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――ああ、腹が立つ!
煌びやかな建物の一室で事件は起きていた。
「も、申し訳ありません!すぐに片づけますのでどうかお許しを!」
一人の少女がメイドに対して激怒していた。
そのメイドの名前はカノン、その少女の専属メイドであった。
カノンは顔を青ざめさせ、謝りながら小刻みに震えている。
「お許しを!じゃないわよ!私はこれがいいのに!!これじゃなきゃダメなのに!何してくれたわけ!?」
――どうやら事の発端はこうらしい。
その少女は緊張のあまり、喉が渇いていた。
喉が渇いた少女は専属メイドのカノンに飲み物を要求した。彼女のお気に入りのシリテラジュースを。
シリテラジュースとはこちらで言うオレンジジュースのようなものだ。
―――この服は王子様が、かわいいよ、君にとても似合う、と褒めてくださったドレスなのに!
「あなた!なんでもっと注意しないわけ!?ここはわたくしの部屋なの!わたくしがいるの!扉の所に居ても不思議じゃないのよ!」
そう、わたくしは、わたくしの部屋のドアの前に居ただけ。正確に言えばドアの近くにあったお化粧直しの鏡台の前に居ただけ。
そこにこの駄メイドがぶつかってきた。
そう、これはどう考えてもこいつが悪い!
「もう少し考えなさいよ!この低能!」
ああ!腹が立つ!全く、この駄メイドは!
――どうやら彼女のお気に入りのドレスをメイドのカノンが汚してしまったらしい。
その日はなんと珍しく、王太子とのお茶会の日だった。
気合を入れて着替えたドレスを汚されてしまって少女は激怒しているようだった。
「それと!申し訳ない、と思っているのなら早く動いてくださいませ!?ほら、今にもわたくしの大切なドレスにシリテラジュースが染み込んでいるのよ、それともあなた、弁償できるの!?」
その女は顔に青筋を立てて震えだした。
――何なの!そうしたいのはわたくしの方なの!腹が立つわ!!
「少なくとも!!あなたには払える額ではないでしょうけど!分かったなら早く動いて頂戴!」
声をかけるとそれは、失礼しますっ、と声をかけてパタパタとせわしなく動き出した。
―駄メイドがせわしなく動き回るのも!わたしの機嫌を取ろうとして周りに居るほかのメイド達も!
目障りだわ!
どれもこれも!
どいつもこいつも!!!!!!
むかつくむかつくむかつくむかつく!!
ああ!!もう!こうしていたら余計に喉が渇いてきたわ!!!!!
少女は階段を降りようとした。
その時、
――つるっ
「―へ?」
体が重力に引かれ、徐々に下に落ちていくのを感じた。
(…何故、わたくしは宙に浮いているの?)
――ああ、階段から落ちたのね。
せっかく料理長お手製のジュースを飲みに行こうと思ったのに。
床が水で濡れていて、それで滑ったんだわ。
これはさっき私が投げた花瓶ね。
なんで片づけてないのよ。
なんにせよ、あの駄メイド、ほんとに許さないんだから。
――ゴスッ
そして少女は鈍い音を聞いたと同時に意識を手放した。




