Sechs
己の無力さと存在価値の低さを憂いて床に臥したとき、夕日の差し込む小屋を訪ねる人があった。立て付けの悪い扉をガタガタと揺らす相手に対して、自分を連れ戻しに来たのか、またはどこかへ連れて行かれるのか、先の見えない状況が迫った少女は物陰で肩を震わせていた。
扉を蹴破るようにして無理矢理侵入してきたのは、毛皮のコートに身を包んだ女性だった。その女性は何かを探して小屋中を漁り始めた。少女は、いつ自分が見つかるのか分からない状況で毛布にくるまって全身に冷や汗をかいていた。
探し物が見つからず苛立ち始めた女性は、周りにあった壊れた椅子や机を蹴飛ばして怒鳴り声をあげた。少女は破壊音が小屋に響く度に、心臓が止まりそうになって気味の悪い本を強く抱きしめた。
もし、神様がいるならば、私をお守りください。そう祈りを捧げたのも束の間、気が付いたときには毛布を剥ぎ取られていた。
顔をあげた少女は、口元を緩めた毛皮のコートの女性と目が合った。蛇に睨まれた蛙のように全身が強張って、無意識のうちに奥歯がガチガチと鳴る。少女の呼吸と共に漏れる小さな嗚咽が、女性の気に障ったのだろうか、眉根を寄せて吐き捨てるように少女に声をかける。
「その本をこっちによこしな」
毛布を足元に捨てて、少女の返事を待たずに手を伸ばす。そして、女性が本に触れようとしたとき、少女が抱きしめていた本から鉱物油のようなものが染み出して、少女の腹部から下を汚した。女性は驚いて本に触れるのを一瞬ためらったが、すぐに決心して勢いよく本を取り上げた。本から染み出していた鉱物油のような液体は少女の腹部から糸を引いて、女性が引き抜いた拍子に撒き散らされた。
※次回は、7月13日に公開予定です。