表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

とある街の日常

彼女には叔父で兄の家族がいる

作者: 火戸野 護生

登場人物


鳴無 奏多 社会人

鳴無 斥音 中2




中火にかけた鍋を見つめる。

一口大に切った馬鈴薯、人参、豚肉をかき混ぜて、カレールーを落とす。

味見はできないから、ちゃんときっかりレシピ通りに作る。

1gも間違えないし、大きさだってちゃんと揃えた。

ゆっくりとルーが溶けて色が変わっていく。

昔、泥水?と奏多に聞いて盛大に怒られたことを思い出した。

そのまま蓋をして、中火を弱火に落とす。

まだ眠っているだろう奏多を起こしに、キッチンから離れた。



ダークブラウンの扉を2回叩く。

中からは何の物音も聞こえない。

もう一度、さっきよりも強く、叩くがやはり音はしなかった。


「奏多!かーなーたー!!起きないとごはんなくなるよ!」


声を張り上げてみるが、反応はない。

ごはんが無くなるなんて、そんなことはしないけれど、それでも、そろそろ起きてもらわないと困る。

仕事に遅れて困るのは奏多だけど、私にも明日の準備があるのだ。


「……兄さん、嫌いになるよ」


ぼそりと呟いた言葉に初めて部屋から物音がした。




《どんなご用命でも相談承ります!なにかあったらWR社へ!》


テレビから溌剌とした声で主張するCMに顔をしかめる。

東第二港に本社を構える、WR社は奏多と父さんが勤めている会社だ。

将来的に、私もそこに就職したいとは思っているけれど、あんなに元気に客寄せをする意味がわからない。

そんなことをしなくても、あの会社は世界で1番有名な何でも屋だ。


「いつもと同じで、8時には帰ってくる?」

「あぁ。多分。よほどの事がなければ」

「わかった。私は学校に行ってるから、洗い物、任せるね」


出来上がったカレーをよそい、奏多の前に置けば彼は綺麗な仕草で頂きます、と呟いた。

私には対面に座り、自分のご飯に手を伸ばした。



奏多を見送って楽しみにしていた音楽番組にチャンネルを切り替える。

奏多はあんまりこういう番組が好きじゃないし、斥音も奏多が居るときはあんまり見ない。

けれど、今日は違う。

奏多は居ないし、どうしても見たいグループが出る。

待ちに待った至福の時間だ。


「あ~……かっこいいなぁ」


テレビは丁度流行りの、斥音が見たかったグループを流す。使徒、なんて大層な名前のそのグループは男性5人組で、皆それぞれ顔が良い。

斥音はボーカルのフォクさんが好きだ。今もセンターで歌ってる姿がとてつもなく格好良い。

ファンクラブもなく、ライブも事前告知は一週間前、しかも前売りなしの非常に変わったグループではあるが、それでも人気が高いのは、全員がとてつもなく美形で、格好良いからだと、斥音は勝手に思っている。

バチリ、とフォクさんがウィンクを決め、くるりとターンする。体の動きに合わせて襟足のところで1本に束ねた長い黒髪が、獣尾の様にゆらめく。

斥音にはフォクさんのこの姿が堪らない。


「……もう、死んでも良い……あ、やっぱりダメ……ライブ、ライブみたい」


食い入るように画面を見つめ、フォクさんを、使徒の姿を目に焼き付ける。

楽しい時間はあっという間に終わり、トークにと移る。

彼らはトークもまた面白かった。

主に喋るのはリーダーのエアさんと、癖のある話し方のネロさん。そして兄貴肌のダーディさんだ。

この3人でテンポの良い会話を繰り広げていく。

フォクさんはあまりトークに参加しないが、鋭いツッコミが時々冴え渡り、それがまた笑いと会話に繋がっていくのだ。 そんなところも格好いいとニヤケ顔で画面を見ていた。


《ではここで、使徒さんから重大なお知らせだそうです》


司会役の言葉に反射で顔を上げる。

重大発表……新しいライブか、いや、まだ全国ライブはしていないからそれかもしれない。

いやいや、もしかしたらドラマに出るとか。だってあんなに格好良いんだからそろそろ出てもおかしくない。

むしろ誰か結婚するとか?!しゅ、祝福するので活動は続けてください!お願いします!

