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第四章

第四章


今年は東京に雪が降らないみたいで本当に助かる。地球の温暖化ってヤツは、やはり確実に進んでいるらしい。

しかしながら雪は降らずとも河原ってのは、かなり寒い。

これが夏なら木陰も涼しく、河原も最適なのだが、初春とは言え、まだ寒い河原は人気も無く、とても静かだ。

そんな静かな河原に・・・「焚き火なんて、超懐かしいんだけどぉ。」

「マジ、リアルにあったけぇし。」

この大自然に不釣り合いなギャル男二人がはしゃいでいる。

「ちょっと!そこのバカ二人、静かにしなさいよ。魚が逃げちゃうでしょ。」

いつものように竹竿片手の姫乃はチャラ男二人に軽く説教し始めた。

「だいたいアンタら河原に全然似合ってないのよ。ギャル男と大自然なんて合うわけないじゃない。クリームパン食べながら味噌汁すする位合わないのよ。」

確かに合わないと思うが、どういう例えだよ。ただの食い合わせじゃないのか?

やべっちとコタッキーは聞こえないフリでパラパラを踊り始めていた。

これがガングロで焚き火の前で踊っている為、どこぞのジャングルの原住民の様だ。

「マジ、練習しといた方がいいよ。リアルにクラブで目立てないっしょ。」

完全に引いてるオレに、コタッキーが原住民踊りを勧めてきたが、オレはそんな得体の知れない民族になる気はないので、「こんな所で踊る訳ねぇだろ。」

パラパラなんて踊った事もなく、もちろんこの先も踊る気はないので完全拒否してやった。

悪いヤツらではないのだが、このテンションには流石についていけない。

オレは姫乃と釣りでもしようと岩に隠してある竹竿を借り、川に向かった。

するとコタッキーが、「何、みんなで釣り大会しちゃう感じ?」

「やっちゃう?」

おかしなポーズでやべっちが続く。

オレはパラパラよりはマシとこれに乗った。

オレ達は竿を持ち、姫乃の方へ向かい勝負の話をした。姫乃はニヤリと笑い、「あたしに勝てると思ってんの?負けたらダッシュでハムカツパンだかんね。」

自信満々の姫乃はダッシュという言葉を強調し4人の内、最後まで釣れなかったヤツが罰ゲーム、つまりパイオツまでダッシュしてハムカツパンを買って来るというルールを決めた。


こうしてオレ達の地味ぃでバカな釣り大会が始まった。

オレはとりあえず餌を針に付けようと姫乃に「餌ちょうだい。」と言った。

すると「はぁ?そんなの自分で採りなさいよ。」めんどくさそうに言われてしまった。

釣りなんて釣り堀でしかやった事ないオレは、餌が何なのかも知らない。まったく自分で取れって、ドコにあんだよ。

ふと、ギャル男二人を見るとコタッキーとやべっちが川の中の石を裏返して何かを探してる。

「何、探してんの?」

やべっちに聞いてみた。

「川虫に決まってんじゃん。餌ないと釣れないっしょ。」

なるほど、その川虫ってのが餌な訳ね。

オレもこのクソ冷たい川に手を入れ、川虫を採ってみた。

石の裏でワサワサと動いている川虫はかなり気持ち悪い。

しかしこんなギャル男のクセに、こういう事は知ってるんだな、さすがはこっち育ちだ。

「さぁ、付けたら始めるよ。」

姫乃は4人の内、一番川上に立って待っている。

そして餌を付けた順に等間隔で川に立った。

姫乃、コタッキー、やべっち、そしてオレの順だ。

周りから見たら、さぞかしオカシな光景だろう。特に中のギャル男二人は完全に浮いている。


姫乃の「せーの」で四人が釣り糸を垂らし、釣りが始まった。

川に仕掛けを流して糸が伸びきったら、また戻す。基本的にはこの繰り返しだ。

「魚だったら何でもいいんしょ?」

釣り糸を垂らしながらコタッキーが姫乃に聞く。

「そうよ。最後まで釣れなかったヤツが罰ゲームって言ったでしょ?ちなみに大きさは関係ないからね。」

また半ギレだ。コイツはしょっちゅう怒っていて疲れないんだろうか?

