イヌになれなかったネコ
あるイヌのふうふの家に、ネコの赤ちゃんが生まれました。
「おや。なんてかわいいイヌだろう」
「よしよし。はやく大きくおなり」
イヌのおとうさんとおかあさんは、ネコをイヌだと思ってしまいました。
そしてそのかんちがいをしたまま、そだてはじめてしまいました。
何日かたつと、おかしなことがおこりはじめました。
「にゃー、にゃー」
赤ちゃんが、まるでネコのような声でなくのです。
「おかしいな。この子はイヌなのに、まるでネコみたいななきごえだぞ」
「そんなはずないわ。この子はわたしたちイヌから生まれた子だもの。イヌにちがいないわ」
それでもネコはネコなので、ネコのなきごえしかあげられません。
「にゃー、にゃー」
「ほら、わんってないてごらん?」
「そうよ。あなたはイヌなんだから。わんってなくのよ」
ネコはくびをかしげました。
「わんってなくなんておかしいよ。なきごえは、にゃーでしょ?」
おとうさんとおかあさんはおこりました。
「にゃー、じゃない。わんってなくんだ」
「そうよ。あなたはイヌなんだから」
ネコの赤ちゃんは、なみだをながしながらさけびました。
「わん、わん! これでいい?」
☆ ☆ ☆
しばらくすると、ネコの赤ちゃんは大きくなって、がっこうにかようようになりました。
まわりはみんなイヌです。
ネコの子はどきどきしてきました。
「みんなとおなじようにできるかな?」
しかし、ネコの子はネコなので、イヌの子たちとはちがうことを考えたり、するようになってしまいました。
「さあみんな、じっとして先生のおはなしをきいているんだよ」
しかし、ネコの子はそんなことはたえられません。
「つまんない。そんなことより、そとへいってあそぼうよ!」
ネコの子はきょうしつをとび出していってしまいました。
先生はかんかんです。
「どうしてじっとしていられないんだ!」
「ごめんなさい。でもそとでちょうちょをおいかけてたほうが、たのしいとおもったんです」
先生はイヌのおとうさんとおかあさんを、がっこうによびだしました。
「あなたたちのお子さんは、どうもイヌらしくありませんね」
「そんなことありません。わたしたちイヌから生まれたのですから、イヌにきまっています」
「そうです。先生、どうかあの子をもっとイヌらしくしてやってください」
ネコの子はネコなのに、先生もおとうさんもおかあさんも、みんなネコの子をイヌにしたがっているようでした。
先生はいいました。
「いいかい、もうじゅぎょうちゅうに外へいってはいけないよ。わかったね?」
「はい」
ネコの子はしょぼんとしていいました。
☆ ☆ ☆
そのあとも、ネコはイヌとしてふるまえるように、がんばりつづけました。
でもネコはネコなので、やっぱりうまくいきません。
「あーあ、どうしてぼくはみんなと同じようにできないんだろう」
あるとき、ネコの子はまちであるものを見つけました。
それはネコの女の子でした。
ネコの女の子はかっこよく、へいのうえによじのぼったり、そのうえを歩いていきます。
「うわあ、すごい!」
ネコの子はきらきらした目でいいました。
するとネコの女の子は、ネコの子にのぼってくるようにいいました。
「あなたもやってみたらいいじゃない」
「いいの?」
ネコの子はきらきらした目のまま、へいにちかよりました。
「どうやるの?」
「あなたネコなんだから、きかなくたってわかるでしょ?」
ネコの子はくびをかしげました。
「ぼくがネコ? ぼくはイヌだって、おとうさんもおかあさんも言ってたよ」
「イヌですって? どう見たってネコよ」
「ぼくがネコ」
「そう。わたしはネコ。あなたもネコ。だからこうしてわたしのように、へいにのぼれるはずよ」
ネコの子はゆうきを出してのぼってみました。
するとどうでしょう。ネコの女の子のようにするりとのぼれたではありませんか。
「わあ、やったあ!」
「ほら、できたじゃない」
「うん。ありがとう。ねえ、ぼくと友だちになってくれない?」
「いいわよ」
ネコの子はそれ以来、ネコの女の子とすっかり仲よくなりました。
☆ ☆ ☆
しばらくすると、ネコの子はさらに大きくなりました。
イヌのおとうさんとおかあさんは、ネコの子がさいきんすっかりイヌらしくなくなったので、とてもしんぱいしていました。
「おい、どうしたんだ? さいきんちょっとおかしいぞ」
「そうよ。まるでネコみたいなことばかりして」
ネコの子はがっこうにもいかず、へいのうえによじのぼったり、木にのぼったり、トリやネズミをつかまえることばかりするようになっていました。
がっこうではイヌとしてのべんきょうしかおしえてくれないので、ネコとしてのべんきょうをするならじぶんでするしかないとおもったのです。
ネコの子は、友だちになったネコの女の子や、またほかのネコの子とべんきょうすることもありました。
「おとうさん、おかあさん。じつはぼくはネコだったんだ。だからこれからはネコとして生きていくよ」
ネコの子がそういうと、イヌのおとうさんとおかあさんは、ものすごくびっくりしました。
「なんだって!? おまえがネコ?」
「なんで。わたしたちおやがイヌなのに、子どものあなたがネコなのよ!」
「ぼくにもわからないよ。でも、やっぱりネコなんだって気づいたんだ」
イヌのおとうさんとおかあさんは、かおをみあわせました。
「そうか。うまれたときからもしかして、とはおもっていたが、やっぱりそうだったか」
「あなたはネコなのね。いままでイヌとしてそだててしまってごめんなさい」
ネコの子はにっこりわらいました。
「ううん。いいよ。ぼくもとちゅうまでイヌだっておもってたから。でも、これからはネコとして生きていく。でも、ぼくがおとうさんとおかあさんの子どもであるっていうのはかわらないからね」
「ああ、わかった」
「これから、がんばるのよ」
ネコの子と、おとうさんとおかあさんは、ぎゅっとだきしめあいました。
☆ ☆ ☆
それからまたしばらくして、ネコの子はすっかり大人になりました。
ネコは、ネコのがっこうの先生になりました。
「はーい。じゃあみんな、きょうはこれからおそとでちょうちょをおいかけましょう!」
ネコのせいとたちは、みんないっせいにそとへ出ていきます。
ネコの、ネコによる、ネコのためのがっこう。
そんながっこうができたのでした。
そこでは、へいにのぼるじゅぎょうや、つめのとぎかた、からだをきれいにするほうほう、それからえもののつかまえかたなどをべんきょうすることができました。
ネコはネコの子どもたちが、たのしそうにちょうちょをおいかけているのを見て、こころからわらいました。
「あははは。みんながんばれー!」
イヌになれなかったネコは、じぶんがいまネコらしく生きられていることを、とてもうれしくおもいましたとさ。
おわり