しては誉め言葉としてミッシェルと私できっちり受け取っておきます~。
―ってか声デカい。
もう少し声を抑えてほしいなぁー、なんて。
「しかもしかも!口止めとして―っえ、声?、あぁ、ごめん」
―私のジェスチャーが伝わったようで何よりである。
そしてそいつは一息おいて息巻いていた時の様子とは打って変わって再度話始める。
「―ミッシェル様…、口止め料のために、ここのシェフが作った料理一品、必ずあのメイドのカンナさんって子にやってるでしょう」
―うむ、やっぱりばれているよな。
魔法のことも知っていたし、当たり前なのだけれど。
「それでですね、ミッシェル様、俺と取引しませんか?」
「…私のできる範囲でお願いしますね」
「ふっふふ…!えぇ、えぇ!そうですね…俺も食事の時に料理を一品、お願いできませんかね?」
―は…?
「え、そんなことでいいんですか?」
「はい、いいですよ、その代わりといっても何ですが、今ミッシェル様は魔法を独学ですが学んでいるということで」
「学んでますね…、えーとそれが?」
関係あんのか、今この場面で。
「俺の、というか俺たちの、技、習ってみません?武術の方ですけど」
「………えっ!?!?!?!?ほ、ほんとに!?」
―――い、いやいやそんなうまい話があるわけない。
落ち着け、そして冷静になれ。
そもそもこいつにとってそれをしたってメリットがない。
…てか、『俺たち』って何!?ほかにも居んの!?
習ってみませんか(武術)って、そりゃうれしいけど、使い時がないと思う。
…いや私は今や公爵家の令嬢だから身を守るためにも習っておいた方がいいのか!?
……いや、てか習えるかわからないんだって!
――でも習えるって言ってるし!!
―?????????
「う~ん、ミッシェル様、どう?」
「…代償とか、贄とか、代償とか代償とか代償とかは?」
「う~ん、必要ないかな?さっき言った通りの条件でいいですよ?」
…怪しい。怪しすぎる。
もう顔から怪しい、失礼だが。
「…あのねミッシェル様、これは主に『俺』の考えが強いんだけど」
「へい…?」
「俺は人生を楽しみたいと思っているんだよ、公爵家の令嬢さんに俺たちの技を教えるってことは楽しそうだとは思わない?」
…それは、なんというか。
「楽しそう…」
「ねっ、決まり」
そいつがこちらに手を差し伸べてきた。
握手か。
対等の関係でいいのだろうか。本当に。
私が迷っているのも気にせずそいつは私の小さい手を強く握ってきた、決して痛くはなかったが。
「俺の名前を言ってなかったね」
―こんな小さな子供に武術を教えようなんざ、趣味がいいこって。
「俺の名前はネイビス、よろしくお願いしますね、ミッシェル様」
また遅くなります、早くダラダラしたい。




