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さて、夜になりました。
あれから悩んだ結果、夕飯を食べるときにカノンさんにお願いしてみようと思いました。
もちろん自分でやろうとしたのだが、どうにも魔力の流れる感覚とかがいまいち分からなかったのだ。
「失礼します、ミッシェル様、夕食をお待ちいたしました」
という言葉と共に部屋のドアがノックされる。
「入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
と入室の許可を下した。
カノンさんと一緒にホカホカのご飯が運ばれてくる。
おいしそうな食事が机の上に並び、食欲をそそった。
…ふむ、どうしようか、飯を食べる前に頼んでみるか、食べた後に頼んでみるか。
う~ん、でも早く魔力の流れとやらを知りたいしな~、前に頼んでみるか。
うんそれならっと。
「すいませんカノン、この料理をもう一つお願いできない?」
「へ?あ、はい!すぐに」
お願いしたのはおいしそうな…というより絶対おいしい汁物。
何故かというと、簡潔に表すと、つまりは買収、これで誰にも言わないでねっていうお願いだ。
そして私はカノンさんにおつかい?を頼んでいる間に食事を軽ーく済ませた、脳みそが食事を所望していたのだ、しょうがない。
因みにカノンさん以外メイドさんがいない、好かれてないね、ミッシェル。
カノンさんが急ぎ足で料理をとってきてくれたのかそんなに時間はかからなかった。
そんなに急がなくても大丈夫なのに。
―さて、本題に入りたいと思います。
「カノン、そこに座りなさい」
するとカノンさんはこの言葉の意味どう解釈したのか、びくっと肩を揺らし、目には恐怖の色を浮かべた。
そして謝罪の言葉を口にする。
「も、申し訳ありません…!!何か粗相が―」
「いいから、座りんさい」
私はカノンさんの言葉を遮る、少し言葉には圧を加えてしまったが言うことを聞いてくれたので良しとする。といってもわたしの側に膝をつき首を垂れるというシチュエーションだが。
…まあ圧を加えたのは悪かったけど、でも、こうでもしないとこの人、いつまでも謝罪の言葉を言い続けるんだよ。
―本来、身分の差とか、礼儀がどうの、とかあるのだろうがここには私たち二人しかいない。
後から他の人が入ってくる心配もない。ましてや元?今も?暴君の私の命令には絶対逆らえないのであろう。だからきちんと椅子に座らせた、真向いの。
まぁ、こういう状況だからこそガタガタにカノンさん震えてるんだろうけどさ。
「さて、まずカノンをここに座らせたのはある理由があってだね」
「…はい…!」
行き詰ったように声を発し、私が次に発する言葉を必死になって待っている。
うーん、やりにくいけどまあいいか。
「君、魔法は使えるよね」
「―へ??――あっ、は、はい!」
すると素っ頓狂な声を上げた。
―うん、カノンさんはこうでなくちゃ。
「うん、生活魔法?だったっけ、それとか、ほかの魔法も使えるの見てたし、んで、そんなカノンさ――カノンにお願いがあるんだよ」
「…」
カノンさんは息をのみ身構えた。
「私―わたくし、魔法を使いたくてよ、だからわたくしの体に魔力、流しなさいな」
あー、素に戻りてぇなぁ、とか考えていたら、カノンさんから返事が帰ってこなかった。
「どうしたの?」
声を掛けたら素に戻ったみたいで、だけど何か言いたそうにもじもじしている。
何かな?トイレ行きたいのかな?とかふざけた思考回路にいきそうになるもここは真面目になった。
「駄目かな?」
っと言葉を再び私がかければ、言いづらそうな面持ちでカノンさんは言葉をつないだ。
「た、大変申し上げにくいのですが、魔法の仕様は10歳になられてからの方がいいのではないでしょうか…!?」
続けてカノンさんは言う。
「魔法は絶対10歳になってから、というものではありませんが、極めて危険なのです…!そこのご理解をどうか―!」
「うん、知ってるよ」
「―へ?」
うん、これ実は知っている。
魔法を使うにあたって、魔力は必要なものだ。
そしてその魔力は器のようなものに収まっているという。その器の質と器量によって魔力がどういうものか決まってくるんだそうだ。
しかし、その器は早くても10歳ぐらいにしか安定しないんだと。
もし安定しないまま魔力を発動してしまうと魔力を暴走させてしまって、器が壊れてしまうんだと。で、もう魔法が使えなくなってしまうそうだ。
最初、この文章を読んだとき私は絶望した。
でも私は賭けることにした。
ミッシェルの器というものは恐らくだが最高峰といってもいいのではないかと。
幼女なのにこれだけの魔力を保持しているのだからきっと魔力が暴走してしまっても耐えきれるんじゃないかと。いや、もちろんそんな状況には極力なりたくないけどさ。
でもでも、せっかく異世界転生したんなら魔法使いたいじゃん!!!!!
もう欲が止まんねぇよ!!!はっきり言ってよぉ!!
んだからさ、
「で、ではなぜ―」
「ねぇ、カノンさん、お願いできない?…危険なのは知ってる、でも私は、魔法を使いたい―」
使いたい。本当に使いたい。
頼みの綱はもうカノンさん、あなたしかいないんだよ。
お願いだよ。
と、私の熱意が伝わったのか分からないが、カノンさんは言った。
「…承知いたしました、お嬢様の願いとあらば―」
私の顔をきっちりと見つめ、正面から、揺ぎ無く伝える。
「このメイドカノン、そのお役目、務めさせていただきます。
―――…しゃぁらぁ!!!!
私は心の中で、ではあるが天高くガッツポーズをしたのであった。