第五と二分の一章
第五と二分の一章
ストレートの黒髪を一つに束ね、細目の黒縁メガネがなんとも真面目臭い。
河原で姫乃と話していたのは、このサエコという女だった。
姫乃曰わく見た目通りの真面目なヤツらしい。
幼稚園からの知り合いで、姫乃がイタズラするたびに注意してきて、姫乃にとってはタメのくせに母親みたいなヤツという事だ。
それだけ仲も良く、大事な友人という事だろう。勝手な想像だけどね。
サエコとはあの日以来、学校で会うと少し話す様になったのだが、ほんっとに真面目で、ギャグも通じない。オレにとっては少々苦手なキャラになりつつあった。
よくこのキャラで姫乃と付き合ってこれたなと思ってしまう。
しかし、このサエコと仲良くなるキッカケが二年生も終わりの、とある放課後にあった。
その日オレはいつもの様に、コタッキーとやべっちと共にパイオツに寄って帰ろうとしていた。
そこへサエコが来て「あの・・・、ハムカツパンを買いに行かれるのなら私の分も御一緒に買って来て頂けないでしょうか?」
オレ達にハムカツパンを買って来て欲しいと言ってきた。
ちょうど行こうとしてたから一緒に行こうか?と聞いたのだが、「私、あのお店は少々不衛生に思えて、あまり入店したくないんです。」
サエコはどうやら潔癖症らしい。
「でもハムカツパンは食べたい感じだったりしちゃう訳だ?」
コタッキーがいつもの調子で聞く。
「いえ・・・最近姫乃が体調崩しているので、お見舞いに持って行こうと思いまして・・・、あの子ハムカツパン大好きですから。」
そう言えば最近姫乃を見ていない。体調悪かったんだ。
アイツの事だからまた焚き火でもしてるんだと思ったよ。教室でもいないのが普通だもんな。
「じゃあ、買ってくるよ。ちょっと待っててね。」
買いに行こうとしたオレ達をサエコは呼び止め財布を出した。
「お代を・・・」
小銭を探しているサエコの財布は今時女子高生が持つには、ふさわしくないブタの顔の形をした財布だった。
「何その財布?超ウケんですけどぉ。」
「ちょっと見せて見せて。」
やべっちとコタッキーはブタの財布に食いつき、二人でケラケラ笑いながら財布を見ている。
ちょっとサエコが可哀相だなと思いきや、サエコは笑顔で「私、ブタさん大好きなんですよ。可愛いですよね。知ってました?ブタさんってああ見えて、実はスゴい綺麗好きなんですよ。」
知ってる訳ないでしょ。そんなブタ情報。
でもあのサエコが相当なブタ好きだったとは・・・しかも笑われて喜んでるし、さすがは姫乃の幼なじみだ。
「サエコおもしれぇ。超ウケるぅ。ブタに詳しいし」
「ってゆうかサエブーじゃねぇ?」
コタッキーとやべっちが調子に乗って来た。
・・・サエブーって・・・そりゃあまりに可哀相でしょ。
「サエブー・・・なんか可愛いですね。」
オイオイ、受け入れちゃったよ。一応、女の子なんだからブーはよろしくないんじゃないかい?
でも、それ以来サエブーとは仲良くなり、以前より喋りやすくなった。そしてサエブーというあだ名は学校中に自然と広まり、サエブー自身少し明るくなった気がした。