表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

Sieben

 女性は掴んだ本を小屋の隅に投げ捨てる。少女はわけもわからず女性の動作を見届けた後、不快感のある腹部に視線を落とした。次の瞬間、焼けるような痛みが少女の下腹部を襲った。

「あ、熱い! 痛い、痛い痛い痛い痛い!」

 少女はお腹を抱えるようにして、その場にうずくまって激しく悶えた。一方、女性は嘆息して、少女が息を荒げてのたうち回る様子を見守り続けた。助けを乞う声にも耳を貸さず、ただただ一部始終を眺めていたのだ。やがて、少女の動きも落ち着いてきたころ、女性はまだ呼吸も整っていない少女の脇に屈んで囁いた。

「お疲れ様。ようこそこちら側へ」

 朦朧とする意識の中で、脳内に反響する女性の声はどこか優しく、見たこともない母のそれを彷彿させた。

「お母さん……」

 止め処なく溢れる涙と唾液に塗れた顔で、熱を帯びた口腔に鉄の味を噛みしめながら、浅い呼吸にのせて漏れた言葉。それは、様子を見ていた女性も、少女自身でさえも、思いもよらないものだった。

 少女の荒い息づかいだけが聞こえる小屋の中。女性は立ち上がり、小屋の隅、本を投げた方へと移動した。そこで床に広がった汚い本を拾い上げると、また少女の傍に戻る。

「時間はできたな。本はやるから、後は自分でやんな」

 女性はそう言って本を、すすり泣く少女の顔の前に置いた。

「それから、あんたにはこれも渡しておかないといけない、な」

 コートの懐から高級そうな光沢を放つ紙に箔押しされた封筒を、本の上に重ねておいた。そして、俯いて首を振りながら軽く溜め息をつくと、踵を返して崩れかけ小屋から出て行った。

 まだはっきりとしない少女の視界には、沈みかけた夕日がキラキラと輝いて映った。

※次回は、7月20日に公開予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