さっき教室を出た後のローテンションだったクセに・・・。

それより今は魚を釣らなけばいけない訳で、オレは川の流れに従順なウキをボーっと見つめて、お魚さんがお食事するのを待っている。

さすがにパイオツまでダッシュは正直イヤだし、何よりあのバカ三人分のハムカツパンを買って来なきゃいけないのは、なおイヤだ。


しかしこんなに寒くて魚なんて釣れるのか?初春とは言えど、まだ生物はお休みじゃないのかい?

しかしそんなオレの余計な心配をよそに罰ゲーム免除の第一号が現れた。

コタッキーだ。

「イエーイ!お魚ゲーット!」

コタッキーは器用に魚の口から針をはずし、尾ビレを掴んでピクピクしている15cm程の魚をオレ達に見せびらかした。

「ッチィィッ!」

姫乃の力いっぱいの舌打ちが川下のオレまで聞こえた。よほど悔しかったのだろう。

当のコタッキーは焚き火の方へ行き、冷え切った手を温め始めた。オレも早く焚き火にあたりたい。

「リアルにさみーから早くしようぜー。やべっちまだ釣れねぇの?」

余裕のコタッキーはかなりムカつく。自信があった姫乃は更にムカついてるんだろうな。

そんな事を考えていたら今度はやべっちが、「うぃー、ゲーッツ!」

またもやギャル男か?

やべっちの針には、コタッキーのより少し小さい、10cm位の魚が掛かっていた。

これでやべっちもパシリを免れた。

「もう!なんなのよアンタ達ぃ。」

姫乃は更にイライラしていた。

そりゃそうだろ、言い出しっぺの自分がパイオツまでダッシュしてハムカツパンをオレ達に買ってくるなんて・・・。

そうは言ってもオレだって負ける訳にはいかない。

なんとか魚を釣らなければ・・・。

頑張って釣れるものなのかは分からないが、ひたすら待つしかない。そのとき・・・、ポチャン。

石が川上から飛んできた。

飛んできた方向を見ると姫乃がオレの釣りポイントをめがけ石を投げている。

「バカ!何やってんだよ。卑怯だぞ!」

負けたくないのは分かるが、それは反則だろ。

姫乃は少し移動して何もなかった様に釣りをしている。

あんなバカに負けたくはない。するとオレの竿に動きがあった。流れるウキがピクピクッと沈んだのだ。

オレはそっと竿を上げてみるとビクビクする感覚・・・釣れている。

「キター!イエーイ!」

ガラにもなくハシャいでしまった。

魚が釣れるとはこんなに興奮するもんなのか?さっきのコタッキー達のテンションが分かった気がする。

罰ゲーム免除だ・・・・・・チャポン。

「えっ?」

オレの目から魚が消えていた。

「アハハハハハハ・・・」

一斉に湧き上がる笑い声。

魚は針から外れ川へ帰っていった。

「はい、ノーカウントー!」

姫乃は嬉しそうに叫んで笑っている。コタッキー達に至っては手を叩いて笑い、オレの絶望的な気分を更にどん底へと落とした。

さすがにテンションがた落ちで、どうでもよくなった。

「はぁ・・・」一応また川虫を採ろうと川の石をひっくり返していると、姫乃の叫び声が聞こえた。

「よっしゃあ!ヒットー!」

落とせ、落とせ、そう願ってはみたものの釣り好きの姫乃がそんなミスをする訳もなく、オレの罰ゲームは決定した。



「じゃあハムカツパン、今から10分で買って来てね。」

姫乃は満面の笑みで焚き火にあたっている。

やべっちとコタッキーも、

「オレ、ソース多目でよろしく。」

「じゃあ、オレはコロッケパン。」

超めんどくせぇ。これだったらパラパラでも踊ってたほうが、まだマシだったな。

仕方なくオレはパイオツ目指して走り出した。

あぁ、ほんとめんどくせぇ。



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