様々な思いが斥音の胸の中で暴れる。

テレビはエアさんをアップで写す。あぁ、アップで写すならフォクさんを!!


《はい、実は僕たちの後輩?弟分?《後輩》うん。後輩グループが出ることになりました!》


こ う は い ?!

なんということだろう。彼らは大手事務所所属ではなく、むしろ彼ら自身が自己の事務所を立ち上げているのに!後輩!にゅーふぇいす!

心拍数がおかしな事になっている自信があった。


《後輩!それは嬉しいですね!あ、では使徒としての活動は自粛されるのですか?》


自粛は止めてください!!高ぶれば良いのか、落ち込めば良いのかわからなくなってくる。

使徒の次の発言に戦々恐々としてしまう。

もう斥音は大人しく座っていることもできずに立ったり座ったりを繰り返した。


《まさか。僕たちも変わらずに活動していきますので、どうぞ宜しくお願いします》


おお!神よ!!

ありがとう、ありがとうと蹲りながら斥音はなんども信じてもいない神様に感謝した。

これで使徒の次のライブがお別れライブにならなくて良かった!後輩グループを恨まずにすんで良かった!!


《後輩は6人組なんですけど、ちょっと個性が強いというか。……まぁ、喧嘩することもあるようなグループですが、仲は悪くないので、どうぞ彼らのことも応援してあげてください……名前は、》


エアさんの言葉にのろのろと顔を上げる。

そうだ、せめて後輩さんの名前だけでも覚えなければ。

画面はいつの間にか使徒全員を写している。

この中で、エアさんの顔が楽しそうに歪む。

あ、この顔はいつもライブで見ている。ろくでもないことを考えているときと同じだ。


《ガードナーです》


破裂音と共に画面が切り替わった。







さっきから狂ったように着信を繰り返す端末が怖い。


「凄くない?全部妹ちゃんだよね?」

「正確には姪です。俺はまだ妹と認めてない」

「あーらら、かーわいそう。……はいはい。そんなに睨みなさんなって」


着信がトークアプリに代わり、無茶苦茶な乱文、むしろ文とも読めないようなものまで送られてきた。

いい加減寝ろと思うが、まぁ、しょうがない。


「よ!初出演おめっとーさん!」

「海斗さん!お疲れ様です」

「お疲れ様です。そっちの控え室は良いんですか?」

「うん。俺らんとこは皆撤収準備終わっとん。やけ、顔見に」


ドアが開いたかと思えば、だて眼鏡を掛けた海斗さんが入ってきた。

近くの椅子に案内するが、すぐに戻るとの事で断られた。

と、ほぼ同時に後ろから蒼さんが紅さんの手を引いて挨拶回りから帰って来た。


「あ、お疲れ様です海斗さん。紅さんも、ほら、しゃんとしてください」

「うぅ……疲れたんだって……あ、よー。海斗。どうだった?俺達」

「ばっちぐー!やで!」


海斗さんが朗らかに笑う。その姿に少しだけ、肩の力が抜ける。

柄にもないことをしたのだ。緊張でまだ腹が痛い。


「君ら2人にはなんも心配しとなかったけど、後のがなぁ」

「僕らはこういう所に来ないですからね」

「最初はなんの冗談かと思った」

「俺も。兄さんにバレるかもって思ったけどまだ連絡ないんで、きっとバレてないんですよ!やっぱり紅さんのアイディアは流石です!」

「だろー?もっと俺を褒め称えろ!」

「調子にのらないでくださいよ、まったく……」

「うんうん。皆よー頑張ってた!文句なし!奏多も、君、本番前まであない帰る、詐欺だ、騙したな!って言ってたんに、一等ノリノリやったやん」


「……俺はテレビに出るとは聞いてなかったんですよ」


海斗さんの言葉に、俺はおもいっきりの不満を突きつけた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