Drei
冷たい石造りの部屋から伸びる錆びた鎖。その先端に備えられた手錠によって、白くて細い少女の両手は自由を奪われていた。鎖の根元は彼女の身長よりも高い位置にあり、しゃがむことすら許されない体制が、幼い身体には大きな負担を強いていた。壁にあけられた通風用の小さな穴から、流れ込む夜の冷気が彼女の衰弱に拍車をかける。その虚ろな瞳には、拷問で自身の血液が飛び散った床と、生傷だらけの小さな足が映っていた。
自身の運命を憂いた泣き声も、いまや枯れ果てた喉からは、掠れた吐息がわずかに漏れるだけで、それは薄暗がりに小さく木霊する。反響に交じって、鉄製の甲冑が擦れる金属音が聞こえた。その音は少女の心的外傷を再び想起させ、不自然な発汗と嗚咽をともなう震えが少女を襲う。徐々に大きくなる金属音が少女に残った理性を削り取り、月明かりに照らされた白く細い大腿をつたって、刺激臭を放つ温かい黄透明の液体が滴った。羞恥心からか少女の瞳には大粒の涙が浮かぶ。そして、恐怖の種は少女の繋がれた牢の鉄格子の前で止まった。
錠前の開く音を聞いた少女は、もう何度目だか分からない、陰惨を極める出来事の再来を覚悟して、その身を委ねた。しかし、鉄格子を開いた甲冑の主は、いつもと様子が異なっていた。厚手の毛布を小脇に抱えたまま、何やら辺りを窺うようにして、物音を立てまいと静かに牢の中に入ってくる。そして、少女の両腕の自由を奪っていた金具の拘束を解いた。解放された少女はすぐに立つことができず、自身の排泄物の上に落っこちてしまった。飛び散る汚物に若干怯んだ甲冑の者は、慌てて少女の脇を抱えて支え起こし、抱えていた毛布を頭から被せて牢の外へと運び出した。何が起きているのか理解できない少女は、その者の行為に対してなすがままだった。
※次回は、6月22日に公開予定です。